52話・聖天使とは?
着替えが、終わった後…
平穏の一間にて、暖炉の火種が、部屋を灯してゆく。
悠人とミュウは、並ぶように座り。
こんな静寂の中…悠人は「迷い」と葛藤していた。
それは当然だろう。
隣りにいる少女(勇者)を殺さねば…妻を救う事が、出来ないのだから。
頭では「理屈」では、理解しているのに。
いざ、その時になると、感情が妨害してくるではないか。
たとえ、幼女に転生しても。
鈴木悠人の「単純さ(甘さ)」は変わらず。
「焦りと葛藤」が、幼女の表情を強張らせた。
すると、ミュウが心配して、魔王(悠人)の横顔を覗き込んだ。
「………」
見守るような…そんな瞳が、とても優しくて。
柔らかく純粋な「慈愛」が、悠人の胸に突き刺さる。
極悪の魔王として、幾度も「この娘を殺す」と…
自分自身に、言い聞かせているのに。
ミュウの優しさが、悠人に迷いを生じらせた。
一体、どうすればいいのか?
たった独り、心の中で葛藤している時。
カイルが悠人の元へ歩み寄り…幼女(悠人)の顎を、指でクイッと持ち上げた。
「紅い瞳」が、魔王の心を覗き込んでくる。
『なにを、チンタラしてんです?』
悠人の脳内に、カイルの声が響き渡り。
ジメジメとした「迷い」に喝を入れてくる。
『今、この瞬間も…叶さんは、戦っているんですよ』
彼女の通信(言葉)は、夢でも幻でもない…今、このときの事実。
『ずーっと、マゴマゴしてるんですか?チキン頭なんですか?」
確かに、彼女の言うとおりだ。
こうしている間にも、叶は「残酷な運命」と戦っているのだから。
でも、それでも…
殺すべき相手が「子供」だと認識する度。
妻の笑顔を、あの横顔を…思い出してしまうのだ。
ゆえに、焦りを抱えながらも。
その場しのぎの「質問」で、尺を稼ごうとした。
『なんで…こども…を。勇者を、殺すんだい?』
悠人の疑問(質問)は、勇者を殺す理由。
もしかすると「勇者殺害」以外に、叶を救う方法があるかもしれない。
そう問われて、カイルは瞳を細めた。
まるで、浅はかな「希望」を見通すかの如く…
『まっ、いいでしょう』
『こちらの、言葉不足ですしね』
淡々とした口調が「勇者討伐」の理由を語り始めた。
『この異世界グリモワーツでは、白と黒、が対立しています』
白は「正義の天使」に加護された…神々と人類。
黒は「極悪の魔王」に従う…黒騎士。
『この二点…人類と黒騎士は、ずっと争ってるんですけど』
『特に重要なのが、さっき言った…聖天使なんですよ』
聖なる天使の名は「アベル」。
「人類」にとっては、全ての生命を加護する…偉大なる正義の使者。
『このアベルと勇者が、密接に関わってるんですよ』
どうやら、彼女の話によると。
聖天使アベルと四人の勇者は、何かしらの「繋がり」があるらしい。
話が少しだけ複雑だけれど…
凡人(悠人)でも、ある程度は理解できた。
しかし、肝心の疑問「勇者殺害」の意図が、どうにも分からない。
『でも…どうして、勇者を殺すのさ?』
悠人の当然の疑問に、悪魔は適当に頷いた。
『ん?ああ~ソイツは、ですねえ』
今の悠人にとって、最も「重要な疑問」が解き明かされるとき。
バァン!
魔王室の扉が、荒々しく開放された。
扉が乱暴に開かれて、平穏の空気が吹っ飛ぶ。
そして、魔王室に入ってきたのは…
メカニックな金属フレームに、円盤型の頭部ユニット。
ロボット騎士「フェルゴール」が脚部アームを、布のカーペットに踏み込ませた。




