111話・癌を庇う勇者たち
そして、あっという間に。
傷ついた魔王(悠人)は、ハイエナたち(人々)に囲まれた。
だが、このとき。
ピンク髪のポニーテイルが、フワリと揺れて…
「慈愛の勇者」が、人々の前に立ち塞がった。
慈愛の勇者…ミュウは、両手を広げてから。
傷ついた魔王を、全身全霊で庇った。
「みんなっ!まって!」
彼女は懸命に、心の内を叫ぶけれど…誰一人として、耳を傾けはしない。
それどころか、人々の「怒りと憎しみ」に、油を注ぐ事となり。
あらゆる方向から、罵詈雑言が飛び交った。
「この裏切り者!」
「小娘がっ、アベル様に立てつく気か?!」
こうなっては、勇者の尊厳など皆無。
彼女は人々の目に「反逆者」として、捉えられていた。
こんな窮地に立たされても…彼女に反撃はできない。
それも当然、彼ら(一般市民)に悪意など無いのだから。
彼らはただ…
純粋に「正義」を愛し、純粋に「悪」を憎んでいる…だけだから。
この社会(異世界)にとって、魔王は「癌」以外の何でも無いけど。
それでも、だとしても…
ミュウは、鈴木悠人の優しさを知っている。
かっこ悪くて、どんなに不器用でも。
とおい、遠い…空の向うから「みんな」を、助に来てくれた事を。
牢獄のとき、失楽天のとき。
お人好しの魔王は二度も、身を挺してミュウを守った。
だから今度は、自分が守る番だと。
ミュウは強く、悠人を守り抜く決意をした。
たとえ、袋叩きにされても、必ず悠人を守り抜いてみせる。
しかし、幾ら腹をくくっても。
憎悪に染められし人々の手は恐ろしく…恐怖に耐えるので精一杯だった。
そして、狂気の手が、彼女を捉える寸前。
「やめろ!」
いつも聞き慣れた「幼馴染」の声がした。
その怒鳴り声は大きく、皆の意識を奪い去った。
参入したのは、勇者「ドラゴ」。
しかし、今の彼は、正義などに拘っておらず。
ただ、一人の個人として。
聖天使アベルの脅威を、皆に伝える義務を背負っていた。
そんな義務を決心しながら、市民の前に立ち塞がるドラゴ。
魔王を庇う幼馴染の背中を見て…
ミュウは、驚きを隠せなかった。
だってドラゴは、悠人をあんなにも憎んでいたから。
群衆の憎悪が、魔王から、裏切り者にへと傾いてゆく。




