114話・舞い降りた天使たち
彼女の行き先は一つ。
ドラゴとミュウ、二人だけが知っている「展望台」だった。
展望台は、この街の片隅にあり。
この隠れ家を知る者は、とっても少なかった。
その上、展望台の下には、秘密の抜け道があるので。
逃走ルートとしては申し分ない。
幼女魔王(悠人)を抱きながら、ミュウは茂みの中へ踏み込む。
茂みの向うには、展望台が待っており。
そこさえ過ぎたら…抜け道へ避難できる筈だ。
だが、しかし…事の展開は、とてつもなく早く。
頭上から、機械音が響き渡った。
オーロラ(虹色)の空から、天使たちが次々と降臨してくる。
殺戮の機械たち…SSの軍勢。
何千、何万と…その数が増殖していった。
機械天使たちは、はじまりの街を包囲…
神々しき翼を、次々と展開させてゆく。
彼ら(SS)の使命は、あらゆる生命を「殺戮」すること。
潰し、殺し、殺戮する…ただソレだけが。
生命殺戮機構「SSシステム」の機能(使命)。
彼ら(SS)には、善悪の価値観などなく。
人類が求めた「希望の天使」は所詮、理想のこじつけに過ぎない。
SSが、グリモワーツに降臨した目的はシンプル(単純)。
いつもの単純作業(殺戮)の為だった。
食料(あらゆる生命)を収穫(皆殺し)にするためだった。
機械の天使たちが、はじまりの街を完全包囲。
人々の歓喜と声援が、街中に響き渡った。
「ああ、天使よ」
人々の純粋な声援を受けて、機械のモノアイが、ギロリ…と光る。
ここまで冷徹な眼光を前にしても、人々は疑わなかった。
「神々しき、正義の翼よ」
正義と希望を…聖天使による加護を。
「アベルさま!万歳!」
「聖天使アベル」への万歳三唱が湧き上がる。
「みんな」が望んでいる…聖天使(正義)の勝利を。
「みんな」が望んでいる…魔王(悪)の敗北を。
人々の意識が、機械天使に集結してゆき。
裏切り者を、袋叩きにしていた者たちも。
ドラゴを殴るのを止め…その手を、天へとのばした。
彼らもまた「アベル万歳」と口を揃える。
無慈悲な暴力が、一旦中断したものの。
傷ついたドラゴは、朦朧としながら「殺戮マシーンの大群」を目視。
もはや、恐怖という感情すらも凍りついた。
恐怖すらも通り越し、もう冷や汗すらも流れない。
もう、勇者には、何もできない。
こうなってしまえば「世界の終わり」コンマ一秒前…
今のドラゴには、プライドもクソもなく。
頭に過ぎるのは、ミュウの「安全」だけだった。