ベスト16
彼は空港に降り立った。
悔しい帰国だった。
ベスト8をかけた試合、
終了間際、逆転を許してしまった。
入国審査を終えた。
悔しさを引きずり、うつむき加減で足を速める。
ちッ、と舌打ちが聞こえた。
彼に気づいた人だった。
もちろん出迎えのファンはなく、
彼に罵声を浴びせたいテレビ局が二社いただけだった。
もちろん、彼の自業自得だった。
大会前、優勝宣言したからだった。
敗戦後、すぐにネットで叩かれた。
「ビッグマウス」
「ほら吹き」などと。
彼は批判を甘んじて受けた。
話題になるだけ良い。
好きで、優勝宣言するわけじゃない。
注目を集めるためだ。
そうしなければ、スポンサーが集まらない。
はぁ~、とため息がもれる。
また、スポンサー探しからだ、と彼は思った。
当然、この結果ではスポンサー契約の更新はないと予想できた。
取材を終えたテレビ局のスタッフが急いで撤収する。
徐々に人が増えている。
「2時間後か」と彼はぽつりと呟く。
「いいよな、ベスト16で祝福されて・・・」
「オリンピックなら入賞にも入れず、記者会見にも呼ばれない」
「サッカーは特別だ、と言うけど、何が?って言いたくなるよな~
他のアスリートには」
「柔道の金以外メダルじゃない、ってのは極端だけど」
彼は集まる人々を見て、決心した。
「今度は優勝だ」と。