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44話・なによりも現実


 その緑色が目に入り、悠人の鼓動が早まった。


紅の瞳に、長い緑髪。

ゲームのロゴがあるシャツに、ジーパン。


 つい、先程までは…ここ(物置部屋)には、誰もいなかったのに。

この瞬間、緑髪の少女…緑川、いや…

「カイル・マックストーン」がいた。


 緑髪の悪魔カイルが再び、目の前に現れた事。

それが信じられなくて…悠人は、唖然としてしまった。

 そんな、亡霊を見るような視線が、気に入ったのか?

カイルは上機嫌に、ピンっと胸を張ってから。


「これは、現実ですよ…わたしは、何よりもリアルです」


紅の瞳を細めて、したり顔で言った。




 今この瞬間、彼女カイルがいる事実…つまりそれは。


 四人の勇者たちがいた「異世界グリモワーツ」も。

悠人が「黒髪幼女」に転生したことも。

 そして…

「勇者」を殺せば、妻の叶が救われることも。

今までの幻想物語を「事実」として裏付けていた。


 黙々と状況を整理する、平凡な男。

すると、グルグルと回る思考が、カイルの声に遮られた。


しかも、その台詞は、よりにもよって。


「叶さんは、どうですか?」


 一番触れたくない、妻の容態の事で…

妻の体調を聞かれて、悠人は、完全に動揺していた。

 分かり易い、その様を見てから。

カイルの方も、なんとなく状況を察する。


 もう、それ以上、叶の話題は広がる事なく。

気まずい空気の中で、二人(悠人とカイル)は黙り込んでいた。


 彼女カイルの方も、気を遣ってくれているのか?

いつもよりも、煽り口調が少なかった。


 そして…

彼女の方から先に、物置部屋から去ろうとする。

その去り際にて、こう言い残す。


「残り少ない、時間を…お幸せに」


 重々しいその台詞は、叶の「限られた時間」を見抜いており。


「もう、用はない…」と、見限られているような。

希望の欠片すらも…見いだせないような。

「行き止まり」という現実が、無力な男(悠人)に圧しかかってくる。


 しかし、絶望を認めてしまえば。

叶の運命(死)を、受け入れるも同然。

ここで、「鈴木悠人」だけが抗わずして…一体どうして、妻が救われるのだろうか?


 ゆえに、平凡なるこの男は…


「待ってくれッ!」


去りゆく悪魔カイルを、呼び止めていた。


 声が震える…自らの選択に恐怖する。


 だがそれでも、これ以上の「恐怖」と、叶は闘っているのだから。

このまま、棒立ちで「終わる」など。

夫として、隣に付き添う者として…許される筈がない。


 彼の力強い声に、緑髪がピタリと止まった。

紅の瞳が、男の回答を…笑うように見据える。

 もう…

この悪魔から、目を逸らしはしない。


「あの子たちを…」


「勇者を、殺すんだよな?」


 勇者と言えど、相手は子供。

だとしても、迷っている暇はない。

今、こうしている間にも、叶は苦しんでいるのだから。


「僕に、チャンスをくれ」









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