15話・漆黒騎士・ガイア
「いっ!いやぁあああああああ!」
大きな悲鳴が、街中に響き渡った。
その悲鳴は、絶望の幕開けであり。
魔王の軍勢が、はじまりの街を、襲撃してきた事を意味する。
漆黒の鎧を纏いし者共が…瞬く間に、街全体を包囲。
三十騎ものの黒騎士たちが、街の中へと雪崩れ込んできた。
広間、一番街、市民区…と。
人々の居場所が、瞬く間に支配されてしまい。
迫りくる絶望を前に…戦いもせず。
皆(一般市民)が、手を合わせ祈り続けた。
「聖天使アベルよっ!どうか、ご加護を」
老人が、女が、男が…
意志を束ねて、正義とやらにすがっていた。
「アベルさまが、お前らなんか!やっつけるんだい!」
そして、子供たちまでも。
ただひたすら…「天使!アベル!」と連呼している。
しかし…
そんな存在(聖天使)が、都合良く現れる訳もなく。
敵側(黒騎士)の足並みは、強まる一方だった。
悪の騎士たちが「祭り」の会場を荒らしてゆく。
彼ら(黒騎士)の先頭には。
周りの騎士とは、風格の異なる「リーダー格」が一騎。
そのナリ(体格)からは、凄まじき殺意が漂い。
普通の黒騎士よりも、桁違いの戦闘力があるのは…一目瞭然。
この覇者(リーダー格)こそ。
史上最強の黒騎士「漆黒騎士ガイア」
その名は、伝説の領域であり。
かつての神と黒騎士の戦争で…神々を虐殺した「無敵の黒騎士」だった。
これらの逸話から…
魔王が「憎まれる存在」なら。
彼は「恐れられる存在」と言えるだろう。
漆黒騎士ガイアは、ダニ(一般人)に眼中はない。
部下(黒騎士)の大群を背に、本命の獲物を睨む。
そのターゲットとは。
人類の切り札でもあり、聖天使の加護を受けた「勇者」。
そして、この場に居合わせた勇者は二人…
天使の勇者・ウェイン。
変革の勇者・ヨハネ。
ヨハネ(変革の勇者)は、恐れる事なく…果敢に敵勢と対峙した。
しかし…
ウェインの方は、ヨハネの背中に隠れて。
敵の威圧感に恐怖し、すっかり縮こまっていた。
最強装備にも関わらず、小動物のように震えあがり。
堂々と演説をしていた様が、見せかけの嘘のように感じられる。
戦う意志があるのは、変革の勇者のみ。
ヨハネは引くことなく、堂々と声を上げる。
「僕らは、魔王など!恐れない!」
そんな勇気を、ガイアは嘲笑った。
「ガキがッ、勘違いしているぞ?」
「なんだと!?」
余裕の態度で、世間知らずの子供に教えてあげる。
「魔王なんざ、必要ない」
最強の黒騎士は、自らの主(魔王)を『いらない』と切り捨て。
「この俺が、お前らを潰すんだよ」
自分が勇者を潰す…と、強い意志に燃えていた。
配下の黒騎士たちに、戦う様子はなく。
彼ら(黒騎士)はギャラリーとして、リーダー(ガイア)の戦いを見ている。
どうやら…
相手側は「一対一」の決闘を望んでいるらしい。
「さあ来い、変革の勇者よ」