132話・「ハルバート・シュバルツ・ハイツ」
もう、人間には…『鈴木悠人』には…二度と戻れない。
もう、大切な思い出は、返って来ない。
「僕っ!は…」
「魔王だっ!」
奮い立つ感情と共に、自らの役割を受け入れる。
鈴木悠人ではなく…
緑髪の悪魔から与えられた…極悪魔王としての名を叫んだ。
「ハルバート!だっ!」
涙が零れる…
幼女魔王の瞳から涙が流れ…
一粒の涙が透明の水滴となり、無重力の空間にて漂った。
そして、一発…たった一撃のみ。
『ハルバート・シュバルツ・ハイツ』の一撃が放たれた。
幼女の拳から放たれる一撃。
技術の欠片もない、カッコ悪い…素人の正拳突き。
たったそれだけの「パンチ」だけで…
SSたちのレーザーシステムが消滅。
紅の弾幕が、幻想の如く消え去り…一瞬にして無力化された。
レーザーシステムによる「赤色」が無くなり。
緑色の宇宙が、元の姿「エメラルドグリーン」の色彩を取り戻す。
しかし…
魔王の攻撃による影響は、コレだけに留まらず。
次の瞬間…
あらゆる法則が崩れ、宇宙全体が歪んだ。
緑色の無重力空間が、グニャリ…と動き、宇宙の構造が崩壊してゆく。
そのスケールは、ビックバンやブラックホールが、子供の悪戯に感じられる程で…
魔王ハルバートの「一撃」だけで…
グニャリ…グニャリ…グニャリ…と、緑の宇宙は悲鳴を上げるように暴れ回り。
もはや、この「変革と崩壊」は、常識と想像の範疇を越え。
たかが「超技術のロボット」などに、対処ができる筈もなく…
SS群(殺戮マシーンたち)は成す術もなく、混沌の宇宙にへと飲まれてしまう。
SSの装甲は、超技術によるフレーム(装甲)を得ており。
たとえ、ビックバンと接触しようとも…
彼ら(SS)は、簡単に修復する筈なのに。
そんな力(性能)を保有していても…
超高度の金属フレームが、塵の如く、ゴミ屑の如く…崩れて消えてゆく。
そう、たとえ最強のロボットたちであっても…
宇宙の変革にとっては、消えて無くなる「小石」程度でしかなかった。