89話・正義を超越した正義
アベルのレーザーシステムは「攻撃」ではなかった。
その標的は…黒騎士や勇者に、向けられておらず。
紅の光線が直撃したのは、ノドの地の夜空であった。
ゆえに、この瞬間…
誰一人、レーザー光線に「触れて」いないし「近づいて」もいない。
にも関わらず「その一撃」が変えてしまった。
美しき幻想領域…ノドの地を「狂ったセカイ」にへと変貌させてしまう。
あか、アカ、赤…が、広がってゆく。
鮮やかな夜空が、ブクブクと膨れ上がり。
夜空の全てが、豚の贓物をぶちまけ、塗りたくったように。
グチュグチュの「肉塊」が、夜空を侵食してゆく。
至る所から、呻き声と金切り声が響き。
妖精にユニコーン、あらゆる幻獣…そして、美しき人魚も。
ノドの地にある「生命の全て」が、狂気と共に崩壊してゆく。
これは全て、一瞬の出来事。
瞬きもしないうちに、辺り一面が「肉塊の群れ」に覆われ。
小石の一個すら。
雑草の一本すらも。
グチュグチュでブニュブニュのミンチと化す。
夜空には「豚の贓物」。
はじまりの泉には「牛の贓物」。
この展開によって。
「アベルの狂気」が、黒騎士たちに襲いかかった。
数万、数億にも及ぶ、圧倒的な弾幕の嵐が…
まるで、泡のように簡単に消えて。
当然かのように、彼ら(黒騎士たち)の総攻撃は無力化され。
頭であるガイアの視界にも、狂気の景色が広がってゆく。
しかし、こんなデタラメな相手の対処法など分からず。
と、言うよりも…この時には既に。
ガイアの思考は「アベルの狂気」によって潰されていた。
ッ?!………?……は……
ガイアの知性が、得体の知れない何かに飲み込まれてゆく。
そして、立て続けに…
ガイアの「内側(体内)」から、灼熱の温度が暴れ回る。
チッ!ブチッ!ブチュッ!
頭上にて、肉を磨り潰す音が、伝染してゆく。
その音が鳴る度に、一騎、また一騎…と。
最強の黒騎士たちが、風船のように破裂していった。
黒騎士が一つずつ「爆散」し。
赤い雨と赤い肉塊が、頭上から降り注ぐ。
漆黒騎士ガイアの体は、内側から粉々となり。
それと同時に、ガイアの思考も消える。
彼ら(黒騎士)の鎧は…かつて。
神々の雷さえも、弾き返したというのに。
アベルの「たった一撃」だけで…
その鎧もろとも、粉砕され全滅し。
今となっては…最強の軍団も。
そこら辺に散乱している「ミンチや肉塊」と成り果てた。
『元』黒騎士だった、肉片が雨となり。
血肉の雨が、アベルのフレーム(装甲)を染め上げる。
その血塗られた姿は…希望の聖天使ではなく。
異次元からやって来た「処刑者」そのものだった。
たった一発の「レーザーシステム」により。
ノドの地が、生命の楽園から…狂気の地獄へと生まれ変わった。




