136話・慈愛の勇気
ドラゴは、展望台に昇ると。
ずっと探していた背中へ呼びかけた。
「ミュウ!」
彼の声に反応し。
長いピンク髪が、風の中で揺れた。
振り返ったミュウは「大丈夫…」と微笑むものの。
その目元には、ほんの少しの涙があった。
そんな彼女に、ドラゴは問う。
「泣いて…いるのかい?」
涙への疑問が、ふと言葉になった。
「うん」
ミュウは、ゆっくりと頷きながら、涙の理由を綴る。
「悠人」の優しい背中を、思い浮かべながら。
今、この瞬間…
自分にできる精一杯の戦い(嘘)を貫いた。
「…魔王が、怖かったの…」
悠人の役割は、魔王なのだから。
幼女魔王を最後まで「悪」として、語らねばならない。
それが…きっと…「魔王ハルバート」なのだ。
ドラゴは何となく、彼女の嘘を察する。
「そうかい…」
そして、嘘の理由を問うこともなく。
この場から去る為に、ミュウの手を握った。
「ミュウ、逃げよう」
勇者ドラゴは、大切な人の手を取り。
ミュウを連れて、この街から立ち去るつもりだ。
ミュウは、涙を拭いながら…
彼と肩を並べて走った。
そして、展望台から降りると。
二人だけが知っている「秘密の抜け道」へ足を向ける。
二人の足が、抜け道へ踏み込む寸前。
ミュウが、ピタリ…と、その場で止まった。
彼女の視線は、虹色に輝く夜空を見上げており。
その視界に映ったのは「一閃の流れ星」。
ミュウは、この流れ星を見て。
コレ(流れ星)の正体が、フェルゴールのスラスターだと理解した。
「ミュウ…」
立ち止まった彼女に、ドラゴが声を掛ける。
名前を呼ばれて、ふと我に返ると。
長いピンク髪を、なびかせながら…抜け道の奥に足を進めた。