112話・社会こそ正義
裏切り者、屑野郎…
皆の正義感が、憎しみへと変貌。
まるで狼の群れのように…涎を垂らしながら。
一匹の羊を、追い詰めてゆく。
「ドラゴっ!」
ミュウは、ドラゴの身を案じて叫ぶ。
だが、それでも…彼の決意は、決まっていた。
そして…
「逃げろ!魔王を、守るんだっ」
勇者らしからぬ台詞を叫んだ。
群衆の怒りと憎しみが、暴力に変わってゆき。
皆が怒涛の如く、ドラゴに掴み掛かった。
一発、二発、十発…
たった一人の子供相手に「殴る」「蹴る」などの暴力を振るう。
大切な人が、タコ殴りにされる光景に耐えきれず…歩み寄るミュウ。
「走るんだっ、はやく!」
一方的に殴られながら、ドラゴは叫ぶ。
その怒鳴り声が、ミュウの意識を固める事となった。
民衆の注意は、ドラゴに集中しており。
ミュウとフェルゴールが、抜け出すには十分な隙があった。
ロボット騎士は、幼女魔王を抱えながら。
思考する彼女の耳元で囁いた。
「さあ、どうする?」
まるで、その問いかけは…ミュウを試しているみたいだった。
これからの行動は、決まっている。
幼女魔王を…「悠人を守る」ただ、それだけだ。
「フェル…ついてきて」
まさか勇者に、ついて来い…と、命令されるとは。
愉快な展開に笑いながら、フェルゴールは彼女の後に続いた。
「フン、いいとも」
暴力に晒されるドラゴに背を向け、ミュウは次なる展開を目指した。
民衆に「蹴られ」「殴られ」ながら…
勇者ドラゴは、二人が去ったのを確認する。
あの二人が、魔王を連れてゆき。
一応、群衆(社会)の脅威から、幼女魔王を逃がせた。
もはや、アベル…
いや、あの「殺戮マシーン」は、生物では太刀打ちできないだろう。
そう、アベルと交戦できる存在は、たった一人のみ。
インチキやデタラメを合体させた「魔王ハルバート」だけだ。
世界の明日を、魔王に託すしか…未来は無いのだから。