G40話:2:13若しくは2余り11
前回のあらすじ
農園での調査の前にお昼休憩をとることになった。
でもアーニャさんとターニャさんは準備の為別行動するそうです。
私たちはさっき半端になったティータたちの紹介を兼ねて宿に戻って食事を摂るつもりだったのだけれど、リサさんが一緒についてくることになった。
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「うぅ・・・なんで私だけ放っとかれるんだろう?ねぇ、リュシーちゃんはどう思う?」
「たんてーきととりのやいたのでしゅねー!しょーちょーおまちくらい!」
宿屋に戻ると、この一時間ちょっとの間におやつタイム、積み木遊び、ぬいぐるみ遊びを経て再びおままごとに戻ったらしいリュシーとミーナちゃんがいて、すっかり面倒くさい感じになっていたリサさんをつい押し付けてしまった。
リュリュの方はおやつタイムのあとうとうととしてしまった様で、レミちゃんが膝にお人形の様に抱えている。
そして、その傍らにはクリストファ君が座っていて、彼もリュリュの髪を撫でながらただ寄りそっている。
こうして見ているとまるで夫婦とその子どもの様な距離感だけれど、若すぎるので、やっぱりおままごとの延長にしか見えないね。
これがレミちゃんなりの『援護』なんだろうか?
夫婦の如きいちゃいちゃをユティに見せつけて・・・うーん、焚き付けるべきはエミールなんだよねぇ。
もう一人の刺客シャーリーお姉さんは一体どこで何をしているのか。
そして、リュシーは知らないお姉さんに上手におしゃべりできて偉いね、人見知りはどうしたのかな?
単におままごとでテンションが上がってるだけかな?とても元気で可愛いけれど、やっぱり元気にしゃべると舌が不器用だ。
「あのお姉さんさっきまであんなにおちびたちに夢中だったのに、まるで別人みたいね?」
何があったの?とユティは首を傾げる。
まぁそうだよね、さっきまでまるで病気みたく顔を赤くして覗いて居たのに、いざ一緒の場所にいれてあげたら虚ろな瞳で積み木(パンケーキ)を齧っている。
「パーティメンバーに置いていかれて寂しいみたい?」
どうしてアーニャさんがリサさんを置いていったのかはわからないけれど、彼女が準備不足で農園まで足を運んだことも含めて、何かの計算があった様に思える。
出会って間もないけれど、それくらい彼女は賢い女性だと思う。
このリサさんのしょんぼり具合までは計算か分からないけど・・・ね、後で調査する時にやる気が出ないと困るしせめてこちらで少しくらいフォローもしておくべきかな?
と考えて、食事待ちの時間だけでもと大好きらしいちびっこの中に放り込んだけれど、あまり効果もないみたい。
さすがにポッと出の少年幼女(大好物)たちよりも、パーティメンバー(仲間)とのことが大きいらしい、ある意味安心できた。
コンコン
と、ここでドアがノックされた。
どうぞ、とリズ姉が返事をすると、12才の奉公人のファナちゃんが木製の台車に丸いパンと金属製の鍋と木製の食器類を載せて入ってくる。
「お待たせしました。お食事をお持ちしました」
食堂は窓の大きさの関係で、お日様の高い時間帯は少し薄暗く感じる。
昼間から灯りをつけるのも勿体無い(魔力灯を点すのにも魔力が要るし、私には気にならない魔力量でも、他の人には節約できたらしたほうが良い程度の消耗があるみたい)ので、ここに運んで来てくれた。
「ありがとう、ごめんなさいね?急に人数が増えてしまって」
テーブルの上へパンと、鍋から海鮮系のスープを注いだ食器を置くのを手伝いながらリズ姉がファナちゃんにお礼と謝罪をする。
いきなり食事を一緒に取りたいともともと宿泊客の私たちは別としても、ティータたち3人とリサさんが押し掛けた形。
ティータたちももうこちらの宿を取ったのでお客だけれど、リサさんは違う。
「いえ、食事代も頂いておりますし、食事自体は一族経営の食堂で出しているものと同じですから」
と、12歳にして完璧な微笑みを浮かべながらファナちゃんは鍋からスープを掬って入れる。
本当ならリズ姉やアリアはお客様として座って待てばいいのだけれど、まだ子どもに見えるファナんを働かせて座ったままでいることに耐えかねたのだろう。
一緒に配膳を手伝うべきレミちゃんはリュリュを起こす役を、クリストファ君はリュシーとミーナちゃんに簡単にお片付けをさせてくれてるところなので仕方がない。
でもリサさんは箱にないないできないからこっちに連れて来てね?
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さて、テーブルに並べられた食事は丸い柔らかめのパンとスープ、それに洗って適当に切って盛りつけただけの野菜サラダだ。
スープは貝類と細かく刻まれた野菜と肉が具材の牛乳か生クリームが使われていることがはっきりわかる白いトロッとしたもの、クラムチャウダーだと言って出されれば『そうか』と納得できる様な料理。
サラダは見たことある様なない様な2種の葉物野菜(キャベツかブロッコリーの葉に似ている)を中心に、そこはかなとなくニンジンぽく見える根菜らしきものの細切りが載せられている。
「昨日の夜北部の船が着いたそうで、甘ニンジン仕入れられたんですよー、食べたことあります?甘ニンジン、すごく甘いんですよー?」
ファナちゃんによると、寒い地域で年中栽培されてるらしい甘ニンジンは、その名前の通り甘味が強いことが特徴で、小さい子どもの野菜嫌いを治すのに使われる野菜の一つだそうだ。
甘いと言ってもニンジンのもともと持つ甘味が特に強いというだけなので、ニンジン嫌いの子どもがその甘味に気付くきっかけになるとか・・・。
それで子ども連れを泊めることが多いこの宿では仕入れてるんだね。
でも、うちのちびちゃんたちは好き嫌いはほぼないし、リュリュに至っては吐くほど食べる食い意地の張り様だからね、残念ながら甘ニンジンは猫に小判の様なものだった。
「ほら、リサさんも食べてくださいよ、そんなんじゃ午後の調査で元気が出ませんよ?アーニャさんたちが心配してしまいます」
ティータがリサさんの口元にクラムチャウダーもどきを匙で差し出すと、なんとかリサさんはそれを口に入れる。
ティータはお姉ちゃん的思考が強いからか、カノン以外に対しても世話焼きが発動するみたい。
「むぐ・・・うぅ、おいしい・・・」
ゆっくりと貝肉を咀嚼しながら、リサさんはでもやっぱりまだしょんぼりしている。
これ、リズ姉たちへの心証大丈夫かな?
むしろ悪だくみとかできそうにないから安心してもらえるのかな?
と、ティータの世話もありリサさんも何とか少し食べた後、食事開始から10分ほどでジャンさんとエミールが帰ってきた。
「ただいまー・・・って増えてるな」
新顔が4人もいて部外者であるクリストファ君とレミちゃん、ミーナちゃんも一緒に食事を摂っているからかジャンさんは言葉を選ぶことができずに、ただ増えてるとだけ呟いた。
「「お帰りなさい」」「ジャンさん」「・・・お兄ちゃん」「あなた」
「パパおたえり」
「あー!パパだ!」
みんな思い思いに声をかける。
誰もエミールを呼ばない、ユティは照れ隠しでだろうけれど、そしてティータたち3人は小さく会釈。
リサさんもさすがに初対面の大人が来たからか再起動して会釈している。
それから、ティータたちをカノンの姉として説明し、リサさんを異なる冒険者パーティの一人だと紹介した。
以前にカノンには二人の姉がいると説明したのに、3人を新しく姉と紹介してしまったけれど、幸い二人は察しが良く、一瞬アレ?という顔をしたものの今は流してくれるらしい。
そして、リサさんたちとの条件の話を聞くとジャンさんは小さくため息をついた。
「さすが、ムツキは運があるなぁ、馬車を購入するのなんてなかなか上手くいかないもんだ。初めての町でだなんて特にな、ただ困ったなぁ・・・」
と、ジャンさんは私の頭を撫でながら目を瞑る。
なんだろうか?もうすでに馬車の購入の手付金を払ってきた後とか!?
でもリズ姉が、私のメイドたちがザラオで何人見つかるかわからないからまだ買ってこない予定だって言ってたよね?
じっとジャンさんの顔を見つめると、ジャンさんは少しだけ目を逸らしながら頬をかいた。
「いやぁセブンリングス後とは言え、男二人に・・・子ども含めても女13人というのは女衒かなにかと勘違いされそうだなぁ・・・と」
この場にいたほとんどの人は、女衒という言葉の意味が分からなくてきょとんとした顔をする。
わからない様にそういう言葉を選んだのだろう。
まずこちらにその言葉があることにびっくりだけれど、女衒というのは女の子を品定めして買って、性接待のあるお店へ売ったりする人身売買をする商人を指す言葉だったはずだ。
『越後の縮緬問屋の隠居を自称する権威ある老人とその一行の諸国漫遊世直し旅の物語』なんかではおなじみの職業だ。
人さらいや親に借金を作らせておいて娘をその形に無理やり連れて行く描写などされることが多いけれど、子どもが親の持ち物であった時代には子どもの意志は無視して親が合法的に子どもを売ることも多かったので、女衒が必ずしも悪人というわけではないけれど、印象はまぁ良くない。
どちらにせよ他人の不幸を食い物にしてる部分はあるからね。
そして確かに、男2人だけで女の子をそんなに連れて旅してると確かにそういうものに見える可能性はよね。
ユティとリズ姉は相方がいるにしても、まだ11人も女の子が余っている。
しかも下の3人以外はすでにお年頃、カノンもそういう目で見ればあと3年もすればお客を取れる年齢ということになってしまうだろう。
私とアリア、リズ姉とフォニアは言葉の意味が分かったので『あぁ・・・』という表情を浮かべ、おそらくはその商人と勘違いされ苦悩するであろうジャンさんにやや同情的な眼差しを向けた。
逆に小さい子たちは、おそらくはジャンさんの思惑通り言葉の意味が分からず。
うちのティータ達は修道院育ち設定故かわからないみたい。
エミールやユティも分からないみたいだけれど、きっとそういうものが目に入らない様にジャンさんが守ってきたのだろう。
というかリサさんも分からないんだ?
小柄で童顔だけれど、18歳くらいに見えるターニャさんを撫でたり、上からの目線で接したりしてるし、第一印象から大人っぽいと思っていたけれど、どうもおかしいよね。
もしかしたら思ったよりも若い人なのかも・・・?
少なくともまだ年を聞いても失礼な年齢じゃないよね・・・?
「そういえば、リサさんたちって年はおいくつなんでしたっけ?」
ジャンさんがちぎったパンにさらに残ったスープを塗り付けて食べているタイミングで、私は少し元気になってきているリサさんにはじめて年齢を尋ねた。
「あぁ、言ってなかったか?私は今16歳で、ターニャが18歳、アーニャが13歳」
まさかの一つ上!身長は確かに私と大差ないけれど、まさかターニャさんより年下だなんて。
大人っぽいとか、勝手な思い込みだったみたい。
逆に最初の方の印象とターニャさんに対する態度以外大人っぽい要素なかったのに、なんで私は
リサさんの事年上だと思ってたんだろう。
「・・・とりあえず異論はない、信頼できそうな馬車が買えるならとても有難い話だし、ムツキたちが見つけてきたんだからお嬢さんのことも信用させてもらうよ」
ジャンさんは、むぐむぐと最後のパンを咀嚼しながらリサさんたちとの契約を認めてくれた。
これで後は、お昼から頑張って、アーニャさんたちに認めてもらうだけだね!
申し訳ありません、もう一つの連載のあとがきでも書かせていただいたのですが、現在長時間座ったり、うつ伏せたりが困難な状態になっておりまして、ただでさえ遅れている執筆ペースがさらに遅れております。
ご迷惑をおかけしますが、体調を優先させていただいております。