129話・崩壊する感覚
機械天使(SS)の軍勢によって…
グリモワーツの上空は、完全に支配されていた。
敵の数は、数え切れないけれど。
今の悠人ならば、あらゆるモノを、細部まで見通せた。
空を駆け回るなど…覚醒した幼女魔王ならば造作もなく。
「一秒」もあれば、時間は十分だった。
音速、光速、スピードの概念を無視して。
常識も想像をも凌駕した次元で、グリモワーツの上空を飛び回る。
魔王ハルバートには…
「飛行」とか「飛ぶ」とか、そういったシステムは必要なく。
米粒のような幼女の体を「動かす」だけで十分だった。
陸だから、歩かねばならない…空だから、飛ばねばならない…
そういった「常識」など、デタラメ魔王には備わっておらず。
ただ言える事は…この幼女魔王にとって。
地上も上空も、宇宙だって…等しく「平坦で鈍重」な領域に過ぎないという事だ。
空を飛行している、殺戮マシーンたちが、瞬く間に爆散してゆく。
連鎖してゆく爆発音と共に、200mもの巨体が木端微塵となり。
SSの金属フレームは欠片も残らず…
銀色の粉雪となって、グリモワーツの地へ舞い降りた。
空の上から、銀の雪が降ってきて…
世界中の人々が、声を上げて声援を掲げた。
彼ら(市民)の思いは一つとなり。
希望と正義の天使(SSとアベル)へ「純粋な声援」を捧げる。
まさか、極悪の魔王が、自分たちを守っている…なんて。
誰一人…見向きもしないし、興味すらも抱かなかった。
悠人は、SSを破壊してゆく内に…
あらゆる「感覚」が、欠落してゆくのを自覚していた。
…零れてゆく…
色々なモノ(感覚)が、自らの手から零れ落ちてゆく。
音が遠のき、視覚から色が消え、肌の感触さえも失う。
もはや…
聞く必要も、視る必要も、感じる必要もなかった。
あらゆる存在を、あらゆる現象を、一瞬にして完全把握。
ここまで『覚醒』してしまったなら…もう。
人間とも、生物とも表せず…超能力者や神とも表せない。
まさしく常軌を逸した…アンノウン(正体不明)だった。