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40話・東京に帰りたい


殺す…勇者を…この娘を…


 幼女(悠人)の頬に、生温い汗が流れた。

そして、緊張を抱えながら、その席を立つ。


 一方、カイルは、ワインを嗜みながら。

悠人の行動を、優雅に観察していた。


 意を決して、一歩だけ近づく。


叶の為…叶の為…叶の為…

そう思い込む度、幼女(悠人)の形相が険しくなる。


 そして、勇者を殺すため…悠人は、幼女の手を振り上げた。


一秒一秒がスローに見え、一瞬の時が永遠に感じられた。


 そんな残酷な光景を…

カイルは、ステーキを愉みながら鑑賞している。

 

 だが、しかし。

幼女(悠人)の小さな手は、挙げられたまま…

ピタリ…と静止していた。


 そう、このとき。

悠人が見たのは、ミュウの血しぶきではなく。

彼女ミュウの怯えた涙だった…


 この涙を見ると、胸が張り裂けそうになり…

心も体も、金縛りにあったように拘束されてしまう。

 結局、これ以上…行動できずに。

悠人は呆然としながら、その手を引っ込めた。


 極悪魔王が凶器(その手)を引っ込めたとき。

テーブルの向こうから、フォークを置く音がした。

物音の方を見ると、カイルの不機嫌そうな顔…


 彼女カイルは苛立ちながら、テーブルをトントンと叩く。

紅の眼光は、何か言いたげだが…

口を閉めたまま、心にさえ「通信」してこない。


 そんな悪魔カイルに、悠人は言った。

ただの望みを、純粋に口にした。


「東京に、帰りたい」


元の現実世界に帰る…まさしく凡人に相応しい台詞。


そんな「平凡な望み」に、カイルは苛立っていた。


「鳥頭…分からない人ですね…」


 もう、彼女の言葉なんて、関係ない。

今すぐにでも、妻の…叶の顔が見たかった。


「元の世界に、病院に戻りたい」


「叶が、妻が、待ってるんだ」


 ただ頑固に『元の世界(東京)』に帰りたい…と。

凡人は、一方的に言い張り。

聞き分けの悪い、幼女を相手に。

カイルは嫌々ながらも、悠人の望みを聞き入れた。

 

「まっ、いいでしょう」


 彼女カイルは、ゆっくりと席を立ち…その唇を、布巾で拭う。

そして、とても冷たい、機械のような眼光で、幼女(悠人)を睨むと…


 パチンッ…


たった一つ、フィンガースナップ(指パッチン)をした。


 それ合図に…悠人の視点が反転。

意識そのものが、虹色の空間にへと放られる。


 不思議な空間にて、黒髪幼女の体が、塵のように散ってゆき。

散らばった塵が集結、別の形にへと変わる。

そして「平凡な男」へ…偽りの姿(幼女)から、元の姿に戻った。






今回で一章が、終わりになります。

次回からは「二章」に突入!どうぞ、よろしくお願いします。

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