5話・工事中の橋
悠人は一人、惨めな気持ちを抱えて。
いつもの帰り道を歩いてゆく。
たった一人…人気のない帰り道。
帰り道の途中には、一本の橋があり。
橋の下には、川が流れている。
また…この橋は、偶然にも「工事」をしている為。
欄干(手すり)など…所々の部品が、撤去されていた。
「立ち入り禁止」と、看板が置かれているものの。
警備員らしき人影はなく…
子供が怪我をするのでは?と、心配してしまう。
しかし、なぜ作業員がいないのか?
一旦、休息(中断)でも、しているのだろうか?
とりあえず、工事なら仕方ない。
そう割り切って、悠人は、別の道から帰る事にした。
渋々、橋に背中を向けた…そのとき。
妙な感覚が、彼の背中を引き止めた。
空間も時間も静止したような…幻想的な感覚。
その感覚が、悠人の意識を引き寄せ。
ピリピリした威圧感が、彼の背中を突いた。
ソレ(幻想)に誘われて、振り返ってみると。
視界に映されたのは、サラサラとした「緑髪」だった。
長い緑髪が、夕焼けの風に揺れる。
この「緑髪の少女」を、悠人は知っている。
ゲームのロゴがあるシャツとジーパン。
彼女は確か、病院の待合室で「緑川」と呼ばれていた。
彼女(緑川)は、橋の上にいて…橋の下を見下ろしていた。
その様子を見て、悠人は、胸騒ぎを覚えてしまう。
もしかして…
嫌な予感が的中、彼女の脚が、橋の下へと踏み出される。
「……?ッ……」
瞬間、悠人の足が、反射的に駆け出していく。
「……はやまるなッ!!!」
その大きな声に気づき…
少女(緑川)が、こちらに振り返った。
振り向いた、その表情には。
とても冷たい「機械」のような笑みがあった。
彼女はそのまま…橋の下へ背中を預けて。
ゆっくり、ゆっくりと落ちてゆく。
落ちてゆく彼女の手を。
悠人は、全力で掴もうとする。
だが、しかし…
彼女の手を握ると同時に。
悠人もまた、橋の下へ「落ちて」ゆく。
視界が反転して。
平凡な男と、緑髪の少女は…二人揃って、橋から転落してゆく。
ゆっくりと動く視界。
途端に、全身が軽くなり。
悠人の体に、異質な感覚が、連鎖的に起こった。
スローモーションの意識の中「死」を自覚。
そして、呆然としながらも。
かけがえのない「人」の名を呼ぶ。
「かなえ…」
そして、次の瞬間…
虹色の閃光が、視界一杯に拡散した。
意識そのものが、虹色の空間に飲み込まれていく。
静かに遠のく自我の中。
凡人(悠人)は、かつての「思い出」を見る。