G1話:暗い箱と明るい空
序章開始です。
気が向かれた方は、よろしくお願いします。
なにか、夢を見ていた気がする。
悲しい様な、悔しい様な・・・?
「んぅ・・・ん?わあっ!?何だ夢か・・・」
目を覚ました私の視界は酷く暗かった。
まだ夜みたい、お部屋真っ暗だ。
カーテン越しの庭の明かりも太陽の光も全く見えないから、時刻は深夜2時から5時前位かな?
「眠い・・・」
変な夢、せっかくヤヨとゲームセンター通い出来ると思ったのに、期待させるだけさせておいて夢だなんて・・・
でも本当に誘ってみようかな?ヤヨとカンナと両方誘ってさ・・・でもちっちゃ可愛いヤヨと、学年で一番大人びてきれいなカンナが両方ゲームセンターに来ちゃうと皆の妹分の立場が危ういかも。
私は普通だし、名前負けって言うのかな?
「保留かなぁ・・・」
なんか寝難いなぁ、てかなんで私座って寝てるんだろう。
考え事をしたからか意識がはっきりしてきた。
そして気が付く、ベッドじゃなくて壁に背中をつけて寝てたみたい。
「ゴリゴー君お部屋電気つけてー」
ゴリゴー君はうちでは私のお部屋のある離れに対応した音声認識型端末、お部屋の電気はもちろん、出窓のブラインドや南側のカーテン、廊下やトイレ、お風呂などの電気をつけたり、お湯を張ったり出来る優れもの。
完全に真っ暗で周りが見えないのでベッドまで歩けないし、あぁ起きたついでにおしっこもしときたいかな?
「ゴリゴー君、廊下とトイレも電気つけて」
んー、電気つかないんだけど・・・台風来るの今日だっけ?明日だっけ?停電なのかな?
スマホのライトでいいか
近くの床を手探りすると、カバンがあったのでさらに手探りで中を探る。
すると、テキストとカードケースの感触、ってことは
「このあたりに、ポケットが・・・あた」
どうやら充電もせずに寝てしまったらしい。
なんかよく覚えてないけど、疲れてたのかな?
ヤヨとカンナと色ちがいのお揃い、スマホケースとつけてるストラップもお揃いのクマのベアトリカシリーズ、リボンの色違い。
ヤヨが黄、カンナが青で私がピンク、昔から私たちはその色がお決まりだ。
時間は意外に早くて、まだ夜の8時台、これは停電説濃厚かな?
えーと、メニューの・・・
「てけてけ♪モバイルライトォ!」
ただのライト機能だけど、何となく言っておかないといけない気がして・・・
「えっと・・・」
周りを見渡して絶句。
「なにこれ、EoSの筐体の中じゃない?」
急に怖くなる。
なんでこんなとこで寝てるの?もしかしてうっかり寝てそのまま気付かれずに閉店しちゃった?
いやいやまさかそんな。
てか、ヤヨとゲームセンター行ったの夢じゃなかったの?
スマホ圏外だ。
「とりあえず外に出て、家に電話しないと門限一時間半も過ぎてる。おとー様にバレたらヤバそう」
カバンよし、着衣の乱れ、とりあえずなし。
あれ、でもおかしいな、8時ならまだゲーセン開いてる時間・・・
「へ・・・?」
ドアを開けてみて驚いた。
そこは見渡す限りの大パノラマ
「むっちゃ星見えてる、野原、丘の上?」
何かしら、まだ夢の中なのかしら?
動悸が早くなる。
今自分が出てきた場所を振り替える。
やっぱりEoSの筐体みたい、なんかボロボロだけど・・・。
「グルルルルルルル・・・」
その時、なんか怒ってるワンちゃんみたいな声がした。
振り向くとそこには・・・
「なんだワンちゃんか、ハスキー系かな?ちょっと痩せてて精悍な顔立ち、目鼻立ちはきれいだけど毛並みはちょっとばっちいかな?君どこの子?怖くないよー、おいでおいでーチチチチ」
7メートル先くらいに見える灰色の大型犬、星明かりが十分に明るいから、人工の光はないけどよく見える。
うちもすごく大きなワンちゃんを全部で20頭位庭で飼ってるのでワンちゃんは好きだ。
一人ぽっちで寂しかったのも確かだった。
だから、なんの気なしに座ってしまった。
相手がペットではない、ケモノであることも考えずに・・・
「ガウ!」
途端こちらに駆け寄ってくる犬、その時何か違和感を感じたけれどそれがなにかは判然としない、だけれどその目は血走っていて、私は初めて犬が怖いと思った。
「ヒッ!」
慌てて立ち上がった私は、筐体の中に駆け戻り、ドアを閉める。
間一髪、なんとか犬に追い付かれる前に戻れたけれど・・・
カリ、ガリガリ、ザッザッザッ
「ガルルルルルゥ!ワン、ワンワン!!」
筐体の外から犬の声がして、ドアを引っ掻いたり、吠えたりする声が聞こえてくる。ドアと筐体内の床の間に数センチの隙間が合って、そこからスッスッと音をたてながら、犬の前肢が出入りし、犬の口がガリガリとその隙間を噛んでいる。
うまく噛めないみたいだけれど、このままここにいたってどうしようもないし、何か武器になるもの・・・。
カバンの中は・・・ダメだカードと勉強道具、化粧ポーチとお財布、ペットボトル位しか入ってない。
ドン!!
「きゃあっ!!」
犬が今度はドアに体をぶつけ始めたらしい。
筐体全体が大きく揺れる。
幸いボロボロに見えても作りが頑丈なのか、そう簡単に壊れそうには思えない、さすが安心の日本製、だけれど・・・
このままではジリ貧、犬は群れる動物だし、これははぐれかもしれないけれど、騒いでたら寄ってくるかも・・・
「うう、怖い、怖いよ・・・おと、様お母様・・・ソノさん、ハナさん、ヤヨ、カンナ、アケコ先生、アサさん、誰でもいいから助けて」
ダンダンとなんども揺さぶられる筐体、スマホのバックライトだけという僅かな光源、ドアが壊れたらその次は?という不安が私を襲う。
「何か、何か・・・」
ダン!!ミシシ
さらに大きな音がして筐体の軋む音がする。
そのとき手になにかが触れた。
それは
「コントローラー・・・」
短剣型コントローラー、何故か筐体とは繋がってないみたいで床に落ちていた。
緒戦おもちゃだし、刃に当たる部分の長さはせいぜい30センチにも満たないけれど、0と比べるとはるかに安心感がある。
私はそれを握りしめた。
体当たりは疲れたのか犬は再び隙間に前肢を突っ込んで来ている。
ガリガリ、ザッザッと音がする。
「こっちこないで!」
私はその無防備な犬の手に向かって、コントローラーで殴り付けた。
ゴリッと嫌な感触がして、一瞬遅れて犬が叫び声をあげた。
「ギャイン!」
犬は手を引っ込めないままで、でも筐体から離れた。
どういうこと?
いつのまにか消えてしまったモバイルライトをもう一度点ける。
そこには赤く染まった床と、切断された前肢が見えた。
「うそ・・・切れ、ちゃった・・・本物?え、でもこれコントローラー、え?まだ夢見てるの?」
手に握ったコントローラーを照らして見ると、刃の部分にベットリと血糊がついている。
夢とか現実とか関係なく、死ぬのは怖い、あれは私は食べようとするケモノの眼だった・・・ならもう、やるしかない?
「今なら一匹・・・手負い・・・」
葛藤はほとんどなかった。
すでに一度、ただ殴って追い払うつもりだったとはいえ暴力をふるってしまったからなのか?
私は好きだったはずの犬を、仲間を呼ぶ前に殺すことを、選択した。
私はコントローラーを右手にしっかりと握ると、筐体のドアを開けて勢いよく飛び出る。
敵は脚をヒョコヒョコとさせながら、逃げ出している。
まだ3本脚に慣れていないのかその動きは緩慢でぎこちない。
それでも私が近づいたのに気付くと、敵も臨戦態勢を取った。
その時先程感じた違和感に気付く、敵の周りになにか赤い輪っかが浮かんで、ゲージの様なものが満ちていく。
なにかなこれ?私の目がおかしくなったのかな?
さっきはこれほんの一瞬だったから、ただ違和感に思っただったんだ。
そんなこと考えていると、ゲージがいよいよいっぱいになる。
その瞬間
「ガウ!」
敵の攻撃が始まった?
脚の足りない敵の体当たりは分かりやすく遅い、簡単に避けることができた。
ゲージは空っぽになったけれど、赤い輪っかは出たまま、そして敵がふらついた態勢をたて直しこちらを向くと、再度ゲージがたまり始める。
これ攻撃行動までの待機時間的なもの?
なんでこんなものが見えるの?
判らない、頭にゴーグルは・・・ついてない。
来る!
「ガウ!」
また飛び込んできた敵の攻撃を避けつつ、逃げた先にあった石を拾う。
そして再度赤いゲージがたまり始めた敵に向かって石を投げる。
すると赤いゲージが消えて、一瞬青いゲージに切り替わり溜まり始める。
しかしゲージがいっぱいになる前に石は敵の頭にあたった。
敵の横にまた青いゲージが出て、でも今度はたまらないままで、敵は私を見つめながら円を描く様に歩く。
動きはぎこちないままだけれど、逃げるつもりは無さそうだ。
数秒するとまた赤いゲージに切り替わり、ゲージが溜まり始める。
次は倒す・・・。
敵のゲージが一杯になった途端、敵はこちらに向かって飛びかかってくる。
前肢の欠けたその跳躍は、やはり素早さと正確性を欠き、簡単に避けることが出来た。
私は前肢の欠けた側に体を半歩ずらして、その咬撃と爪撃をかわす。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
そして私は右手に握ったコントローラーに力を込めると真横から、まだ体を宙に踊らせている敵の欠損した前肢の付け根、胸に当たる部分にコントローラーを突き立てた。
「ギャイン!ゴャ!ガァ!」
そのままコントローラーを手放して、敵と距離を取る。
どうしてコントローラーが刺さるのかは判らないけれど、致命傷のはず、だけど動物は死ぬ間際まで噛みついてきたり、暴れたりするから近くに居るのは危険。
私の手を離れたコントローラーと、ぬたうつケモノの姿に、四歳の頃うっかり手を離してしまったボーダーコリーの仔犬カリグラのリードとその代償に得た教訓を思い出す。
車にはねられたカリグラに駆け寄ろうとした私を、女中のアサさんが無理やり制止してくれなければ、カリグラが最後に味わったのは私の指の肉になっていたかもしれない。
あの時私はなんで最期に抱かせてくれなかったのかとアサさんを責めたけれど、アサさんは申し訳ありませんと謝るばかりで、真意を語らなかった。
結局それから私はアサさんを遠ざけてしまって、6年後アサさんが寿退職した後で、お婆様から教えて頂いて、アサさんが私がリードを手放した責任を少しでも感じない様に憎まれ役をして下さってたんだって聞いて、謝りに押しかけたけれど、私の謝罪を聞いたアサさんは
「あのおばはん、勝手にしゃべりやがって、雇用関係がなくなった途端、約束ひとつ守りゃしないんだから・・・昔から勝手なおばさんなんだから、睦月お嬢様、あれは私がリードを持たせたことに対するケジメってものです。お嬢様が持ちたいとおっしゃった時、足並みの揃わない面倒な仔犬がいない方が楽だからと、これ幸いにリードを持たせた私が、お嬢様にケガまでさせてクビに成らない為にやったことなんですよ、私は大奥様に嫌われてましたから」
なんて言って、ちゃんと謝らせてくれなかったけど、アサさんは以前と変わらず優しくて・・・最近でもたまにお母様とお茶してたりして、関係は良好だ。
あと娘のユウちゃんが可愛い。
そうやって彼女が教えてくれたものが、今も私のことを守ってくれた。
やがて苦しそうにしていた敵だったものは、最期に手足をピンと伸ばし痙攣すると弛緩して、動きを止めた。
恐らくもう大丈夫だろう。
私は、敵だったモノの死体に近づくとコントローラーを引き抜いた。
ズルリと手に伝わる嫌な感触、だけどこれは今私が持ってる唯一の防衛手段だから、このままにしておけない。
コントローラを引き抜いたところから血が溢れて、地面を濡らす。
最初はハスキーに似た格好いいワンちゃんに見えたそれは、一度は私の敵となったけれど、動かなくなった今、やはりワンちゃんにしか見えない。
「せめて埋めてあげよう」
私がいなければ、私を襲って来ることもなかっただろう、本当は今日ここで死ななかったはずの命。
私が奪った命
うちの子だとドミティアヌスか、3年前に死んだガルバに似てるかな、やっぱりハスキーみたいだし
「う、うぇぇぇぇ・・・」
コントローラーを使って掘った穴にワンちゃんの死体を移した後で、私は少し戻してしまった。
幸いだったのは胃の中が空っぽに近くて、ただ酸っぱい汁が出ただけだったこと位か。
筐体の中に戻ってカバンの中のペットボトルの水で口を濯いで外で吐き出してからもう一口飲む。
町にでもたどり着かないと水は多分貴重だから、まだ少し乾くけれど我慢しないと・・・
「多分夢じゃあない、これはなに?」
命のやり取りをした。
その恐怖にか高揚にか、私は少しだけ涙を流しながら、きっと見たことの無い星空を見上げた。
ムツキはそこそこ裕福と思っていますが、ムツキの生家は、こどもが生まれた際、お友だちを部屋に招き易そうだからと離れをひとつ洋風で新築してやり情操教育にと犬を2、30頭飼い与え、こどもの世話役に女中さんを複数増やす程度には裕福な設定です。