31話・滅びゆく異世界
迫りくる紫の月。
凄まじきエネルギーによって、重力が何倍にもなり。
勇者三人(ドラゴ、ヨハネ、ウェイン)は、完全に拘束されていた。
もはや、一本すら動かせず。
偉大なる勇者たちは、地に伏せたまま。
己の無力さを噛みしめる。
だが、このタイミングで。
変革の勇者が、底力を発揮した。
歪む空間の中、ヨハネは、おぼつかない脚で立ち上がり。
汗ばむ手で「懐の短剣」を握った。
短剣の刃には、特殊な模様が記されていて。
コレ(短剣)はきっと、特別な儀式に使われる装備に違いない。
ヨハネの動きに気づいて…
ドラゴも続くように、立ち上がった。
ヨハネは短剣の刃を、自らの胸に向け。
一見すると、その様は「自滅」に見えるだろう。
だが、ドラゴだけは、彼の意図を理解していた。
「わかった…君に、合わせるよ」
そんな勇者の有様を。
漆黒騎士ガイアは、退屈そうに見下ろした。
配下の黒騎士たちも…
抗う勇者の姿を、見世物のように愉しんで。
彼らの目には…自暴自棄になった子供(勇者)が映っている。
こんなにもアッサリ、終末する世界を。
ガイアは、退屈そうに吐き捨てた。
「まあ、こんなものだろう」
街全体の空気が焼かれ。
あらゆる建物が、紙切れのように、吹き飛ばされてしまう。
「所詮は『ガキ』だからな」
悪の手によって、人々の居場所が崩壊してゆく。
今夜…
この異世界「グリモワーツ」は滅びるだろう。
悠人とミュウが、牢獄から出てゆき。
カイルは一人、取り残された後。
薄汚れた窓から、ボンヤリと夜空を眺めた。
牢獄から、はじまりの街までは、そこまで離れておらず。
ここ(牢獄)からでも、紫の月がハッキリと見える。
彼女は、ひっそりと。
世界の終わりを…勇者たちの「死」を確信した。
「悠人さん…これで」
紅い瞳を、優しく、穏やかに緩め。
一人っきりとなった、今の彼女に…
つい先程までの冷酷さは、どこにも無かった。
「叶さんは、救われますよ」
その口調は純粋に、悠人の妻「叶」の救済を祈り。
これから訪れる…幸せな夫婦の「明日」を祝福していた。
紅の瞳は遠く、懐かしい「過去」に浸っている。
「叶さん…」
「借りは、返しましたよ?」
契約の条件は「勇者の死」。
悠人が手を汚した訳ではないが…結果論としては。
勇者の死によって、悪魔との契約は完遂される。




