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121話・孤独ではない…この戦い


しかし、もう…

悠人の耳に、カイルの思い(言葉)は届かなかった。


「僕が、いかなきゃ…」


 妻との誓いが、異世界へと誘う。

この感情が、この体が、求めている…「みんな」を守る事を。


 決心がついたなら、もう止まらない。

「とあるモノ」を彼女カイルに手渡してから。

叶の病室から離れ、戦う道を選択した。


 カイルに渡したのは『叶の筆』。

あの日…公園で無くした、愛用の筆だった。


「………悠人さん………」


 カイルは、筆を受け取ると。

全てを察するように、黙り込んでしまった。


「叶の傍に、いてほしいんだ…君に…」


 この言葉は、悠人の些細な願いだが。

カイルは、頷くことなく…紅の瞳を伏せていた。

悠人は、そんな彼女カイルに、心から感謝した。


「ありがとう」


そして、男は「また間違う」。


大切な人の為に「間違う」。


 これは、一人の戦いではない。


叶と悠人…『二人』の戦いなのだ…


 悠人の背中が遠のいてゆく。

最期のチャンス、トゥルーエンドから離れてゆく。


 彼の意識は「工事中の橋」にへと集中。

皆を守ると…自らの感情を奮い立たせた。


 緑髪の悪魔…カイルは叫んだ。

間違った決断をする、男の背中へ叫んだ。


「正しい道は、一つしかありません!」


届かぬと分かっていても、愚か者の背中へ叫んだ。


「それは、あなたらしい道を歩く事です!」


しかし、彼女の思いが、届く事などなかった。




 病院から出た途端。

嵐のような豪雨、悠人を待ち受けていた。

激しい雨に打たれようとも、もう…この男は止まらない。


 ずぶ濡れになって、視界が霞んでも。


 この先を走り抜ける事…それのみに、意識を集中させた。


 走る…死に物狂いで、走り抜けてゆく…




 病室の扉が、ゆっくりと開かれ。

カイルは静かに、叶の元へ寄り添うと…

もう終わりの近い、彼女(叶)の横顔を見守った。


 叶は、痛々しいほど衰弱しており。

全身がやせ細り、その体はもう…動きそうになかった。

 その目は、もう見えなくて…

気配のみを察して、ほんの少しだけ、頬を緩ませた。


「は…る…と……?」


どうやら、カイルの気配を、自分の夫と重ねているみたいだ。


「………………」


カイルは返事をせず、沈黙を貫きながら。


 悠人から託された『一本の筆』を…

愛用である筆を、彼女の手元に返してあげた。


 愛用の筆が戻ってきて…

衰弱した叶の手に、僅かな力が戻った。

 小さな力が、最期の力を貸してくれて…

ほんの一時のみ、鈴木叶に、戦う猶予が与えられた。


そして…

一枚の絵を取り出し、最後の作品制作に挑む。




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