139話・世界の片隅で
順を追って、目的を説明すると。
受付の看護師は、さほど考える様子もなく。
「ああ~なるほど」と…
棚の奥から、とあるモノを探り出した。
ソレは、平らで四角く、薄汚れた布に包まれている。
「鈴木先生の私物は、コレだけですね」
「…どうも…」
カイルは、叶の私物を受け取り。
適当に礼を述べてから、受付に背中を向けた。
そして…
一人の「愚か者」が奮闘した舞台(病院)から立ち去る。
去りゆく緑髪を、覗き見しながら。
受付の二人組(看護師)は、ヒソヒソ話をする。
「あの人だけよ…叶先生が亡くなってから、来てくれたの…」
「あの『ダサ男』顔すら見せないじゃない」
「本当、最低な男ね」
その影口によると…
『鈴木悠人』は、妻の峠以降、一度も病院を訪れておらず。
「妻を置いて逃げた…」という悪い噂だけが広まり。
最低の旦那…と、病院内で呼ばれていた。
結局、現実世界でも、鈴木悠人は厄介者…
悩み、迷い、そして戦った「お人好し」の事なんて。
誰一人…この東京において、知る者などいなかった。
カイルは「包み」を片手に、橋の上を歩いてゆく。
この橋こそ…
不器用な「異世界転生」のスタート地点であり。
異世界への門…そのものだった。
やがて、この橋の工事も終わって。
工事が完了してからすぐ「ゲート(門)」としての役目を失う。
現在、この橋は、多くの人足が行き来しており。
ビジネススーツの人混みで溢れていた。
もう、この橋も、どこにでもある「便利な通勤場所」でしかない。
カイルは、同じ格好をした人混みの中を進み。
「包み」を抱え、とある場所を目指す。
緑髪の悪魔が訪れた場所…
そこは、東京の片隅にある「小さな公園」だった。
広場の中央には、一本の木が立ち。
大きな木の下で、子供たちの笑顔が輝いていた。
そして…
公園の隅にある、小さなベンチに一人、とある「幼女」が座っていた。
その髪型は、黒髪のポニーテイルに。
白の道着に、黒のドレスという、ヘンテコな恰好をしている。
彼女(黒髪幼女)は、ベンチの上から子供たちを眺め。
ふと「何か」に気づき、ゆっくりと席を立った。
その行き先は、大きな木の下で。
一人の男の子が、木を見上げながら泣いていた。
この子は、五~六歳ほどだろうか?
彼女(黒髪幼女)よりも頭一つ分、小さかった。
メソメソ…と泣く男の子へ…
黒髪幼女が、優しく穏やかに声を掛けてあげた。
「どうしたんだい?」
ちょっとだけ、ぎこちない口調に問われ。
男の子は泣きながら、その視線を上げた。
次回で最終回になります。
皆さん!最後までよろしく!