82話・角にしがみつく
今の彼ドラゴは、泳ぐので必死だった。
ゆえに、周りの様子に気づかない。
人魚たちの表情が、死人の如く「虚ろ」である事を。
彼女ら(人魚たち)の思考は分からないが。
勇者に対しての敵対心は、無いように見える。
と言うよりも…
人魚たちは皆、何かに「恐れ」「恐怖」しており。
虚ろな瞳から「絶望」が伝わってきた。
上空からは、黒騎士の軍隊。
勇者を駆逐するため…凄まじき速度で、次々と急降下してくる。
圧倒的な勢力をまえに。
ウェインは、犬のように吠えた。
そして、いつも通り…お得意の「神頼み」を披露する。
ただし…
「さあ、正義の聖天使よ!」
その声は、怯えておらず。
「悪の虫けらに、鉄槌を!」
自信に溢れた…力強い声だった。
もしかしたら、この男は。
聖天使アベルの「勝利」を確信しているのだろうか?
「総員!はなて!」
ガイアの命令が下り。
黒騎士たちが、次々とエネルギー弾を放つ。
弾幕の猛攻が、はじまりの泉に襲いかかり。
荒々しい爆風により、蒼い水面が叩かれた。
激しく揺れる水面…
荒ぶる津波が、ドラゴに襲いかかる。
もはや、どこを泳いでいるのか?見当もつかず。
溺れないようにするので精一杯だった。
一方、敵の攻撃は容赦がなく。
刻一刻と…勇者側が窮地に追い込まれてゆく。
しかし、この一瞬。
正義の聖天使が…
神々しき「救いの手」を、ドラゴへと差し伸べた。
そう、目的である「金属の塊」が都合よく。
彼の目前、手の届く所にあったのである。
どうやら、荒れた津波に押され。
瞬く間に、ここまで…流されたみたいだ。
巡ってきたチャンスを逃さぬよう。
ドラゴは死に物狂いで、金属の塊にしがみついた。
痺れる手で、角のような突起物を掴み。
そして…登る、登った。
永く放置された影響によって…
金属の表面は、草や苔に覆われており。
しがみつき…登るのに適していた。




