120話・最後のゲート
後は、グリモワーツの「全生命」が。
異世界にいる全人類が、SSによって「殺戮」されるだろう。
あの異世界が、あのグリモワーツが、どうなろうとも。
鈴木悠人の世界(東京)には、何の影響もない。
だが、それでも…
「叶の願い」が、鈴木悠人の本能を動かす。
「僕が、いかないと…『みんな』がっ」
散々、自問自答をした挙句…
「当たり前の答え」を見つけたのに。
やっと、正しいルートに気づいたのに。
この愚か者は「また」荒ぶる感情に突き動かされて。
間違いのルートへ、踏み込もうとした。
体が反射的に動き、意識はすでに「物置部屋」へ。
すると…
緑髪の少女が、悠人の行く手を阻んだ。
今のカイルは、軍服礼装の姿をしており。
彼女が真剣なのだと伺えた…
「物置部屋にいっても、ムダですよ」
「『異世界転生』は諦めて」
どうやら、あの物置部屋は、ゲートとしての役割を失っており。
普通の物置部屋に、戻っているらしい。
彼女が言うには、幼女魔王が聖天使に敗れた時点で。
異世界グリモワーツの将来性を見捨て…
現実世界(東京)からの転生手段を、破棄したらしい。
依頼主は、もう「転生」は出来ないと言う。
だが…しかし。
悠人は、たった一つだけ。
あの異世界へ、行く(転生する)方法を知っている。
そこは…
この物語が始まった場所『工事中の橋』。
負け犬の意識が、最期の入口に傾いたとき。
悠人の思考を見通すように、カイルの言葉が遮った。
「悠人さん…」
「もっと自分に…やさしくなって」
紅の瞳は、知っている。
鈴木悠人にとっての「幸せ」を、理解している。
ゆえに、彼女が何を伝えたいのか?
考えずとも、察する事ができた。
大切な人の傍にいること…
これこそが、悪魔の望み…惨めな負け犬への気遣い。
「いいじゃないですか。負けても、失敗しても…惨めでも…」
「悠人さんは、悠人さんでしょう?」
その瞳を、フワリと緩め。
惨めな凡人と対等に、穏やかに言葉を繋ぐ。
「貴方の『ストーリー』には、誰も気づかないかもしれません」
でもね…と、カイルは一歩踏み出して。
どこにでもいる、平凡な男の顔を見上げた。
「悠人さんの物語が、大好きなんです」
「叶さんも…そして…」
『そして』と、言いかけて。
彼女はじっと…その先の台詞を止めた。
カイルは「良い」と言う。
負けても良いと…
惨めでも良いと…
愚かで無能でも良いと…
他には何も望まない…
これから待っている「現実」を、受け止めてほしい。
ただ、それだけを望んでいた。