30話・愚かな選択
漆黒騎士ガイアの猛攻が炸裂…
三人の勇者(ドラゴ、ヨハネ、ウェイン)は、既にボロボロだった。
両者の力は歴然。
ガイアの方は、余裕を漂わせる。
ギャラリーの黒騎士たちは、戦う事もなく…ケラケラと笑い。
その笑い声が、ドラゴの感情を、逆撫でしてくる。
こんな屑共…絶対に許せない。
もしも、コイツ等(黒騎士軍)を討ち果たし、正義を貫けるならば。
どんな手を使っても、構わないのに。
ガイアは、自らの右手を掲げ、高々と「勝利宣言」をした。
「さあ、終末といこうか」
その台詞と共に、右手の指を、パチンッ…と鳴らす。
すると…
ガイアの頭上…グリモワーツ上空にて「巨大な球体」が出現した。
その球体は、巨大かつ偉大。
紫の輝きを放つ「満月」ようにも見える。
正確には月ではなく「エネルギー弾」の一種であり。
ガイアのみが扱える「究極奥義」とも言える。
漆黒騎士に慈悲はなく。
巨大なエネルギーの塊を、躊躇なく街に放った。
紫色の月が、ゆっくりと落ちてくる。
夜空全体が、紫の閃光に包まれ…ガイアは、勇者の死を確信した。
「世界もろとも消えろ」
エネルギー弾の圧力によって、町全体の重力が変化。
重力が何十倍にも増幅…人々から体の自由を奪い去ってゆく。
もはや、彼ら(一般市民)に許されるのは「祈る」事だけだった。
「ああ、アベルさま」
「どうか、私たちに救済を」
「悪の魔王に、正義の鉄槌を」
彼ら一丸となって「聖天使アベル」に希望を求める。
こんな窮地でも、彼ら(社会)の信じる正義は揺るがない。
悠人とミュウは、牢獄から逃げた後。
ようやく「はじまりの街」に辿り着いた。
しかし、この時には既に…
ジワジワ…と、紫色の月が接近、街全体が混沌の渦に巻き込まれていた。
変貌した重力によって、人々は避難すらもままならず。
同行していたミュウも、その重力に縛りつけられた。
勇者も含め、誰一人「動けない」…と思いきや。
こんな絶望下において、たった一人「黒髪幼女」のみが、平然としていた。
その小さな背中に…
ミュウは、不思議な可能性を感じた。
だから、この幼女に、根拠のない「ちっぽけな希望」を委ねた。
「私は…弱い」
自分の非力さを恨み、ミュウの言葉が震える。
その怯えた声が、悠人の意識を引いた。
「お願い…」
「皆を、友達を、守ってあげて」
悠人は何となく「確信」していた。
この「紫の月」が落ちれば、皆が死ぬ事を…
『鈴木悠人』にとって、正しい選択。
それは、月が落ちるのを「見届ける」事。
この世界が滅びれば。
当然、勇者だって全滅するだろう。
そうなれば、カイル(悪魔)との契約も達成されて。
皆の死と引き換えに…妻の命が救われる。
叶(妻)の未来は、どんなモノにだって代えられない。
ゆえに…
勇者である彼女の「願い」を、聞き入れる義務はない。
なのに、それなのに。
温かな記憶の奥から、子どもの笑い声が蘇ってきた。
公園で絵を描く、叶の横顔…大切な「二人の思い出」。
かけがえのない「思い出」が…
この凡人を、間違ったルート(選択)へと誘う。
「う…うん」
「頑張って、みるよ」
「ボクに、何ができるか、分からないけど」




