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第21話

「とにかくあの数字がまず罠だと思ったんだ」

 フォックスバード邸までの帰り道、道を完璧に覚えていたハイアサースの先導のもと3人は歩く。現代日本人の康大には同じ景色にしか見えないが、生粋の異世界田舎者であるハイアサースには、松明の明かりだけで記憶した道と完璧に照合できた。

「罠……でござるか?」

「ああ、あの時はほとんど直感だったけど、後から理由を考えてみればいくつか思い当たる節があったんだ。まずあんなあからさまな数字が出れば、誰だってカウントダウン……数字が0になったらゴーレムが崩壊すると思う」

「ま、まあそうだな!」

 明らかにそれを理解していなかったハイアサースが、泳いだ目で肯定する。

「……で、残された時間的にも一目散に入ってきた足元の扉に向かうだろう。でもそれって不自然だと思ったんだ。そもそもなんで崩壊するまでの時間を、わざわざ侵入者に知らせるのかって。実際カウントダウンが終わってから本格的な崩壊が始まるまで、かなりの時間があったし」

「侵入者でござるか」

「ああ、入る前のゴーレムの過剰な反応を見るかぎり、そもそも内部に人は入って欲しくないはずなんだ。それにも拘わらず崩壊が始まったら親切に脱出させてあげるなんて、妙じゃないか?」

「確かに……」

 圭阿は歩きながら頷く。

「それであの呪文だ。おそらくあの文字自体にも何らかの力があったんだろうけど、あれはもしものときに作成者だけが逃げられるよう、暗号も隠していたんだ」

「確か、"()、すべきは()にあり、(ほし)(てん)へと(のぼ)る"でしたな」

「ああ。これをそのままの意味で受け取ると師……この場合おそらく魔術師かな、魔術師がするべき事は地にあり、星は天に昇る……ということになる」

「詩的なだけで私には特に意味があるようには思えないが……」

「ああ、この呪文は額面通りに捉えれば特に意味は無い。重要なのはこの呪文に使われた漢字の読みを正しく理解出来るかにある」

「かんじのよみ?」

「ああ、俺の世界で使っている漢字という言葉には、複数の読み方があるんだ。逆に一つの読みに複数の漢字が当てはまることもある。この呪文に関してはまず"師"の部分を同じ読みの別の漢字である"死"に変え、"星"の部分は別の読みである"せい"と読んで、その後同じ読みの別の漢字である"生"に変える。するとどうなるか」

「"死"すべきは地にあり、"生"は天に昇る……でござるか」

「つまり死ぬべき人間は地上に向かい、生きる道は天、上に向かっているという意味になる。おそらく足元の扉まで行けたとしても、扉の鍵は閉まっていたんじゃないかな。何らかの理由で外から入る扉は常に開ける必要があったみたいだけど」

「うーん、なるほど!」

 ハイアサースが納得したようにうんうんと頷く。

 当然あくまで()()()()()、であり実際にそうかは定かではない。

「拙者のような短絡的な者は、そのまま瓦礫に押しつぶされていたというわけでござるか。本当に康大殿と会ってからは、紙一重の選択の連続でござるな」

「俺だって数週間前までは、命がけとはほど遠い生活をしてたんだけどな」

「私は無辜の人々のために日々命をかけているぞ!」

「はいはい」

 康大は適当に相づちを打つ。

「さて、謎も判明したところで後は康大殿達も帰るだけ。ここらでお別れでござるな」

「そういえば圭阿はあの人に仕えてたんだよな。なんか途中から旅の仲間みたいに感じてた。短い間だったけど、本当に世話になった。ありがとう」

 康大は頭を下げる。

 先頭を歩いていたハイアサースも、立ち止まって康大に倣い頭を下げた。

 2人の恭しい態度に圭阿は、「そのようなことをされるとこちらも困るでござる」と恐縮しきりだった。

「康大殿とは元の世界の話など、まだまだ色々話し足りぬでござるが、拙者も主ある身。互い壮健ならまたどこかで会うこともござろう。然らば御免!」

 圭阿はそう言うと、夜の森の中を走ってどこかに行ってしまった。その脚力を見るに、今まで康大達のスピードに合わせてくれたのだろう。正確には牛歩のような康大に。

「面白い奴だったな。初めて会った時はどうなることかと思ったけど」

「ああ」

 ハイアサースの言葉に康大も頷く。

 やがて2人がフォックスバード邸に到着した頃、長い夜も明けた。

「お、お帰りなさいっス!」

 康大がノッカーを叩くと先に帰っていたダイランドが2人を迎える。

「ただい――」

 ま、まで言えただろうか。

 康大は家に入るのと同時に体力が完全に尽き、そのまま深い眠りに落ちるのだった……。

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