113話・小娘の命令
二人は、ひたすら走り続けた。
彼女のポニーテイルが、走る度に揺れ。
その後に、フェルゴールが続く。
幼女魔王は、金属アームの中で目を閉じたまま…目覚める様子はない。
勇者が囮になって、時間を稼いでも。
全てのヘイト(注意)を、引き寄せる事は不可能。
他の人間が分担して、逃走する二人を追い詰めてゆく。
「いたぞっ、にがすな!」
怒りと憎悪の行くままに、人々は群れを成し。
ドロドロとした感情によって、二人は追いつかれてしまった。
ここまで追いつかれたなら…これ以上、逃げ続ける事は不可能。
だから…
フェルゴールが、ミュウに「次の展開」を託した。
「おい、小娘」
適当に気軽に、ミュウに声を掛けてから。
まるで、荷物を預けるように…
腕に抱いていた、主人(幼女魔王)を、彼女に預けた。
「魔王さまを、頼んだ」
そう言いながら、ロボット騎士は人々と対面した。
ミュウは、悠人(幼女魔王)を抱きかかえながら、フェルゴールの背中を見た。
彼の余裕が一目で分かる。
間違いない…フェルゴールは、一般市民を消す「殺す」つもりだ。
「フェル、お願い」
だから彼女は、ロボット騎士に、身勝手な要望をする。
「誰も、傷つけないで…」
ソレ(要望)は、甘くて身勝手な『ご都合主義』。
フェルゴールが、聞いてくれるのか?確実とは、断言できないけど…
彼女は、このロボット騎士は、他の黒騎士とは違う…と知っているので。
心の底から純粋に、彼に信頼を置いていた。
フェルゴールは頷きもせず、視線すら合わせようともせず。
いつものように淡々と応えた。
「………さっさといけ」
後の事はフェルゴールに委ね。
ミュウは悠人を抱えて、再び駆け出していった。
怒りに燃える群衆が、怒涛の勢いで迫りくる。
まあ…フェルゴールにとっては。
人間が幾ら群れようとも、一ミリたりとも障害にならず。
レールガン一発で、彼ら(一般人)を塵に返せる。
だとしても、武装を振るう気はない…勇者に「甘ちゃんな頼み」をされたから。
ゆえに、武装ではない「制圧システム」を起動。
フェルゴールの背部が可動変形…
次の瞬間、辺り一帯にて、電子パルス(電磁波)が走った。
電子パルスの影響によって、石や塵など、あらゆる物質が宙に浮く。
そして…
ビシィッ…
僅か一瞬のみ、紅の閃光が輝き。
この範囲(十メートル)の空間が「完全に静止」した。
物質も空間も、時間の概念すらも。
制圧システムによって機能を奪われ「停止」。
あらゆる存在が、フェルゴールによって止められた。
怒り狂った人々の表情は止まり。
騒がしかった群衆が、一斉に大人しくなった。
止まった時空の中で…
フェルゴールは、ミュウの背中を見送った。
ロボット騎士は、自らの行動を嘲笑う。
まさか、自分が…「小娘」の命令に従うとは…