12話・邪悪を踏み潰す
ヨハネとドラゴは、嫌々な様子。
どうやら、乗り気なのは、ウェインだけらしい。
勇者の演説が、高々と響く。
「我ら勇者は、正義のために!『ノドの地』を目指す!!」
勇ましき台詞が、群衆を昂らせてゆく。
彼ら(勇者たち)が目指す目的地は『ノドの地』という聖域の一つ。
ノドの地は、生命と幻想に溢れる、美の大地であり。
巨大な木人が、緑の地を踏み。
一角のユニコーンが、虹色の空を飛び。
美しき妖精たちが、宙を舞っている。
そして、美しき幻想の果てに。
汚れ無き泉が、視界一杯に広がっている。
これらの逸話こそ。
彼ら(市民)にとっての理想郷(ノドの地)だった。
だが、一番注目されている要素は。
『天使アベル』が、ノドの地で「眠っている」という伝説だ。
つまり…
ノドの地に赴き、聖天使を復活させる事が…勇者たちの使命なのだ。
「聖天使アベルの加護!」
「それこそが、我々の全てなのだ!」
ウェインの演説に、歓喜する人々。
皆の意識が、彼の言葉に集中してゆく。
そんな演説を聞き流しながら。
ドラゴは、とある事に気づき、隣にいるヨハネに問う。
「なあ、ヨハネ」
彼が気にしているのは。
慈愛の勇者「ミュウ」の事だった…
「ミュウが、見当たらないけど?」
勇者は祭りの代表なのだから。
四人全員が、揃っているはず…だが。
ここにいるのは、三人。
勇者の数が一つ、不足しているようだ。
彼に聞かれて。
ヨハネは、ボンヤリと思い出すように答えた。
「君のガールフレンドなら。風に当ってくるとか…」
ヨハネが言うには。
彼女はどうやら、祭りの最中に、抜け出したらしい。
「なにか、変わった様子は?」
「そう言えば、籠…を持っていたな」
その情報に、ドラゴは、察するように頷いた。
「ありがとう、ヨハネ。あとは、任せるよ」
ドラゴは、そう言い残してから。
さっさと、慈愛の勇者を探しにいく。
その去り際にて。
ウェインが、変革の勇者を指名していた。
「さあ、聖剣ヨハネよ!前にでよ!」
ご指名が入り、ヨハネは、嫌々ながらもステージに向かう。
更なる勇者の登場に、拍手喝采の嵐。
賑わうステージの裏側から。
ドラゴは、盗人の如く立ち去ってゆく。
ずっと…ずっと…
ウェインの演説が、しつこく響き渡る。
「正義を超越した正義が!」
「極悪非道の魔王を、踏み潰すだろう!」
悪の存在を、聖天使が『踏み潰す」と…