17話・勇者の切り札
手加減を知らない、敵の攻撃が襲いかかり。
その一撃が、ヨハネを粉砕する寸前。
直情的な攻撃が…
両者の決闘に、割り込んできた。
未熟ながらも、真っ直ぐな攻撃。
対象はガイアであり…彼の体勢が大きく揺らいだ。
漆黒の鎧に包まれた、その巨体が、ボールのように吹っ飛ぶ。
何とか一命を得て。
ヨハネは、安堵のあまり膝を落とした。
そんな勇者の元へ…
一人の仲間が、一早く駆けつけてきた。
「ヨハネ!大丈夫か?!」
その者は、勇気の勇者「ドラゴ」
ガイアとヨハネの戦いに、割り込んだのは…勇気の勇者だった。
彼は、展望台から危機を察して。
こうして、助人に来たわけだ。
だが、しかし…
奇襲によって、吹っ飛ばされても。
ガイアは平然と起き上がり、鎧についた埃をはらう。
相手(漆黒騎士)の余裕からして。
ドラゴの攻撃は、脅威ですらないらしい。
「俺たち(黒騎士)の鎧は、パーフェクトってヤツだ」
トントンと、自分の鎧を突きながら、自らを「完璧」と表す。
まさしく、その通り…
彼の台詞は間違っていない。
黒騎士の鎧は「恐怖の意味」で、人々の伝説になっており。
かつて起きた…神々と黒騎士の「戦争」の時。
黒騎士たちは、傷一つすら負わず、神々を虐殺したのだ。
この「黒騎士の鎧」の伝説は…
余りにも有名だが、こうして本物(伝説)を、目の当たりにしてみると。
おとぎ話が「絶望」に変わるのを実感する。
ドラゴは震える手を抑えながら、何とか盾を構えた。
すると…勇者の盾を、ガイアが嘲笑ってくる。
「気味の悪い盾だな」
どうやら、この盾に記された「聖天使アベル」が。
ガイアにとっては不気味らしい。
「アベル…か?まあ、どうでもいい」
「お前らを消せば!全部終わりだ!」
二人の勇者を睨み、ドス黒い殺気を燃やす。
一瞬にして、空気が一変。
危機を察して、ドラゴの直感が働く。
もはや、二人だけで、どうにかなる相手じゃない。
「二人じゃ無理だ」
後方に隠れていた…天使の勇者に助人を頼んだ。
「ウェイン!君も戦え!」
「俺が援護するからッ」
だが、肝心のウェインはと言うと。
「ああ、アベルさま。アベルさまぁ~」
そのナリ(装備)は戦車みたいなのに。
まるで、子羊のように震えていた。
ヨハネの方は、多少の疲労はあるものの。
懐の「短剣」に手をやり、抗う姿勢は見せている。
ドラゴは、対抗する為。
懸命に頭を回転させるものの…そんな猶予を、敵がくれる訳もなく。
ゴッオウ!
重い鉄拳が、ドラゴの盾に襲いかかってきた。
今度は彼が吹っ飛ぶ番。
構えていた盾もろとも、彼の体が…ぶっ飛んでゆく。
背中から、地面に叩きつけられて。
息がつまり、呻き声が漏れた。
「うッがぁ!」
圧倒的な力で、勇者を殴り飛ばし、余裕を見せるガイア。
「どうした?おまえの力(勇気)は、その程度か?」
ドラゴは、何とか立ち上がるが…
その場に立っているので、やっとかっと。
そんな戦友の危機を見て…
ヨハネは「とある行動」をする。
その選択(行動)は、手にある短剣と関係しており。
短剣を握るヨハネの姿を。
朦朧とする意識の中…ドラゴは視認(確認)した。
まだ…だ。
まだ、勝負は決していない。
二人にはまだ「切り札」が残されているのだから。