138話・11月23日 病院
この章からラストになります。
どうぞ、最期までよろしくお願いします。
それから、数日ほど時が流れた…
今日の天気は快調で、病院の客足も多かった。
そして…
病院の待合室にて、少女の姿が一つ。
その身なりは、ゲームのロゴが記されたシャツにジーパン。
緑髪の下から覗く紅の瞳は、沈黙の空間を見つめていた。
緑髪の少女「カイル」は、個人的な用があって。
今現在、一人で病院を訪れていた。
悠人の妻「鈴木叶」が亡くなってから。
二~三日ほど…日数を跨いだが。
彼女(叶)の為に、この病院に足を運ぶ者はおらず。
鈴木叶の生きてきた記憶(足跡)が…
この東京から、この日本から…そして、この世界から消え去ろうとしている。
カイルと悠人が、初めて出会った日。
病院の待合室は、二人(悠人とカイル)しかいなかった。
だけど、今日の病院は人が多く。
カイルの『個人的な用』を済ますには、多少の時間が掛かった。
受付の看護師が、流れるように手続きを済ませてゆき。
女性に老人、子供と…順番が回る。
そしてようやく、彼女の名が呼ばれた。
「緑川さーん」
『緑川』という苗字は…
カイルが、この世界(日本)で使っている名前であり。
彼女自身「緑川愛七」という名は、嫌いじゃなかった。
「はーい」
軽く返事をすると…紅の瞳を受付へ流す。
一歩一歩、歩くたびに。
滑らかな緑髪が、フワリと揺れる。
その幻想的な髪質で、嫌でも人目を引いてしまうが…
人の目など気にせず、さっさと要件を口にする。
「鈴木叶さんに、用がありまして」
受付の看護師に、亡くなった叶の「関係者」だと伝え。
そして…
「叶さんの私物を、受け取りに来ました…」
いつもの口調(敬語)で。
叶が「残した物」を、回収しに来た…と伝えた。