135話・悪の定め
人々の暴力が終わり、勇者ドラゴは自由の身となった。
袋叩きにされた体は、歩く度に悲鳴をあげたが…
傷ついた勇者は、それでも走った。
大切な幼馴染…ミュウを探し求め、ボロボロの体を動かし続けた。
決戦が終わった今。
人々は皆、聖天使の敗北を悲観しており。
裏切り者(勇者)の事など、どうでも良いらしい…
ドラゴの体はもう、ボロ像銀のようだが。
それでも、ピンク髪の少女を懸命に探し続けた。
あの「ポニーテイル」を見たい…と走る他なかった。
視界も意識も、朦朧としているけれど。
ドラゴには、彼女の行く当てに、心当たりがある。
そこは、二人にとっての「特別な場所」。
「…展望…台…」
ぼんやりと呟きながらも。
傷ついた体を、展望台へと向かわせた。
芝生の覆い茂る地に立つと…
ドラゴは、その先に聳える展望台を見上げた。
そして、このとき。
ピンク色の髪の毛が、夜風を受けて優しく揺れた。
「ミュウ!」
ようやく、探し求めていた人を見つけ。
感情の行くまま、展望台の階段へ足を運ばせる。
穏かな夜風に、ピンク色の髪が揺れた。
髪を解き…長髪になると。
髪全体が、優しい風を受け止めくれて。
穏かな静寂を「感じる」事ができた。
ミュウは想う…
優しくて不器用な「魔王」の事を。
夜空一杯に広がる色彩を見て、黒髪ポニーテイルの姿を垣間見た。
そのビジョンこそ…
「魔王ハルバート」が歩く物語。
ミュウは、せめて自分だけでも。
魔王の旅を、讃えてあげたいと思った。
それなのに…
「はる…と…」
涙が流れてしまう…
自分には、泣く資格なんて…ある筈もないのに。
とても寂しい「ちいさな背中」を思い出すと、涙が溢れ出てきた。
ちっさな体一つで、あらゆる世界を駆け回り。
「みんな」を守る為…孤独に戦い続ける。
そして、魔王の「優しさ」は、誰からも気づかれず…
助ければ、助ける度…
守れば、守る度に…
嫌われ、憎まれて、そして「恐れられる」。
このルール(仕組み)はきっと、魔王である事の責務なのかもしれない。
それでも、だとしても…きっと。
「ぶきっちょ魔王」は、みんなを助けに行くのだろう。
カッコ悪くて、ぎこちなくて、不器用でも。
とおい空の彼方から…
他の異世界を、助けに行くのだろう。