6話・回想その1「公園の思い出」
丁度、三年前。
鈴木悠人は、サラリーマンだった。
しかし、勤務していた会社が倒産してしまい。
彼は失業、途方に暮れる事になる。
まあ、会社自体は、お世辞にも『良い環境』でもなかったし。
周りの社員が皆、悠人一人に、仕事を押しつけるという…
ドロドロに歪んだ「ブラック企業」だった。
お察しの通り、彼(悠人)の人柄では「NO」と反発できず。
「都合の良い、使い走り」として、ずっと利用されてきた。
会社が潰れてから、無職となり。
僅かな休息のおかげで、体の気だるさは取れた。
だが、後に残された「空虚な毎日」が。
日に日に、凡人(悠人)の精神を蝕んでゆく。
成果のない求職活動に疲れ…たった一人の帰り道。
男(悠人)は、とある公園に着いた。
その公園は、どこにでもある子供の遊び場。
東京(街中)の片隅に潜む…ちっぽけな公園。
あははは!あはは!
子供たちの声が、明るく響き渡る。
その声が、惨めな男の「不安」を和らげてくれた。
温かな空気に惹かれるよう。
悠人は、公園に立ち寄る事にした。
緑豊かな芝生が、生い茂っており。
公園の中央にて、大きな木が一本…聳え立っていた。
その木の下で、子供たちが遊んでいて。
どうやら皆、この木が、大好きらしい。
悠人はしばらく、公園を散歩してみる。
すると、散歩の途中。
オンボロのベンチが一つ、佇んでいる事に気づいた。
そして…
そのベンチには「一人の女性」の姿があって。
彼女は穏やかに、絵を描いていた。
薄茶色の長髪が。
風が吹く度、サラリと揺れる。
何よりも、子供を眺めながら、スケッチブックを抱える姿が。
悠人とって、神々しいほど眩しく。
惹かれるように、体が勝手に動いた。
平凡な男は、絵描きの女性へ、慎重に近づいてゆく。
「あ…あっ…あの!」
必死でカッコ悪い、男の呼びかけ。
それでも彼女(絵描き)は、気づいてくれた。
彼女と視線が合い…緊張の余り、悠人の声が裏返る。
「なァ、な、な…何を、描かれて、いるのですかァ?」
聞くも耐えない、ダサ男の台詞に。
女性は優しく「微笑んで」応えてくれる。
「こどもの絵」
あの笑顔が…
今でも、忘れられない…