63話・幼女の体は死の塊
ドラゴの圧倒的な攻撃を前にしても。
悠人にとっては、痛みなど皆無で。
むしろ、勇者の攻撃は擽ったい…
つまり、この身体(幼女)ならば。
想像を絶する程の力を得られるが…
外見と力が進化しても、中身は「普通の男」。
これまで、東京(現実)の人混みに紛れ、生きてきた悠人には。
どう、立ち回るのか?
どう、戦うのか?
今、現在の「対処法」が分からなかった。
しかし、賢くない悠人にも。
たった一つだけ、確信を得た事実があった。
ソレ(事実)とは、この身体(黒髪幼女)の事。
幼女魔王の小さな拳を振るえば…確実に「殺す」事ができるって。
「勝つ」とか「倒す」とかじゃない。
相手(勇者ドラゴ)を、一瞬で「殺戮」してしまうだろう。
自らの存在を自覚したとき。
悠人はゾッとして、凍りついてしまった。
この姿(黒髪幼女)は、魔王などと言う。
そんな単純で辺鄙な代物じゃない。
ドス黒く蠢く「死の塊」そのものなのだ…
自分自身に恐怖すると同時に…
この拳(幼女の手)が、攻撃するビジョン(未来)が見えた。
その映像は、木端微塵…肉片となったドラゴの末路。
魔王の「鱗片」に触れ、爆散させられた「勇者の死骸」。
この未来(映像)を、垣間見た時点で。
もはや、悠人の拳と思考は停止してしまい。
一つの反撃すら…出来そうになかった。
一方的に、正義の鉄槌を食らいながら。
悠人は必死に、自らの理性に言い聞かせた。
考えるな!
この拳を、振るうだけでいい!
そうだ!そうじゃなきゃ!
妻が…大切な人が…叶がっ!…死ぬんだぞ!
ひたすら、平凡な思考を叩き。
叶の未来を繋げたい…と。
持てる限りの力を、その右手に注ぎ込んだ。
しかし…
やはり、この右手が、言うことを聞いてくれず。
その凶器(拳)が振るわれる寸前にて…
大好きだった、妻の笑顔が、頭の片隅にて浮かんできた。
叶の…やさしい笑顔のせいで…
勇者を殺すなど、到底できそうになくて。
もはや、魔王ハルバードは。
正義によって袋叩きにされる「サンドバック」だった。




