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90話・生き残った勇者


 そして、奇跡的にも…

この時、ドラゴだけは、アベルの狂気から逃れていた。


 命綱となったのは、咄嗟に構えた「盾」のお陰で。

盾に守れられた事によって…

レーザーシステムによる影響を受けなかった。


 しかし、防御には成功したものの。

灼熱の温度によって、ドラゴの盾は、バターのように溶けてしまい。

ドロドロに変形した後…やがて、欠片すらも無くなった。


 聖剣ヨハネは、アベルの頭部に刺さったまま…

ドラゴの盾と同じく、惨めに溶けてゴミ屑と化す。


 剣も盾も失って、ドラゴは唖然と立ち尽くす。

未知なる恐怖が、理性に襲いかかってくる。


 視界一杯に「赤」が拡散し。

全ての存在が「狂った存在」として映った。

もはや、変貌したこの地(ノドの地)は…人が理解できる領域ではなかった。


 空気が歪み、激しい死臭が漂う。

鼻の感覚が、痺れるように麻痺して。

嫌な汗と恐怖の涙が、滝のように溢れ出てきた。


 こんな「狂気の地獄」にて…

ドラゴは、たった一人…生き残ってしまい。

もはや、彼の理性は、限界点に達していた。


 脚の力が崩れて、地面に膝をつく勇者…


 脚が地面に触れたとき。

ブニュブニュ…とした…生物の「臓器」の感触が伝わってきて。

砂の一粒、小石の一つさえもが、醜き「肉塊」と変貌していた。


 どうしろと…言うのだろうか?


 こんな状況下で、ロクな思考など、出来る筈もなく。

ただただ…ドラゴは、怯えた鼠のように「震える」事しか出来なかった。


 巨大人型兵器アベルが、一匹の鼠を見下ろす。


そして、アベルとドラゴの視線が交わったとき。


 ドラゴは、ハッキリと確信した。

これまで、人類が信じていた「希望の聖天使」の正体を…


そう、アベルの正体は「死の概念」そのものだったのである。






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