108話・どうして、戦うのですか?
フェルゴールはミュウを抱えながら。
カイルに金属の背中を向け、嫌味ったらしく言った。
「しかし、まあ」
「マックストーン…珍しいな」
煽るような彼の口調に、カイルはムッとして言い返した。
「あ?何が、ですか?」
彼女の口調には、若干の怒りが含まれており。
フェルゴールの「見抜いたような口調」が、気に入らないみたいだ。
「『いつも』なら、飽きて帰るだろう」
相手のペースに乗せられまい…と、カイルはダンマリを貫いていた。
「………」
そんな様子を察して…
フェルゴールが「とある者」の事を口にした。
「魔王のことか?」
突然、魔王の話題を持ち出され…
カイルの表情が揺らぎ、僅かな動揺がみえた。
「悠人さんは、関係ありま…」
せん…と、言い返そうとした時。
フェルゴールの一言が、ズバッと…割り込んでくる。
「惚れたか?」
たった一言だけで…
「ッ!!!」
カイルは、激しく動揺してしまい、清々しい程の慌てっぷりだった。
幼女魔王の事を…いや。
鈴木悠人の事を、カイルがどう想っているのか。
ロボット騎士は愉しみながら、おおよその事を察していた。
「いつ、フラグが立った?転生したとき…か?」
「いや、もっと前だな?」
都合の悪い質問から避けるように…
カイル自ら「アベル」に、話題を強制転換させる。
「でしゃばらないで下さい…アベルの事が重要でしょう」
はいはい…と、フェルゴールは適当な対応をし、これ以上「悠人」の事を問わなかった。
そして、背部と脚部のスラスターを起動。
ミュウを抱えながら、アポカリファの上空にまで上昇してゆく。
つぎの目的地は「はじまりの街」。
流れゆく空を見渡しながら、ミュウはロボット騎士に聞いた。
「はると…大丈夫……かな?」
その疑問は、幼女魔王への心配であったが。
「測定できない…まさしく『計算外』ってヤツだな」
フェルゴールにだって、あの魔王がどうなるのか?予測できなかった。
魔王の城にて。
たった一人、カイルだけが、取り残された。
紅き瞳は、ひたすら天を仰ぎ。
白い手を胸に置き、唇をギュっと噛みしめる。
今の彼女には…いつもの冷たい表情ではなく。
「悲しみ」と「不安」が混じった、切ない表情をしていた。
「叶さんは、助からないんですよ」
その口調は、どこまでも悔しそうで。
不器用な「ただの男」への…素直な感情だった。
「どうして…あなたは、戦うのですか?」
無関係の異世界を守る為。
その身を犠牲にする「ただの男」…そんな不器用な「お人好し」に。
カイルは、くすぐったい感情を抱いた。
今の彼女は、傍観者でも、緑髪の悪魔でもなく…
「………悠人さん………」
ただ、ひたすら…純粋に…
鈴木悠人の事を想い続けていた。