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G45話:小さなワンちゃんと・・・?

 前回のあらすじ

 ダンピングサラマンダーの若齢個体を倒した貯水池で仲間と合流した私たちは、フォニアとアーニャの合作である氷のソリを使って獲物を運ぶことにした。

---

 元来た道を、先ほどの3倍の人数で戻る。

 アーニャを先頭に、そのすぐ後ろに私とアリア、その後ろにターニャさんとフォニアとがソリのロープを引っ張り、さらにその後ろにカノンとティータ、殿しんがりにセレナとリサさんがついている。

 最初はリサさんがターニャさんと一緒にロープを持とうとしたのだけれど、アーニャさんが

「リサさんにそんなこと!いいえ、そんな大事な証拠品を持たせられません、うっかり証拠品を傷つけるかもしれませんし、リサさん前衛なのにとっさに武器を構えられないと困るでしょう?」 

 と反対し、弓を扱うこともできるフォニアが代わりにロープを引くことになった。


 一度はセレナが、カノンに頼れるお姉ちゃんな所を見せようとしてやる気を見せたのだけれど

「いや、魔物にあったら前に出ないといけないっていうならセレナにも持たせるわけにはいかないからね、ここは荷運びも慣れてる私が引くよ、急に襲われたら対応できないからしっかり守ってね?セレナ♪」

 と、頼れる気風をもともと持っているフォニアが名乗りをあげ、頼られることに喜びを見出す様になってきているセレナは

「フォニアさんてば仕方ないなぁ、まぁカノンのついでに守ってあげるわ」

 と、何が仕方ないのかもわからないけれどまんざらでもなさそうに頷いて、こういう組み合わせになった。


 ちょっと振り返って見るとリサさんは目の前のカノンの、ちょんとティータの服をつまんでいる小さな手に夢中になっている様だけれど、セレナの方は後方や側面の警戒をしっかりとしてくれているみたいだ。

 ミニマップを見る限り、魔物は近くにいないみたいだし襲撃はなさそうだけれど。


 一方私の前方ではアーニャがぶつぶつと一人で反省会をしている。

 内容としては、フォニアがくるのはわかっていたのだから、池での血抜きの時に最初アーススパイクを使ったのを最初からアイススパイクにしておけば手間が少なかった・・・とか

 いつも前衛に足止めを任せて、アーススパイクを使って、ほとんどの魔物で柔らかいことが多い腹部側から一気に刺し貫く戦法に頼り切っているばかりではなく、冒険者を名乗るなら一人でも身を守って戦える様に小技も覚えるべき・・・とか

 半日で終える様な短い仕事でも替えの服、最低でも替えのショートパンツくらいは持ってきておくべきだった・・・とか


 と、ここでちょっとひっかかる。

「(なぜ替えショートパンツ・・・?ショートパンツ?ってアーニャさん下にショートパンツ穿いてるの?)」

 この世界にやってきてから出会った人たちは、あまり多くの衣服を身に着けていない。

 村人であれば簡素な造りのチュニックに男性であればゆったりとしたズボン、女性は飾り気の少ないワンピース状の服を着ていることが多い。


 サイクルの早い子ども服であればさらに簡素で、ワンピースかそれとほとんど区別のつかないチュニックのみということも多い。

 子ども服とはいっても簡単に布を継いで、首と手が出る様にしているだけで、型紙を引いたかどうかも怪しいものがほとんどだ。

 カノンに買い与えたモノは思春期頃から身に着ける様なものなのでまだデザイン性もあるけれど・・・。

 そんな中で下着なんてものが普及している訳はなく、確認しただけでも幼児だけではなく、リズ姉やユティ、グリモスの宿のダノンちゃんも、ノーパンだった。


 そんな中どうやらアーニャは装備以外にショートパンツを穿いているらしい。

 外見的に見えているのは白いチュニックに、セパレートになった四分丈相当の青っぽいプリーツスカート、革製の胸当てにスカートの裾より少し下までの青~紺くらいの色のマントを羽織っている。

 外見からはスカートの下に何かを穿いている様に見えなかったけれど、言われてみればあの丈のスカートの下に何も穿いていなければ、乙女として落ち着かないことこの上ないだろう。

 替えが欲しいのはさっきアリアに引き倒された時にお尻の辺りを汚したのかもしれないね、マントの見た目は大丈夫そうだけれど、水辺だったしスカートの方はびちょびちょになってしまったのかもしれないね。


 それにしても、下に穿くショートパンツなんて発想はもう下着文化といって差し支えないだろう。

 おそらく身分を偽っているアーニャさんは、下着を穿く文化がある生活を送っていたのだろう。

 となれば、この世界でも、私の穿きなれたショーツでないとしても、日本の物ほど品質に優れていないとしても、下着を手に入れる機会はそのうち訪れるかもしれない。

 現状ショーツ2枚しかない上、片方は上とデザインの合わない普段からポーチに入れている物なので、現在はローテーションから外れている。

 ローテーションというか、穿いていたものを夜アリアに洗ってもらい乾燥させて朝また穿くわけですが!


 今は大丈夫でもそのうち傷んでくるだろうしこのままではいられない、かといってノーパンは女子として遠慮したい。

 なので、彼女の呟きにはとても大きな意味がある。

 少なくともスカートの下に穿ける様なパンツ(ズボン的な意味だろうとしても)はあるということなのだから。

 私は、まだ見ぬ下着たちへの期待を覚えたけれど、流石に『アーニャはどんな下着穿いてるの?』と聴くわけにもいかずに少しだけ悶々としたまま、彼女の後を追いかける。

---

 道中で50m程離れたところまで接近する人物が3名ほどミニマップに表示されたものの、少し経つと離れていき、それ以外特に目立った出来事もなくエストレア農園の事務所に着いた私たちだけれど、アーニャさんは事務所の前で一旦待って居る様にいうと、一人で中に入っていき、それからまた出てくると

「牧場側の倉庫を借りられます。一旦そこに移しましょう」

 と、再度移動を提案した。


 こうして布を被せられていた獲物はソリごと道具小屋の様な所の一角に収まることになり、アーニャはその周囲にまるで目隠しの壁にでもする様に氷柱を突き立てた。

「せっかくの素材が暖かいと痛みますし、野犬なんかに食われてもやりきれないですしね」

 と、彼女は言うけれど、彼女のこれまでの含みある発言を思えばそれだけではなさそう。

 そもそも柵のある敷地内の壁と鍵の付いた扉のある小屋に野犬が入る可能性はほぼないだろう。


「それでは依頼主のヴェルナさんたちに説明をしに行きましょうか」

 アーニャは道具小屋の錠前をカチリと鳴らし、借りてきた鍵をチャリと手の中に握り込んだ。

 その横顔になにか決意めいたものを感じるのは、私の思い込みなのかな?

---

 それから再度最初に入ったワンちゃんたちのいる建物に戻ってきた。

「失礼します・・・えぇ、あの倉庫で十分でした」

 先に建屋に入ったアーニャが中の誰か、口調はともかく畏まった雰囲気はないので、恐らくはヴィオレッタさんだろうか?


 遅れて中に入ると、やはりヴィオレッタさんが居て休憩がてらなのかワンちゃんたちにおやつを与えている様だった。

 見たところチキンのジャーキーかな?扉を開けてすぐの部屋なのに仔犬たちは外へ逃げる様子もなく部屋の中を所狭しと駆け回っている。

 お母さん犬は巣の代わりになって居る囲いの中に体を横たえて、先に与えられたらしい大き目のジャーキーをガジガジと噛んでいて、仔犬のうちの一匹がお母さんの食べているジャーキーに横から口をつけているものの噛みきれないのか口を着けたまま体を前後に動かしている。


「ヴェルナさんは事務室ですか?」

 アーニャは足元に戯れる犬たちを蹴らない様に気を付けながらヴィオレッタさんの前まで進み、現在の農園主の所在を尋ねる。

「えぇ、中でお仕事中、進捗の話だったら私が担当者だけど?」

 と、今回の件で担当者という肩書を受けているヴィオレッタさんはヴェルナさんではなく自分が話を聴くという。


「そうですね、ヴィオレッタさんも一緒に、それと今度はリサさんもついてきてください、ターニャ姉さんはこちらで待っててください」

 何か企みがあるのか、私たちとターニャさんを外して事務室に入るというアーニャ、別にいいんだけどね、この依頼は本来アーニャたち3人の物だし、私たちはたまたま居合わせたのだから部外者扱いは仕方がないことだ。

 さっきの話し合いに呼んでくれただけでも十分。

 なんて思っていたら

「何をしてるんですか?ムツキさんとアリアさんもですよ?」

 と急かされた。


 私たちも良いんだ?

「アリア、行こうか」

「はい」


 キャンキャンと鳴き尻尾をブンブンしている仔犬たちに後ろ髪を引かれながら先ほどと同じ事務室に入る。

 ダミアンの姿は無く、今度はヴェルナさんもこちら側の椅子に腰かけている。

 ヴィオレッタさんがどこからか予備の椅子も出してくれて、ヴェルナさんの正面にリサさんとアーニャ、予備の椅子に私とアリアが座り、リサさんの斜め後ろから4人を見る形となった。

 そしてアーニャは今日の調査について説明したのだけれど・・・?


「それではやはり・・・?」

「はい、若齢の個体でしたが、2m級のレッサードラゴンが居りました。貯水池の大きさを鑑みても、居ても一体か二体とは思いますがあの大きさともなると討伐にはB級以上の冒険者パーティか領軍の力が必要となるでしょう」

 言葉選びに違和感を感じる。

 どうもあのレッサードラゴンを見かけただけと言っている様な感じ?

 自分が襲われたものの事なきを得たことは話したものの、私が倒したことは伝えない。

 レイクサイドキャットを倒したことは伝えて、依頼中に捕殺した獲物については規定通り我々の副収入としてもよろしいでしょうか?

 と許可を取っていたのに・・・。

 まさか、レッサードラゴンの肉や素材が高いから、討伐したことは内緒のままで持っていくつもりではないよね?


 いやでも規定・・・調査や討伐依頼で、最初から素材を求めている依頼でなければ、捕殺した対象や指定部位以外の素材は討伐した冒険者の取り分となる・・・というモノがある以上、わざわざ秘密にする必要はないはずだ。

 そんなことを考えこんでいると、部屋の外、カノンたちを残してきた方から悲鳴の様な声が聴こえた。


「なに!?」

「カノン!何があったの!?」

 扉に近かった私は立ち上がると、扉越しに声をかける。

 なお、『なに』と叫んだのはヴィオレッタさんだ。

「あ、えっとなんでもないのです。ただちょっと物陰に可愛い子がいたので、びっくりしただけなのです」

 と答えるカノン、可愛い子?

 カノンだって可愛いと思うのだけれど、とりあえずお母さん犬に噛まれたとかでないなら大丈夫かな?


 私と一緒に立ち上がっていたヴィオレッタさんはホッと胸をなでおろしたあと

「あぁそういえばお昼寝させるのにテスカトリケラウルスの赤ちゃんを部屋に入れて居たんでした。伝え忘れていましたね」

 と語った。


 テスカ(略)の赤ちゃん?

 それはちょっと興味あるなぁ、角はもう生えてるのかな?毛はもう長いのかな?短かったらどんなお顔してるのか見えるのかな?

 カノンが可愛いって言ったんだしそれはきっと可愛いんだろう。

 私が少しソワソワしていると・・・。


「ムツキさんも気になって居る様ですし隣に戻っていても良いですよ?レッサードラゴンの外見については説明してくださいましたし、あとはヴェルナさんと今後の展開について少し話すだけですので」

 とアーニャは私たちに提案する。

 それに応じる様に頷いてヴェルナさんも

「レッサードラゴンともなればもはやレティの手には余るだろう。担当は私が引き継ぐのでレティはムツキさんたちの相手を頼む。依頼中の冒険者とはいえ、お客様をいつまでも犬たちとほったらかしにしておくわけにもいかぬしな」

 と言って、ヴィオレッタさんの担当を解いた。


「そうですね、私にはまだ荷が重いです。それじゃあアーニャさん、残念ですがあとは父と詰めてください、ムツキさんアリアさん、あっちに戻りましょう」

 ヴィオレッタさんも大人しく担当を譲り部屋を退出する。


 そしてヴィオレッタさんに続いて隣の部屋に入ろうとすると

 トンっと脛の辺りに何か当たる感触がした。

 見ればプードルの赤ちゃんの様な20cmほどのなにか可愛らしいものが私の脚に当たって立ち止まっていた。

「おほ、可愛い♪」

 変な声が出ちゃうくらいの可愛いらしさ、よく見れば耳の横に小さな突起物があり、この子がテスカの赤ちゃんなのだと分かる。

 外見はその毛並みと体躯からマズルの短いプードルの赤ちゃんっぽくみえるけれど、プードルと比べて脚部は太くて短い。

 思わず見とれてしまう。


「抱き上げても大丈夫ですよ?」

 とヴィオレッタさんが言うので遠慮せず抱き上げる。

 お顔はちょっと眼が大きいかな?近くで見ないと分からなかったけれど、眉間の辺りにも小さな突起がある。

 これが三本目の角だろう。

 足の裏には肉球があり、角はあるけれどこの子はサイや牛の仲間ではないのだと推測できる。

 とは言え犬の仲間ってわけでもなさそうだけれどね。


 肉食ではないという話だったけれど歯はまだ生えそろっておらずその食性は窺い知れない。

 ちょこんと頭をのぞかせた門歯は、牙状ではないということだけ分かるくらい。

 なんというかちょっとぬいぐるみのクマっぽいかな?毛並みとか体と脚のバランスとかプードルもそういうカットの名前があるし、これが大きくなって、本当に大きくなってあんな身の危険を感じる大きさのクリーチャーになるだなんて信じられない。


「かわいいでちゅねー、お昼寝してなくていいんでちゅかー?」

 思わず猫なで声をだして軽く体を揉んでしまう。

 仔テスカは嫌がる様子もなく、小さく鼻の孔を拡げキィーンとないた。

「あぁ、喜んでるみたいですね、良かったらおやつもあげてみますか?」

 とヴィオレッタさんが言うので

「もちろん」

 と答える。

「ではそこの椅子に座ってちょっと待っててくださいね」


 うらやましそうにしているカノンをしり目に、勧められるままに揺り椅子に座った私は膝の上に仔テスカを載せるとヴィオレッタさんを待つ。

 撫でてやると、逆に頭をこすりつけてくるくらい人懐っこい。

「おまたせしました」

 2分ほどして戻ってきた彼女はその手の中に平たい器を持っている。

 載せられているのは何やら泥の様な物体だ。


「それは・・・?」

「その子のおやつです。ある種の土と、親の乳を合わせて練ったものです。自然状態だとそれぞれ別に食べるらしいのですが、子どもがうまく土を食べられない場合もあって、そのまま与えるよりこうやって乳と混ぜてやったほうが食いつきが良いんですよ」

 と言いながら彼女は木の棒でベチャベチャとそれをこね、少量を棒の先端に付けて仔テスカの口元に差し出した。


 仔テスカはキィキィと甲高い声で鳴きながら棒が近づくのを待ち、フゴフゴとくぐもった声で鳴きながら棒にむしゃぶりつく。

 それからギュッギュと絞る様に口をすぼめながら棒をしゃぶっていると、ヴィオレッタさんは適当なところでそれを抜く。

 キィキィ!

 離れていく棒を名残惜しそうに追いかける仔テスカ、その鳴き声に反応した様に私の足元にはティータに抱かれてセレナに撫でられているのと、お母さん犬の隣でおねむになっている以外の仔犬たちが集まってきている。

 ここは天国かな?


「はい、カノンちゃん器を持って、カノンちゃんもあげてみて」

 とヴィオレッタさんはカノンに器を渡し、カノンが私をちらりと見たので、お先にどうぞと頷いて見せると恐る恐るといった感じで泥の付いた棒を差し出す。

 するとさっきより勢いよく仔テスカは棒にかぶりつき、タイミングのわからないカノンがなかなか抜かないのでずっと棒をしゃぶっている。


「手頃なところで抜かないと棒を齧ってケガしちゃうから、そろそろ抜いてあげてね?」

 とヴィオレッタさんが伝えると

「ふぇ!?」

 と驚いた様子で棒を抜くカノン、ケガをさせたらかわいそうだと心配になるのは分かるけれど、涙目になるほどのことかな?


「あ、えっと、ムツキお姉さまもどうぞです」

 カノンは棒を私に手渡し、器を両手で持って待ち構えてくれる。

 仔テスカがおっこちない様に片手は支えにしているので片手でもおやつをやれる様に気を使ってくれたらしい。

 気遣いに甘えて棒を受け取ると、泥を先端に絡めてちょっと垂れるのを捻って切ると見た目は水飴みたいな感じに見えるかな?

 でもこれ土を乳で練ったものなんだよね、なんで土なんだろうね?

 餌は少量の草と一部の鉱物なんて聞いていたけれど、その鉱物というのがこの土なんだろうか?

 ぬらぬらとしたそれを仔テスカの前に差し出すと仔テスカは『辛抱堪らねぇ!』とばかりに食らいつく。

 口をすぼめると同時に引っ張られる感覚と、さらに口の中では舌で舐っているのだろう、こする振動が僅かに伝わってくる。

 その小さいながらに懸命な生き物の姿に私とカノンはため息を漏らしながら見惚れていた。


 フォニアは一人お母さん犬の近くにいて、その傍らに眠る仔犬の微笑ましい姿を見つめており、そんなフォニアに何か気になることがあったのかアリアは珍しく私の傍を離れてフォニアに何か声をかけている。

 ティータとセレナはカノンや仔犬の多くがこちらに来ているので、誘われる様に私の近くに移動してきた。

 そして、ターニャさんはカノンの後ろでカノンを見つめてハァハァしている。

 そういえばリサさんほどでないにしても彼女もカノンのこと妹にしたいって気に入っていたっけ?


 とても危険な魔物の調査をしている合間とは思えないほど穏やかな時間、私は屋内で安心して居たこともあって意識してミニマップを見ることもしていなかったし、隣室で話し合いを続けているアーニャたちの会話を盗む聴こうというつもりもなくてコンフィグの音量も上げては居なかった。 

 ただおやつを食べ終えて眠り始めた仔テスカの頭を右手で撫でていて、開いたままになって居たミニマップに目が行っただけのことだ。


「(え、なにこれ?)」

 街中では、人が多すぎるためミニマップの範囲を狭めたり、視界に表示されない様にしていた。

 貯水池ではどこから魔物がつっこんでくるかもわからないからと、広めの範囲を索敵していた。

 それからエストレア農園に戻ってきて、範囲はそのままだったけれどついさっきまで近くにいるのは今建屋の中にいる私たち9人とヴェルナ、ヴィオレッタさん父娘、それからお母さん犬(仔犬と仔テスカはなぜかミニマップに表示されていない、大きさ?子どもで歯牙も発達してないから殺傷力がない=敵味方の戦力外と判断されている?)と外の家畜を表すひし形が200mほどに設定しているミニマップの範囲に出たり入ったりするくらいで、人を表す丸は居なかった。

 仮に人が入ってくるにしても農園関係者だろうし、一度に数名程度なら理解できなくもない。


 でも今気が付いたミニマップに映っている人の丸の数は、ミニマップの端っこに9人、ちょっと多い。

 それも平常時の白い丸ばかりではなくて、黄色と橙色が混ざっている。

「(大きく・・・)」

 更に先ほどできる様になったばかりの不思議ダンス無しでのミニマップの拡大を行い最大索敵半径の500mに広げる。

 すると・・・。


「(1、2、3・・・全部で70人?この辺りの人は除外できるとしても)」

 一部は農園の労働者や全く関係なく歩いてるだけの人だろうけれど少なくとも平常時ではない黄色と橙色の丸が17混ざっている。

 これまでの経験から黄色は警戒、橙色は臨戦態勢程度だと仮定しているけれどこんな農園の中で一体何を警戒しているのだろうか?


「(200m付近の集団と450m付近の集団だけに黄色、橙色が混ざっているのは200mの方だけみたいだね?両方の集団にはひし形も丸に重なる様に1つずつ混ざっている。馬に乗っているのかな?)」

 2つの集団がお互い敵対しているのであれば問題ないけれど、それなら農園に近いこんな場所である必要はないよね?

 それなら農園を狙っていると考えるべきだろうか?

 どちらの集団も現在移動はしていないみたいだけれど、多分警戒するべきかな?


 グリモス、ボスコンに続いて人に襲われるだなんて考えたくもないけれど・・・。

「外に穏やかでないお客様が来ているみたいですね、団体様がお越しですとヴェルナさんに伝えてきていただけますか?」

 突然訳の分からないことを言いだした私に、ヴィオレッタさんとターニャさんとカノンはきょとんとした表情を浮かべ、アリア、ティータ、セレナ、フォニアはそれぞれ木の窓の方へ移動して、閉じている窓はそっと開いて外を覗く。


「確かにいらっしゃいますね。馬に乗った方もいます」

 と、まず窓に一番近かったティータが告げ、続いて目の良いがフォニアが

「武器・・・剣を持った人間と槍を持った人間が混ざっています」

 と告げると

「槍って・・・まさか領軍?すぐにリサさんに伝えてきます!」

 とヴィオレッタさんは隣の部屋の扉を叩くと慌ただしく中に駆けこんでいった。

 

 荒事、それも人間相手なんて考えたくもないけれど・・・、アーニャの態度に薄々なにかあるとは思っていたけれど、とんでもないことに巻き込まれたのではないか?

 完全に眠った仔テスカを部屋の隅に敷かれたワラの上に横たえながら、私は小さくため息を吐いた。

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