57話・すっ!鈴木悠人…デス!
フェルゴールは、一足先に出撃し…
ロボット騎士が、魔王室から去った後。
沈黙の静寂にて…悠人は一人、葛藤していた。
さて、ここから執念場。
相手が子供でも、勇者である事は変わらない。
ゆえに、人の感情を捨てて…戦わねば。
大切な人…叶の「未来」は無いのだから。
だから、ころす…殺さねばならない。
幼女の拳を、ギュッと握りしめ。
丸っこい瞳を、刃物のように尖らせた。
幼女の小さな背から、メラメラと殺意が燃えてゆく。
そんな悠人の横顔に、「優しい声」が問いかけた。
「ねえ」
彼女は穏やかに、まるで友人のように問う。
「名前を、教えて?」
ミュウの対応に困りながらも。
悠人はぎこちなく、応えてみせた。
「すっ!すずき、はると…デス」
ろくな思考すらままならず…オドオドするので精一杯。
だとしても…
その「鈴木悠人」という名を、ミュウは受け入れた。
「はると…うん、ハルト」
敵である魔王に、どうして興味を持つのか?
悠人には、分からなかった…が。
彼女が底抜けに「優しい」のは、察する事ができた。
慈愛の勇者は小さく微笑み、極悪魔王との握手を求める。
「わたし、ミュウ…よろしくね」
その純粋さをまえに、手迷う魔王(悠人)。
当然だ…彼女は、殺すべき勇者なのだから。
だから…
ミュウの好意に、これ以上応えずに。
悠人は「逃げる」ように、視線を逸らしてから。
本来の目的を果たす為、魔王の私室から立ち去った…
幼女魔王が戦いに行き…
カイルとミュウだけが、魔王室に残された。
ミュウは、悪魔の横顔を覗くと。
「ねえ…カイル」
少し不安そうな声で、カイルに問う。
「なんでしょう?桃姫さま?」
緑髪の悪魔は、視線を合わす事なく。
どうでも良さそうに、適当な返事をした。
「ハルト…ドラゴたちを、殺しちゃうのかな?」
その問いかけに…
カイルは、赤い瞳を細めると、淡々と応えた。
「さあて、どうでしょうか」
「予言は、私の…専門じゃありませんから」
この時のミュウの感情は単純で。
危機的この状況でも、他の者たちの心配をしていた。
仲間(勇者たち)の心配と…そして。
あの幼女(悠人)の寂しく孤独な目…
この二つが絡み合い「悲しみ」となって、ミュウに圧しかかる。
ミュウは祈った、その手を合わせて…祈り続けた。
ただし…この「祈り」が。
仲間への祈りか?それとも、悠人への祈りか?
彼女自身、分からなかった。




