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第16話

 2人を放り込んだ後、圭阿は滑るように扉の中に入り、それと同時に扉を閉めた。緩慢なアンデッドの動きでは入れるとも思えなかったが、用心に越したことはない。

「痛て……」

 それから1分ほどしてようやく康大が立ち上がる。圭阿の豪快すぎる扱いで身体の節々が痛い。

 文句の一つも言いたいところだが、康大にはその余裕も権利もない。ここに連れて行けと言ったのは他ならぬ自分だ。

 しかも体内には入れたからといって、未だ試練が終わったわけでもなかった。

「見た目だけじゃなく、中もご丁寧にお城みたいだな。誰の為なのか、魔法的なランプまで灯されてるし。フォックスバードさんの話によると、高いんだろこれ? まさかこれが財宝ってことは無いよな。まあ今の俺達はただ目の前にある階段を――」

 ――登るだけと言いかけた瞬間、不意に身体が押しつぶされる感覚に襲われる。そこでハイアサースもようやく目を覚まし「なんだべ!?」と、見本のような驚きを見せた。

(これってエレベーターで急上昇した時と全く同じ感覚なんだが……)

 嫌な予感がした。

 康大は理由を考える前に、2人に「近くのものにつかまれ!」と指示を出す。

 言われたハイアサースと圭阿はすぐにそれに従った。

 それから1秒も経たないうちに、今度は急激な浮遊感に襲われる。

(やっぱり!)

 康大が全てを理解した同時に、猛烈な衝撃が3人を襲った。もし康大の指示通り何かに捕まっていなければ、天井まで身体が移動した後、思い切り床に叩き落とされていただろう。

「これは一体!?」

「おそらくゴーレムが足元のアンデッドを踏みつぶすために、足を上げて下ろしたんだ。腕よりも足の方が効率的だからな。それに気付かれる前にこうして中に入り込めて良かったよ」

「な、なるほど……。康大殿は良くそれを察することが出来ましたな」

「まあエレベーターに乗ったことがあるのって、この中じゃ俺ぐらいだろうし」

 康大はその経験から、実際に様子を見ずとも上下動にすぐに考えを至らせることが出来た。

「とにかくこのまま中に留まっていてもどうしようもない。待ったところで落ち着くかどうかも分からないし、可能な限り上に登ろう」

「御意」

「そうだな」

 2人の賛同を得られたことで、康大は頷き階段を上る。ゴーレムという形状を考えてか、階段は壁に沿って作られた螺旋階段で、少なくとも股下あたりまでは続いていた。何事もなければ1分で充分登り切れる高さだが、ゴーレムの踏みつぶしがこれからどれだけあるか分からず、時間の予測は立てられない。3人は先のことはあまり考えず、とにかく慎重に登る。

「そういえば、拙者まだ薬草のことについては聞いていなかったでござる」

 階段も中程、上下動も5,6回ほど繰り返されたところで、圭阿が思いだしたように尋ねてくる。この辺りまで来ると、階段から落ちればただでは済まず、進みもより慎重になっていた。

「そうだな……確か、黄金色の花で……」

「出たら目言うな」

 適当に答えたハイアサースを康大がすぐに窘める。冗談ではなく本気で言っているからよりタチが悪い。

「正確には草の根だ。緑色の草で花は無く形状に特筆すべき点はないが、葉や幹が常にうねうねと動いているらしいから、見ればすぐに分かるそうだ」

「なるほど。しかしそれはどこにあるんでござろうなあ」

「そうだな……」

 康大は改めて冷静に考えてみる。ゴーレムの巨大さに衝撃を受けてパニック状態になっていたが、落ち着いてみれば推測できないことでもない。その材料となるものは、現時点でもそれなりにあった。

「……緑色の植物である以上光合成で日の光が必要だから、おそらく上の方か外側にあると思う。とはいえ、外側にあったら千切れて無くなっている可能性が高いから、上にヤマを張るしかないな。件の文字についても足元にあったら誰でも自由に弄くれるから、消去法的に上にあると思う。逆の足にあるとは正直考えたくない」

「うむ、そうだな!」

 ハイアサースが自信満々に肯定する。おそらく……というか確実に光合成の意味を理解していないだろうが、康大も無駄な体力を使わないようただ黙っていた。

「まあ保証なんて何一つないけど、行くしかないさ」

「つらいでござるなあ」

 そんなことをしている間にまたゴーレムが足を振り上げる。

 バリアフリーは一切考慮されず手すりすらないため、階段に登ってからは螺旋階段そのものに捕まる。最初のうちは圭阿も同じようにしていたが、途中から慣れたのか持ち前の卓越したバランス感覚で、今では何も持たずに立ったままやり過ごしていた。ハイアサースにはそこまでの運動神経はないが、鎧が重し替わりになり康大よりは未だ楽だった。

(せめてあの巨乳が豪快に揺れる様が見たかったな……)

 そんなことを思いながら康大は必死で螺旋階段に捕まる。

「ここまで来れば後はなんとかなりそうでござるな。それでは拙者は先に行って様子を見てくるでござる」

 2人が腹にそこそこのダメージを受けながら振動をやり過ごすしているのを尻目に、圭阿が階段を駆け上がって行った。

 康大とハイアサースは持って生まれた運動神経の差に呆然とし、また絶望した。

「……俺達は俺達のペースで行こう」

「そうだな……」

 その言葉通り、2人はより慎重に階段を上って行った……。

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