2話・物置部屋
悠人は一人残され、ハッと我に返った。
そして、絵具セットを、紙袋に戻して数分後…ようやく番が回ってくる。
自分の名が呼ばれて、受付に向かうと…看護師から。
「先生から、呼ばれています」と、医務室に、行くように言われた。
どうやら、妻について、重大な話があるらしく。
悠人は、嫌な感覚を抱きつつも。
医務室へと、足を運んでゆく。
そんな彼の背中を、二人組の看護師が、ひっそりと盗み見ていた。
そして、ヒソヒソと…悠人の影口を叩く。
「あの人、かなえ先生の夫らしいよ」
「え~、あんな微妙な男が~」
影口の内容は、人気画家『かなえ先生』の夫が、どうにも冴えないというモノ。
「43点の男が、旦那って…」
「うん、作家の思考って、不思議ねぇ」
「それに知ってる?あの男」
「ライン工、らしいよぉ」
「ええ~地味すぎでしょ。ださっ」
陰からケラケラと、悠人の容姿や職業をバカにしていた。
医務室へ向かう途中。
悠人は、とある部屋に着いた。
この部屋の扉には。
雑な字で「物置部屋」と、書き殴られた貼り紙があった。
薄汚れた、普通の扉。
きっと部屋の中だって、適当な道具が積まれているだけだろう。
が、しかし…
そう分かっていても。
この「物置部屋」からは、何だか異質な感じがした。
まるで、異質な感覚が、魅了してくるみたいだ。
幻想的な空気に、促されるように。
手が無意識に、扉に引きずり込まれる。
そして、彼の手が、ドアノブに触れる寸前…我に返って手を引いた。
こんな所で、グズグズしている暇はない。
先生の元へ、早く行かないと。
「物置部屋」から離れて、駆け足で医務室へ。
彼にとって重要なのは、ただ一つ。
妻…「叶」の事だけだから。