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第15話

「そういえばダイランドが言っていた頭の豚って、結局どんな奴だったんだろうな?」

 康大は不意に隣にいるハイアサースにそんなことを呟いた。

 アンデッドの浄化作業は話しながらでも余裕なのか、ハイアサースは「そうだな」と会話に付き合う。肌の色が戻って、アンデッドにしっかり人間と見なされるようになっても関係が無い。

「ダイランドがあれほど豚豚言っているのだから、それこそ豚のような外見のオーク同然の男なのだろう。そこらへんに死体が転がっているかもしれんな」

「とりあえず死体はないでござるよ」

『うわっ!?』

 いつの間に戻って来たのか、いきなりケイアも会話に加わった。

 戻って来たケイアは全裸にマントというそれまでの格好ではなく、動きやすく丈夫そうななめし革の服を着ていた。おそらく残党を狩るのと平行して、彼らの戦利品も物色していたのだろう。明らかな火事場泥棒だが、返す当ても甲斐もなさそうな相手だったので、康大もあえて文句を言う気は無かった。

 ケイアはハイアサースに借りていたマントを返しながら、それまでの報告を始めた。

「とりあえずあらかた()()()()でござる。しかし件の下郎はいなかったでござるよ。拙者実物を見たことがあるので、間違いないでござる」

「となると逃げたか……」

「お言葉を返すようですが康大殿、拙者はそうは思えんでござる。あの豚は本当に豚なのでござる。人並みの早さで走って逃げられるとは思えんでござる。大方危険を察知し、ここに来る途中で引き返したのでござろう。そういう悪知恵だけは良く回るのでござろう」

「そっか……」

 康大としては今までの悪行の責任を取らせたかった。自分が直接殺すのは辛いが、罪のない人達の為にも死んでもらいたかった。

 だからといって草の根を分けてでも探そうという気にはなれない。康大自身にはそこまで固執するほどの怨みも憎しみもなかった。

(我ながら現金で最悪だな……)

 心の中でため息を吐く。これからこういうため息を何度もしていくことだろう。その度に自己嫌悪に陥ることを考えると、本当にうんざりした。

「まあどうせ豚の足でござるから、お二人が命令すれば拙者がその首狩って――」

 言いかけてケイアが唐突に言葉を止める。

 黙ったケイアは一点を見つめたまま、微動だにしない。

 つられて康大とハイアサースもそちらを見るが、視力のいいハイアサースでも常闇の先に何があるのか分からない。今持っている松明の明かりだけでは、この世界の闇はあまりに深すぎた。

「どうやら豚を捜す必要はなくなったでござるよ」

 表情を一切変えぬのまま、唐突にケイアは言った。

 それからすぐ後、足を揺るがすような地響きに襲われる。さらに遠くの木々が揺れ、そこから鳥たちが飛び立っていった。康大はそれが見られるほど視力が良くないので、ただ音だけが伝わった。

 とはいえ、音と振動が伝わればそれで充分だ。

 規則的に揺れれば、子供でも巨大何かが近づいていることが分かる。

 やがてそれは康大にもはっきりと判別できる距離まで近づいた。

「これがゴーレム……」

 その大きさに康大は唖然とした。誰も形状を知らないぐらいだから、人目につかない大きさで、あってもせいぜい2,3メートル程度のモンスターだと思っていた。しかし今目の前にいるゴーレムはその10倍でもまだ足りない。むしろ何故ここまで巨大なゴーレムをほとんどの人が知らなかったのか、全く理解出来なかった。

 ゴーレムの外見はまさに城だ。煉瓦を積んだような身体に蔦が生い茂り、頭の上には尖塔らしきものまである。

(いやそれどころじゃない、扉まであるじゃないか!)

 ゴーレムの上半身には窓が連なり、足のあたりには出入り口として使うのか扉があった。さらに肩の辺りにはテラスまであり、動かずじっとしていれば本当に城そのものだ。

 さらに良く目をこらせば、ゴーレムの身体にはそこかしこに人の死体がへばりついていた。ゴーレムが意図的に殺したのか、はたまたこの巨体に偶然押しつぶされたのか。康大に理由は分からないが、その一つにまだ新しい人間と豚の合いの子のような死体があった。

 それが誰であるのかはもはや明らかだ。

「素直に逃げてれば良かったものを……」

「ゴーレムの身体には財宝があるという専らの噂でござる。盗賊共はそれを見逃せなかったのでござろう」

「財宝、か。俺達が必要なのは薬草だけどその薬草もどこにあるのか……」

 康大は大きなため息を吐いた。

 ゴーレムの高さはおよそ40メートルほど。

 頭の上の尖塔あたりにあればそこまで登らねばならず、体内……というか城内にあるとしたら、おそらく入口であろうあの扉を開けなければならない。

 幸いにも薬草の詳しい形状はフォックスバードから聞いていたが、ほとんど慰め程度に過ぎない。

「せめてどこに生えてるかだけでも教えて欲しかった……。ていうか、あんなに巨大なのにフォックスバードさんも良く今まで会わなかったな」

「私はむしろこの巨人が逃げるほどのフォックスバード殿の力が恐ろしい」

「なにやら皆様の知り合いに、とんでもない力を持つ御仁がいるご様子。それにしてもさすがにこれは如何したら良いのでござろう? ここは引き替えすべきだと拙者は思うのでござるが……」

「確かにそれが無難だな。でもこいつは1年に1回しかここに来ない。1年間こいつの対処法を考えている間に、ゾンビ化がどうなるか分からないんでね。今やるしかないんだよ」

「そういうことなら拙者から言うべきことござらん。指示に従うでござる」

「それではどうする?」

「とにかくしばらくはゴーレムの様子を見よう。少なくとも進路上にいたらそのまま踏みつぶされる」

 康大の意見にハイアサースもケイアも賛成する。

 今までのルートから教会に向かっている可能性が高いと推測し、3人はとにかく教会から離れた。

 果たしてゴーレムは教会の目の前まで近づき、あと一歩で踏みつぶそうという位置で不意に立ち止まる。

 3人は木陰からしばらく様子を窺っていたが、ゴーレムに全く変化はない。

「どうする?」

「とりあえず拙者が発破をかけてみるでござるよ」

 ハイアサースにそう言うと、ケイアは懐から何かを取り出し、それをゴーレムの顔らしき場所に向かって投げる。素晴らしい速さで進むそれは康大の目には見えなかったが、時代劇などで登場する苦無(クナイ)であった。

 ただ、どんなに速かろうが切れ味が良かろうが、小さな苦無ではゴーレムに与えられるダメージなどたかがしれている。

 それでもゴーレムは苦無いが当たる瞬間、その大きな腕を想像以上のスピードで振り回し苦無を振り払った。

 その直後、苦無が爆発する。どうやら苦無には火薬も仕込まれていたらしい。ここまでのことがあると、しゃべり方といい康大の脳裏にも「忍者」の二文字が浮かぶ。

 火薬による煙が収まった後、ゴーレムは何事もなかったかのように元の態勢に戻った。腕に絡まっている蔦が払われただけで、傷らしい傷も見られない。

「むむ、拙者の爆裂苦無をもってしても、傷一つすらつけられないようでござるな。これは真っ正面から戦うだけ無茶というもの」

「そうだな……ていうかそんな物あるんなら使う前に言えよ! 目的の薬草まで吹っ飛ばしたらどうするつもりだったんだ!」

 康大は一瞬だけ感心したあと、すぐに冷静になった。

「それは申し訳ない。しかしああも機敏に反応されては、こちらが近づくことさえ難しいでござるな。おそらく豚はあの巨体だからと高をくくって近づいたのでござろう」

「どうする?」

「お前はお前でさっきから同じセリフしか言ってないな。しかしゴーレムか。誰かゴーレムに詳しい人でもいればいいんだけど……」

 そう言いながら、ある人間が脳裏に浮かぶ。しかしその人物……ではなく女神は、出来れば頼りたくないし、頼り甲斐が限りなく0に近かった。

 ただ最近の人生の岐路には、必ず立ち会ってきた存在でもあった。

「仕方ない」

 康大は瞼を閉じる。

 あの尊大で横着者の自称女神と会うために……。

《良く来ましたね人の子よ》

 ミーレは社内でもないのに、あの白い衣を纏い、女神然とした態度で康大を待っていた。

 この時間ならどうせ熟睡しているだろうと思っていた康大は、純粋に驚く。

《その顔は、「どうせあのぐーたらのことだから絶対寝てるだろうな、アイツは楽でいいよな」と思っていますね。プププ、女神を侮ってはいけません。女神には○ックスセンス、いえセブンセンシズのような人間離れした直感があるのです》

「もうなんかツッコミ待ちしているように思えてきたけど○の位置! そもそも隠すなら後ろのやつだろ!」

《分かっていますよ人の子よ。貴方はこう言いたいのですね。「付き合ってください超弩級に美しく有能で知性溢れる非の打ち所の無い女神様!」と。そろそろ告白される頃だと思っていました。しかし申し訳ありません、私と貴方では文字通り次元が違います。矮小な人間である貴方では女神たる私とは到底釣り合いません。ですが一億回ぐらい生まれ変わればワンチャン――》

「ゴーレムについて教えて欲しい」

 放っておくと好き放題言いそうだし構えば構うだけ面倒なので、強引に本題に入る。

 ミーレは明らかに不機嫌そうな顔をしたが、質問には答えた。

《ゴーレムって言ったらあれでしょ、でかくて強い泥人形みたいなやつ。アンタ今そんなのと戦ってるの? 異世界ライフエンジョイしてるわね。恐るべきエンジョイ勢だわ》

「エンジョイどころか殺されそうだ。同じ神話的な存在なんだから何か攻略法とか知らないか?」

《自慢じゃないけど超・専・門・外! でも昔物の本で聞いた事があるわ、ゴーレムはある文字を基準に作ってて、倒す時はその文字の一部を消すとどうにかこうにか》

「emeth(真理)とmeth(死んだ)か! こういうの大好きなのに、なんで今まで気付かなかったんだよ!」

《あー、お喜びのところ申し訳ないけど、それってラテン語でしょ? バリバリ日本語使ってる民族の公用語が、ラテン語と同じ言語体系だと?》

「う……」

 康大の喜びは瞬時に冷水を浴びせられる。確かにミーレの言う通り、現実世界の言語がそのままこちらの世界の言語に当てはまるとは思えない。事実、康大はフォックスバードの書いていた字が読めなかった。よしんばラテン語的な外国語で書かれていたとしても、それは決してラテン語ではない。

《だけどまあアタシも()()()()()()を見てきたけど、一つだけ断言できることがあるの。それはどこに行っても本質は変わらないって事。虫は虫だし鳥は鳥だし人は人だった。人はどこまでいっても人が想像できる範囲の人なのよ。その人が作ったものなら、必ず何かしらの共通点はあるわ。結局人は人の殻から逃れることは出来ないし、人は人に対して完全無欠ではあり得ないの》

「……それは海外ドラマの台詞?」

《残念、今やってるソシャゲの台詞でした。アタシってそういうのスキップせずにちゃんと読むタイプなの。でも課金の沼に足を踏み外しそうになってるのに気付いたら教えてね……恋人じゃないけど友達ぐらいの関係でしょ……》

「その時は「馬鹿め」って言ってやるよ。でもサンキューな。とりあえず俺の世界の常識と人間の普遍性に賭けてみることにするわ」

 康大は瞼を開いた。

「なあコータ、お前にはいきなり瞑想を始める癖があるが、いったい何のつもりだ?」

「ああなんてことはないさ。ただ神サマと交信してるだけ」

「あだりめが!? すんげえな……」

 ハイアサースは素直に康大の言葉を信じて仰天した。尤も何一つ嘘はないのだが。

「それで神サマと話して何か良い案は出たでござるか?」

 一方、ケイアの方は全く信じていないのか、小馬鹿にしたような態度で聞いてくる。康大としてはむしろケイアの態度の方が自然だったので、文句を言う気にはなれなかった。

「良い案……というか賭だな。ゴーレムは呪力の籠もった言葉で動いている……と思う。その言葉を別の意味に換えれば何とかなる……はずだ」

「興味深い話でござるが、推論ばかりでござるな」

「仕方ないだろう。これは俺の世界でのゴーレムの話だ。俺はハイアサースと違ってこの世界の住人じゃないんだから」

「ほう、やはり康大殿も異邦人であらせられたか。なにやら他の御仁と空気が違うと思っていたでござるよ。拙者生きている異邦人と会うのは初めてでござる――拙者自身を除いては」

「なんだよ! お前もそうだったのかよ! ということは女神も……」

「しっかりついているでござる。正直この土壇場であんなのに頼る康大殿の神経が信じられなかったでござる」

「まあそれは否定できないな」

 どうやらケイアが小馬鹿にしていたのは、神と交信などという世迷い言を言ったからでは無く、その世迷い言を実践したからのようだ。勘違いした時以上に反論の余地もない、完璧な感想であった。

「ですがその辺の話は全て片付いてから。こうなった以上推論でも康大殿に任せるでござる」

「私もなんら良い案が思い浮かばない以上、康大の指示に従おう」

「責任重大だな……。俺の浅い知識と人間の普遍性を信じれば、とにかく重要なのは文字だ。それを消せばゴーレムは倒せる。その後、落ち着いてから薬草を探すのがいいんじゃないかな。ただ外敵からの攻撃を考えると、外側に文字があるようには思えない。あるとしたらおそらく身体の内側だろう。そのためにはあの扉から中に入る必要がある。窓がある所は高すぎるからな。まあ鍵が開いてなかったらその時点でほぼおしまいだけど」

「となると第一関門はどうやってそこまで近づくかでござるな」

「さすがのこの鎧でも、あの腕に吹き飛ばされたらひとたまりも無い。マントが戻って来ても変わりは無いだろう」

「・・・・・・」

 康大にはハイアサースの鎧にそれほどの強度があるようには思えなかった。昨日鎧を引きはがした時、鎧の厚みはかなり薄く、儀礼用にさえ思えた。

「まあ無策で飛び込むのは現実的じゃないな。結局近づけない以上、状況は全く同じ、か。常道だと誰かが囮になってその隙に忍び込むんだけど――」

「……どうやら拙者達以外に、その役目を買って出てくれそうな者達がいるようでござるよ」

 そう言いながらケイアはゴーレムの足もとを指さす。

 康大もハイアサースも松明の明かりを頼りにそちらを見た。そこでは、ハイアサースが消滅しきれなかったアンデッドと、新たにわき出たアンデッドがゴーレムの身体に群がっていた。

「生きていた盗賊達がいなくなったことで、矛先をゴーレムに向けたのか?」

「いや、ゾンビ達にとってゴーレムは俺同様景色と同じだと思う。群がってはいるが攻撃はしていないからな。問題はゴーレムじゃなくて、ゴーレムの身体にまとわりついている盗賊達だろう。奴らの中にも未だギリギリ生きている奴がいて、そっちの方が殺しやすいと思ったんじゃないか?」

「確かにアンデッドはどちらのタイプでも弱った人間を優先して襲うな……」

「なるほど。確かにあの豚は脂肪が厚い分防御力が高いのか、微かに息をしているでござるな」

「いずれにしろチャンスだ」

 康大は2人に言った。

「ゾンビにとってゴーレムは景色でも、ゴーレムにとって群がるゾンビは敵のようで、必死に振り払っている。近づくなら今しか無い」

「そのようでござるな。ただし問題があるでござる。拙者が見た限り、(はばか)りながら康大殿もはいあさーす殿も素早く動けない様子。どんなに機を見計らってもあの(かいな)を避けきることは難しいでござろう」

『・・・・・・』

 康大もハイアサースも黙り込んだ。

 康大はゾンビ化、ハイアサースは鎧が重いからと内心で言い訳をしているが、2人とも単純に鈍くさい。この2人に機敏な行動を期待するのは、あまりに酷だった。

 そうなると扉に入れるのはケイア1人だけになる。

 ――そう康大は思っていたが。

「――そこで拙者が2人を担いで近づくでござる」

「いやそれは無茶だろ!」

 康大はすぐに却下した。

 それも常識的に考えれば当然で、ケイアは3人の中で最も背が低く、体重も軽い。その素早さは盗賊達を狩っている姿を見て康大も認めていはいるが、いくら何でも2人を担ぎながらでは無茶だった。たとえハイアサースが鎧を脱いだとしても、焼け石に水だ。

「心配召されるな、この飯山圭阿(いいやまけいあ)、伊達や酔狂でお庭番衆を名乗っているわけではござらん」

「ていうかやっぱり忍者だったか……」

 ケイア――圭阿は恐ろしいほど見た目通りの人間だった。なんやかんや言っても世の中見た目が第一だと、ゾンビの康大は痛感する。

「いざ参らん!」

 圭阿は返事も聞かず両肩に康大とハイアサースを担ぐ。結局ハイアサースの鎧を脱がせることすらしなかった。

 薄い鎧とはいえ、それでもほぼ全身鎧(フルアーマー)で10キロはくだらない重さがあり、平均的な男子高校生よりは小柄な康大と2人合わせて100キロは優にある。圭阿のしようとしていることは正気を通り越した狂気だ。

「南無三!」

 それでも圭阿は気合いを入れ、タイミングを見計らって走り出す。康大はここまで重いと自分で走った方が速いだろうと思っていたが、あにはからんや、まるでバイクに乗っているような(運転したことなどないが)疾走感があった。ハイアサースに至っては驚きのあまり、失神したようにだらりと身体を預けている。

「むむ!!!」

 ゴーレムの腕はちょうど反対側にいるゾンビを振り払っているので、こちらに振り下ろされる心配は今のところ無い。その変わり……というわけでもないだろうが、ゾンビの方が圭阿の前に立ち塞がる。

 眼中にないのは現状康大だけなので、近づけば襲われるのも当然だ。

 ゾンビの腕が圭阿に伸びる。

 今のスピードを考えると、立ち止まって方向転換するのは不可能。

 道は一つしかなかった。

「きぇええええ!!!!!」

 奇声と言えるようなかけ声をあげると、圭阿は止まるどころかより速度を上げ、そのまま膝を突き出して飛び上がる。

 所謂※真空飛び膝蹴りだ。

 3人分の体重が乗った膝は、ゾンビを跳ね飛ばすどころかそのまま胴体に風穴を開け、ゾンビはそこから真っ二つに折れた。

 しかし、立ち塞がるゾンビはその一体だけではない。他にも何体かのアンデッドが、扉までのルートを遮った。

 それでも圭阿は怯むことなく、着地と同時に再び跳ね上がり、今度は抱えた2人ごと空中で回転し、素晴らしい体勢の後ろ回し蹴りを放つ。

 勢いもついたその一撃は数体のアンデッドをまとめてなぎ倒し、一瞬にして扉との距離も積めた。その変わり、担がれている2人はひどい吐きに襲われる。

 まさに有言実行、ついに圭阿は康大とハイアサースではあり得ないスピードで、ゴーレムのかかと辺りにある扉の前にたどり着いた。

 圭阿はまるで荷物のように康大とハイアサースを投げ捨てると、覚悟を決め扉に手をかける。

 ここで扉が開かなければ、3人に気付いたゴーレムの一撃で、高確率で叩きつぶされる。結果がどうなろうが、一瞬の躊躇も許されなかった。

「よし!」

 幸いにも扉は開き、圭阿はまだ立ち上がることすら出来ない2人をそこに放り込む。

 容赦なく投げられた2人は、内部に侵入すると同時に強かに頭を打ち付け、ここに来てから最大級のダメージを受けた。

 結局2人は最後まで荷物のような扱いだった……。


※キックの鬼と言われた日本人キックボクサー沢村忠の必殺技。真空の二文字は別になくても問題はない。どこが真空なのか謎だが、沢村が真空と言ったら真空なのである。

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