124話・さようなら…
次回の125話から、異世界パートになります。
どうぞ、よろしくお願いします。
病室の時は、まるで静止したかのよう。
一寸の物音すらなく…
叶とカイルは、沈黙の中にいた。
カイルは、悠人の望み通り。
寄り添い人として、叶の最期を見送る。
紅の瞳が、何を語るのか?
「………………」
言葉は不要と…言わんばかりに。
静かなる沈黙が、永遠と連なってゆく。
鈴木叶の「終わり」は間近に迫り。
目も見えず、耳も聞こえず、微々たる呼吸すらもできない。
目が見えなくて、意識が朦朧としても。
愛用の筆を、ギュッと握りしめて…
逃げも隠れもせず、これからの結末に対峙していた。
まさに、一筆入魂…
作品そのものに「最後の思い」を委ねる。
ゆっくり、ゆっくり…音もなく。
未来への希望を、タッチに乗せて、旅の終着地点へ辿り着く。
そして遂に
叶の筆が、ピタリ…と止まった。
この瞬間…彼女は見た…見通した…
それと…
これから待っている、幼女魔王の冒険を。
このビジョン(光景)はきっと…これからの未来。
不器用でお人好しな「愚か者」の物語。
「さようなら…」
静かな涙が、優しく零れゆき。
その手から、フワリ…と力が解けていった。
愛用の筆が、冷たい床に落ち。
コトン…
軽やかな物音が、静かに終わりを告げた。
「ぶきっちょな魔王さん」
11月20日…雨の夜。
鈴木叶は、暗い病室の中で、永遠の眠りについた。
優しく眠る表情は…
不器用な男と出会った、あの日と。
公園で出会った、あの日と。
まったく同じ、優しく穏やかな「笑顔」だった…