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G44話:集合

 前回のあらすじ

 レベルが上がった私は、いくつかのインターフェースがまるで体の一部の様に随意に動かせる様になった。

 それから水辺の脅威を排除した私たちは、仲間たちの到着を待つのだった。

---

「それにしても、結構いい所だよねここ」

 町から近いけれど、町の喧騒を忘れられる。

 池に溜まっている水量は多くないけれど、常に川の方向から水が流れ込み、町と農場の方へ流れていく。

 私たちのいる場所からは丘の斜面が間にあって町は見えず。

 町側へ向かう水の流れる音が涼しげで、現在は突き立った氷柱が物理的にも涼を運んでくれている。

 欲を言えば、巨大ウーパールーパーなレッサードラゴンと獣が氷柱にぶら下げられていなければなお良かったのに・・・。


「たまにこんな魔物も出るので、冒険者同伴でないとなかなか来られませんけどね」

 先ほどの涙が嘘の様に落ち着いた様子のアーニャもうなずいてくれる。

 農園が管理している貯水池だけれど、町から少し距離があるし、時々の整備以外は普段は人もほとんど来ない場所なので野生の動物や魔物がうろつくらしい、アーニャの言う通り町の人だけでこの景色を堪能することは難しいだろう。


「でも、普段はエストレア農園で管理してるんだよね?」

「はい、エストレア農園では複数の冒険者と契約していて、月に2回水路の点検と、2ヶ月に1度ここの整備を行っています」

 どこか誇らしげにアーニャは語る。

 でも彼女の口調からは、冒険者と彼女自身を別に捉えている様に感じられた。


 冒険者としてルーキーにあたるからという訳ではなくて、これから冒険者を続けていくという意識も伴っていない様に、私には思えたのだ。

 そんな私の感情が読み取られてしまったのか


「私達も新参ながら、兼ねてからのご縁もありまして、依頼を受ける様になりました」

 と冒険者であることを強調する様に付け加えた。


 正直に言えば私は、彼女達が生活の為ではない何かの目的で一時的に冒険者となったのだと確信しているけれど、態々(わざわざ)それを指摘する必要もないだろう。


「(コネ・・・は流石に通じないかな?略語だし)縁故って大事ですよね」

 私のいた現代なら、コネ入社なんて後ろ指を指されてしまうけれど、恐らくは中世と近世の間と思わしきこの世界の文化レベルだと、縁故も実力の内の様なモノだろうし、アーニャ自身が隠す様な素振りも見せないので、後ろめたいことではないのだろう。


「はい、流石に実力に見合っていないお仕事なら断りますけれど、私は初級の魔法なら素早く使えますし、リサさんは何故か幼い頃から腕っぷしが強いですし、ターニャ姉さんはアレでなかなか器用なので、助けられたばかりの私が言うのもどうかと思いますが、3人パーティーにしてはバランスは良い方だと自負しています」

 普段から、リサさんの不器用さに小言を言ったり、ターニャさんに対して辛辣なことを言ったりしているけれど、こうして話すアーニャはとても嬉しそう。

 二人のこと大好きなんだね。

 て言うかあの氷柱や岩槍は初級の魔法なの?・・・殺傷力高そうだけど

 でも私だってまだまだ結成したばかりのパーティーではあるけれど、こちらでの大切な家族のことを信用している。


「私達だって負けませんから」

 私はまだ魔法は使えないけれど、MP、あるいは魔力はこの世界の水準で見て大きいみたいだし、きっと習えばなんとかなるはず。

 アリアも高水準の魔力を持っていて、アコシス3姉妹もアリア以上の数値、フォニアだけは平均よりは上程度みたいだけれど、そもそも彼女は魔法使いではない。

 RPG的にはレンジャー或いは弓使いと軽装歩兵を合わせた様な職だろうし、本人は騎士志望、召喚を経てこの世界に生きる人間となったからには、是非剣や騎乗の技術も磨いて理想の自分を目指していってほしい。

 その道に魔法は必ずしも必要ではないはずだと考えた上で、私達6人のバランスも決して悪くはないと思う。


「本当ですね、改めて謝罪します。新人さんだからと侮っていました。申し訳ありません、考えてみればカノンちゃんしか年下は居ないのでしたね」

 そういって脚を投げ出したアーニャは、良い意味で緊張していない様に見える。

 もしかすると、私達に対して警戒心の様なものを持っていたのかな?


 彼女達の目的の全容はわからないけれど、どうやら明確な敵というか、調査対象と言うかはいる様だし、彼女は慎重な性格だから、張り詰めていたのかもしれない。

 穏やかな表情はその年頃の少女らしい可愛らしいモノで、最初に感じた好ましいクールさよりも、ずっと親しみ易い雰囲気をまとっている。


 と、視界の隅に残していたミニマップに、いくつかの反応が映り込んだ。

 人と使い魔(推定)を表す白と緑の◯、連れだって移動する数はリサさんとターニャさん、それにティータ、フォニア、セレナ、カノンの6人を表している。

 他には池の中にいくつかの反応があるけれど、いずれも距離があり、こちらに気付いてる様な様子もない。


 少しすると、彼女達の接近している方から話しながら近づいてくる人の気配も僅かに感じられる様になり、気配に気付いたらしいアリアが

「ティータ達が到着した様です」

 と言いながら立ち上がり

 私とアーニャもそれに倣って立ち上がる。


 パンパンとおしりを払いながら立ち上がったアーニャは何故か一瞬しかめっ面を浮かべた。

 それから複雑そうな表情をして、どうしたことかとその表情に注視した私と目が合うと、僅かに頬を赤らめた。


「どうしたの?」

「あ、えっと、いいえ、微妙な所に小石が・・・ハハ」

 語尾を濁しながらアーニャは照れ笑い。

 確かに小さなつぶてがおしりやらにくっついてると妙に気になったり、恥ずかしかったりするよね。

 私も座るときちょっとチクっとしたから気持ちは分かる。


 程なくして、彼女達の声がハッキリと聞こえる様になり、丘の上に姿が見えた。

「ムツキお姉様!アリア姉様!」

 カノンは私達の姿を認めるとトコトコと走ってきて、私とアリアとの間で視線をさまよわせた後、折衷案なのか私の右手とアリアの左手をつかみながら、嬉しそうに体重を軽く委ねてくる。


 それからアーニャが居たことを思い出して顔を赤くして、更に・・・

「ぴゃ~っ!?」

 と、半ば以上声になっていない悲鳴をあげた。

 遠くからも見えていたはずなのに、私達の間近にある魔物の死体に気付いていなかったらしい。


 お目々を潤ませ、口はパクパクとして、よりウーパールーパーから離れていた私のお尻にしがみつきながら隠れる。

 最初は借り物の様だったカノンが、本当に妹の様になってくれて私は嬉しい。


「カノちゃんは、もうちょっと落ち着いて行動しないとね」

 苦笑いを浮かべたティータが追い付いてきて、カノンのほっぺたを挟み込む。

 腰に下げているメイスがなければ、日本でもちょっと変わったコスプレを着ているだけの仲良し姉妹に見えるだろうね。


「おにぇーしゃまぁ、やみぇて」

 ぷにぷに頬っぺを挟まれて弛い声を出すカノンは今日再会したばかりの姉に抗議するけれど、その表情はとても幸せそうだ。

 とてもさっき命のやり取りをした現場とは思えないほど空気が弛むのを感じる。


「くっふふふ・・・カノンちゃん、変な顔・・・プフフ」

 一番命の危険を感じたはずのアーニャすらこの調子で、魔物の死体を見て表情を険しくしているリサさんとは対照的だ。

 それとフォニアは何か察したのか荷物からロープを取り出している。


---

 ややあって、状況が落ち着いた後。

 簡単に状況を共有し合った。

 私達の合図で時間前に調査を切り上げたこともあってここ以外は大きな出来事はなく。

 不審な物音を聞いた程度の証言が得られたに過ぎなかった様だ。

 

 その間フォニアはアーニャの魔法で作られた溶けにくい氷柱とロープを有効利用してソリを作った。

 池の周りに枝を使えそうな大きな木などが生えていないし、エストレア農園の管理する土地なので勝手に木を切る様なこともできないので、魔法の氷を使ったけれど、木材ほど扱いやすくはないものの、十分運搬に耐えるソリを作ることが出来た様だ。


「それにしても、こういう危ないのが出たら一度逃げる。戦う必要はないって話じゃなかったのかなぁ?」

 ターニャさんがアーニャを非難する様に囁いている。

 普段からアーニャに小言を言われているのを今がチャンスとばかりに報復している様にも見えるけれど、あれは『アーニャが無事だったからよかったものを』というニュアンスを多分に含んでいる。

 それが分かっているからかアーニャも大人しくしている。

 でも私は当事者の一人として空気を読まずに反論せねばならない。

 事実を事実として報告するのは、チームを組んだ以上必要なことだ。


「で、でも遭遇してからアーニャが襲われるまで2秒もなかったですし、それからアーニャを助ける隙を作るのにアレの首を斬るまでもやっぱり2秒くらいなものでしたから、・・・撤退を選択する時間はありませんでした」

 私が油断せずに、索敵をしっかりとしていればという反省もあるからあまり大きな声は出せなかったけれど、ターニャさんの耳にはしっかり届いた様だ。


「おやおや~、ムツキちゃんってばぁ?」

 すぐさま振り向いたターニャさんはその口元を歪めている。

 ニヤァ?よりはニタニタとかニマニマな感じかな?

 意地悪な笑顔ではあるけれど、悪どい顔をしているわけではない。

 

「な、何ですか?」

 詰め寄るターニャさんのその勢いにたじろぎながら、私はなんとか後退あとずさりすることなく彼女と向き合った。

(ち、近い・・・)

 

「いんやー?いつの間にかアーニャちゃんとずいぶんと仲良くなったみたいだなぁって、お姉さん妬いちゃうなぁ?」

 妬く、という言葉と裏腹に、ターニャさんの表情はにやけきっている。

(えっと・・・?何か変わったっけ?元々、ティータ達のおかげもあって出会ったばかりの割りにはうまく打ち解けていたと思うけれど・・・・?あ!)


「さっき魔物に襲い掛かられた時、とっさに・・・」

「私が、良いって言ったんです!!」

 私の言い訳に割って入るアーニャ、ターニャさんへの複雑な感情が見え隠れしている様に見える。

 なんていうか、小学生の男の子が女の子に親切した時にお友達にからかわれて大きな声を出す様な?

 ううん、もっと親しい感じ、女の子といる所をお姉ちゃんに見られた様な?いつだったかカンナの弟がこんな感じの反応だった気がする。


「ツンツンなアーニャちゃんにも心を許してくれるお友達がデキたんだねぇ~よしよし」

「なぁっ!?い、今はお仕事中なんですからね!」

 少し棘っぽい反応をしていたにも関わらず頭をナデナデされてしまうアーニャ、これには毒気を抜かれたらしく、顔を真っ赤にして声を荒らげているけれど、撫でる手を払ったりはしない。

「わーかってるよーぅ、()お仕事中だもんねー」

 しかし気のせいだろうか?

 ターニャさんの表情は、明るい彼女の口調には似合わないシリアスなモノに見えた。


 そんな少し気にかかる二人のやり取りもあったけれど、無事集合した私たちは、フォニアとアーニャの合作のソリに魔物の死体を載せて貯水池を後にした。

 

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