92話・二人の戦い
叶の言葉が…身に染み込んだ。
彼女の口から、ゆっくりと「これからの事」が語られてゆく。
叶は、見通しているの「かも」しれない。
ただの凡人「鈴木悠人」が、これから歩む道しるべを。
「わたしは…こんな形でしか………戦えない」
だけれど…
呼吸器ごしに、ひたすら言葉を繋ぐ。
「ねえ、悠人」
「最後の『お願い』きいてくれる?」
「今の悠人には…みんなを、助ける力が…ある」
妻は信じていた。
頼りない自分の夫が「遠い世界」を救ってくれると。
もしかすると、叶は…知っていたのかもしれない。
自分の夫、鈴木悠人が「幼女」に転生して。
魔王として、異世界グリモワーツで奮闘した事を…
嫌だった…
彼女の想いを…最後の願いを、聞きたくなかった。
だから、素直に頷けない。
悠人の望みは、妻の傍にいてあげること…
もう「異世界転生」など、欠片も望んでいなかった。
「お願い…はると…」
「みんなを、守ってあげて」
その小さな願いは、悠人の耳に届き。
頼りない男の背中を押してくれた。
「ぼっ…ぼく…は…」
ウジウジ…とする、情けない夫に。
叶は、絵と奮闘しながら力強く言った。
「わたしも戦う…だから、悠人も戦って…」
「これは……ゴホッ」
ゴホッ、ゴホッ…
痛々しく咳き込んでも。
鈴木叶は…これからの運命に立ち向かっていた。
「わたしたちの…戦い…なんだよ」
彼女の血で、ベットのシーツが染められてゆく。
それでも、妻は筆を止めない。
目が見えなくたって…呪いを背負わされたって…まっすぐ戦っていた。
「はると…いって…」
弱った声で、夫の背中を押してくれる。
悠人はもう「異世界転生」なんてしたくない。
ただ…妻がいる「当たり前の日常」が欲しいだけなのに。
二人に立ち塞がる運命は「戦い」という、過酷な道であった。




