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1話・11月17日 東京


 時が遡り…二日前。

「11月17日」の真昼にて。


 ここは、東京の片隅にある病院。

そんな所へ、一人の男が訪れた。


 男の容姿は、至って平凡。

体格だって普通、身長だって普通。

短い髪の毛も普通。

そして職業すら、ただの工場員…

まさしく「普通」という言葉を、形にしたような身なりだった。


 彼はいつも通り。

病院に入ると、受付へと向かった。


 その手には「紙袋」があって。

どうやら、差し入れも、持ってきたらしい。


いつも通り、受付の看護師に、要件を伝える。


「妻の…お見舞いにきました」


すると、「少し待つように」と言われ。

手続きの用紙を渡された。

その用紙に、淡々と自分の名を綴る。


「鈴木悠人」


 悠人は、病院の待合室を見渡す。

ここ(待合室)は人足が少なく、とくに気にする事もなく、適当に座った。


そして…

持ってきていた「紙袋」の中身を覗いてみる。

ソレ(紙袋)の中に、納められていたモノは…安物の絵具セット。


 この絵具は、妻「鈴木叶」へのプレゼント。


彼の職業柄…贅沢な物に、手を出せないけれど。

それでも、カスのような給料で揃えた、精一杯のプレゼントだった。

 

 妻が好きなのは「緑色」だから。

緑色の絵具だけ、一個多く買ってみた。

平凡な彼なりの、ありふれたサプライズ。


喜んでくれるか?分からないけど。


ほんの少しでも、彼女が元気になってくれればいいなぁ…とだけ思う。


鮮やかに流れる静寂の中。


 悠人は「とある視線」を感じた。

右側からチクチクと刺さる…謎の視線。


その視線に気づいて、悠人は視線を動かす…


 すると、彼の真横にて。

サラサラとした「緑色」が輝いていた。

どうやら、この緑色は、髪の毛らしく。

一目で、少女の髪の毛だと分かった。


 その少女は、こちらの絵具を覗き込んでいる。


 腰に届くほどのロングヘア―。

外見からして、高校生くらいだろうか?

服装は、ゲームのロゴがあるシャツにジーパン。

女子高校生にしては、男子っぽい服装だ。


整った顔に、少し幼さが残った童顔…そして「紅の瞳」。


 悠人は、これまで一度も。

鮮やかな緑髪も、透き通る紅の瞳も、見たことがない。


ゆえに、この少女を前にすると。

自分の感情が「どこか遠く」に、落ちてしまいそうな気がした。


 だから、意識を戻すように。

慎重に声を掛けてみる事にした。


「えっ、え~とぉ」


何か用かな?と聞こうとしたとき、少女の瞳と視線が重なる。

その紅の色彩は、余りにも幻想的で…

異様な感覚に囚われ、凡人(悠人)は言葉に詰まってしまう。


 チクタク、チクタク…

沈黙の静寂にて、時計の針を奏でる。

この幻想的な一間が、永遠にさえ感じられたとき。


「緑川さーん。お待たせしました」


 受付の看護師が「緑川」と、誰かの名を指名した。


その名が呼ばれて、緑髪の少女は、ゆっくりと立ち上がった。


「はーい」


どうやら、彼女の名は「緑川」と言うらしい。


 彼女は去り際にて…

去り際にて、チラリと、悠人の方に視線を流した。

振り返った、その表情には、薄ら笑いが張りついていた。


 少女(緑川)は受付に行くと。

高校生のような外見にも関わらず。


「はい…」「…そうですね」「…お願いします」と、丁寧に受付を済ませてゆく。

そして、滑らかな緑髪を揺らしながら、病院の廊下へと消えていった。


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