81話・はじまりの泉
そして、このとき…
ドラゴの耳が、大きな「降下音」を捉えた。
しかも、その音は一つではなく。
大量と呼べるほど、大規模なスケールだった。
「何か」が…
こちらに向かって「急降下」しているのは明確。
荒々しい上空を警戒して。
ドラゴとウェインは、星々の輝く夜空を見上げた。
「ちがう!」
落ちてくる彗星を目にしたとき。
ドラゴはやっと、今の状況を理解した。
そう、ノドの地の夜空にて輝く「紅の彗星」の正体は…
すべて、脅威の宿敵「黒騎士」だったのである。
二人の動向はずっと、敵に監視されていた。
しかも、敵軍は空の果て、大気圏から奇襲の隙を伺っていた。
大気圏規模の超高度ならば…
視力の鋭いドラゴでも、勘づくことは不可能。
ゆえに、その穴を、敵に突かれてしまったのだ。
唐突な展開に、ドラゴは呆けてしまうが。
天使の勇者ウェインは、勇ましく反応した。
「クズどもめ!邪魔は、させるか!」
ウェインは、唯一の仲間に怒鳴り散らした。
「ボケっとするな!」
その感情を荒げて、ドラゴに命令してくる。
「その玩具の出番だろうが!」
今のウェインには、普段の優雅さはなく。
「金属の塊」を前にして…興奮している事がわかる。
玩具と言うのは…
聖剣ヨハネの事を、指しているのだろう。
確かに、今のヨハネは、武器であり道具かもしれないが。
仲間を「玩具呼ばわり」は…流石に苛立った
だが、とりあえず今は、感情よりも「目的」を優先。
個人的な感情は、グッと堪えて。
この世界の「人類」のため、立ち回る必要があった。
そして、聖剣ヨハネを背負い。
ドラゴは一人「始まりの泉」へ飛び込んだ…
泉の水面は蒼く、底が見えない。
だが、泳ぎながらも、何となく分かる。
この泉は、かなり深い…
おそらく、水面が蒼く見えるのは…
水深の深さが原因であり、水底は果てしなく遠いだろう。
それでも構わず。
ドラゴは「金属の塊」が浮遊している方向を目指し。
泳いで、泳いで、泳ぎまくった。
手が疲労して、激しく痙攣する。
ドラゴの力ならば、光速の早さで動けるのに…
この泉に入った途端…異常に体が重くなった。
まるで、体を拘束されているような感覚。
蒼い瑞そのものが「異質な存在」
なんだ、これは?
不気味でならなかった。
泉そのものが、不可解なプレッシャーの塊ようだから。
もし、泳ぐ(抗う)のを、少しでも止めてしまったら。
泉の水底まで、引きずられるだろう。




