131話・代償
緑色の宇宙は、SSの軍勢の領域と化し。
上下左右…あらゆる宙域で、殺戮ロボットたちが飛行していた。
小さな外敵(幼女魔王)が、自分たちのテリトリーに踏み入り。
SSたちの敵意が、幼女魔王「一点」のみに集中。
敵(殺戮ロボット)の数は、無限大にまで増殖し。
今もこうして、現在進行形で「増殖」し続けていた。
彼ら(SS)は、一寸の誤差すらなく『レーザーシステム』を作動。
エメラルドの宙域が、混沌のクリムゾンレッドに変貌してゆく。
あか、アカ、赤…
レーザーの影響により、宇宙そのものがグニャリ…と歪み。
混沌の紅が、無数の束を重ね。
その弾幕は…もはや、数値で想定できる範囲ではなかった。
光線の一つが、惑星を蒸発させる威力を持ち。
ここまで「デタラメ」な領域となれば、神や悪魔であっても対処できないだろう。
視界一杯が、赤色に染まりゆき。
こんな地獄を前にして…
悠人は、ちっこい拳に力を込めた。
想像を飲み込む程の脅威が迫っているのに。
悠人の意識は、敵軍(SS)には、向けられていなかった。
それどころか…
悠人にとっては…アベルとか、SSとか、魔王とか。
異世界転生によって体験した「あらゆる事」は全部…難しくて良く分からない。
だけれど…
たった一つだけ、確かな事があった。
ソレは…頭が悪くても、不器用でも。
「大切な人」為に、運命に抗ったという事だ。
………大切な……人………?
この瞬間…
大好きだった「あの笑顔」を思い出した時。
悠人の記憶が、グニャリ…と歪んだ。
「…叶…」
はじめて公園で出会った…あの笑顔が遠のいてゆく。
思い出という「宝物」から、色彩が失われてゆく。
「……かな…え……」
叶が倒れた…夏の夜。
一人の男が、カスのような勇気を振り絞り。
傷だらけの手で、必死に木にしがみついた「カッコ悪い冒険」。
「か…な………」
………消えてゆく………
あの笑顔も、あの公園も、あの冒険も。
記憶の箱から、砂の如く零れ落ちていった。
「……っ……」
悠人の記憶から、宝物だった「思い出」が消失…
異世界転生の「最後」の代償として…
叶との思い出そのものが、完全に脳内から消滅した。
それでも尚…
その拳を奮い立たせた。
…鈴木悠人…いや…
極悪なる幼女魔王は、たった独り…戦う事を選んだ。
幼女の右手に力を集中、殺戮ロボットたちと、真正面から対峙する。