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G39話:馬車とテスカと小怪獣2

 前回のあらすじ

 馬車と馬の購入の為、件の農園に訪れた私たちは、牧羊獣の大きさに驚いていた。

 しかし直後もっと驚くことになった。

 ターニャさんに絡まれていたアーニャさんが、突如杖をターニャさんの方に向けて攻撃魔法アーススパイクを発動したのだ。

 突然のことに一瞬驚いた私たちだったけれど、アーニャさんの狙いは、ターニャさんの足元近くにいた小さな怪獣の様な魔物だった。

---

「なるほど、このトカゲは魔物、それもトカゲ魔物ではなくレッサードラゴンの可能性が高い・・・と」

 通された農園の事務室兼応接間、細身の女子どもばかりとはいえ客を9人を迎え入れるには少し狭く、椅子も足りなかったため私とアーニャさんが代表ということで担当者の正面に座りアーニャさんが口頭で先ほどの出来事を説明し、推定ダンピングサラマンダー幼生の死骸をテーブルに麻布を被せた上に置いて示した。

 その説明を聴いた農園主の男性は暗い表情でアーニャさんの説明を簡単に復唱した。


 私のすぐ隣にはアリアがシャッキとした立ち姿で侍り、アーニャさんの隣にはターニャさんがどこか退屈そうにしながら立っている。

 残りのティータ達三姉妹とフォニア、リサさんは隣の部屋で、ボーダーコリーに似た仔犬達と戯れている。

 普通に牧羊犬も繁殖させているらしい。

 私も正直ワンちゃんたちと戯れて居たかったけれど、私たちのパーティの代表なので折衝や渉外は私がしないといけない。

 アリア達5人は私の召喚した使い魔であるからか、私の判断に従う性質がある。

 逆に何か他所から提案されても、私に関わる案件ならば私に尋ねないと判断できない可能性が高い。

 それなら二度手間になるより私が聞いて判断した方が良い。


 それからエストレア農園側は、農園主の50歳前後の男性と、その末娘らしい20には届いてなさそうな女性、それから中肉中背の30歳手前くらいの特徴の乏しい男性とが室内にいる。

 農園主のヴェルナさんの説明によると末娘のヴィオレッタは頭が良く農園の後継者候補なので今回の話合いにも修行を兼ねて担当者として参加、男性ダミアンは南側の農園の放牧地の管理を任されているそうでそちらからの代表としてこの場に来ているそうだ。

 つまり今室内には7人の人間がいる。

 少し狭く感じるけれど、無理のない範囲。


 ヴェルナさんは書斎机に座ったまま話を聴いていて、担当者のヴィオレッタさんはテーブルを挟んで私たちの正面、ダミアンさんはその傍らに立っている。

「これがレッサードラゴン・・・初めて見ましたが、ビーチリザードやコーラルリザード、バリアリザードとそんなに驚異度が違うのですか?」

 ヴィオレッタさんは、ザラオの周辺の水辺で見ることができるというトカゲ魔物と比較しながら机の上に置かれた骸を恐る恐る・・・という体でもなく、普通に触っている。

「(平気なんだ・・・)」

 さすが農園で日々土いじりや家畜の世話している女性は強いね?私にはちょっと無理!


「むしろ、これがレッサードラゴンだというのが虚言じゃないのか?食い詰め者の冒険者がやりそうなことだよな?無知な依頼者をだまして多目の報酬を得ようって・・・」

「黙れダミアン、アーニャ嬢にはこちらから指名して依頼したのだ。彼女への侮辱はワシへの侮辱ととる」

 ダミアンさん、年長者だけど無礼だしこちらも礼を欠いてダミアンでいいか、無礼な発言を雇用主であるヴェルナさんにかき消されたダミアンは私とアーニャさんを睥睨しながら、謝罪することもなく沈黙した。


「アーニャさんが、わざわざ私たちを騙す利点もないしね」

 ヴェルナさん、ヴィオレッタさんはアーニャさんと知己らしく、彼女のバックグラウンドが少し見え隠れする。

 少なくとも農園にとっての一部門の管理者よりも信頼に足る来歴がなにかあるみたいだけれど、詮索は出来ないね。

 私たちはダミアン以下の信頼度だろうし、しばらくは黙って聞いていよう。


 ダミアンは不服そうな表情を隠そうともせず。

 ヴェルナさんはそんなに彼を冷めた目で見ている。

 ヴィオレッタさんは、こちらを向いているのでダミアンの態度は目に入らない。

「それで、私たちはこれからどうすれば良い?領軍に連絡は要る?」

 そしてヴィオレッタさんはアーニャさんに視線を合わせるとこれからの方策を尋ねた。


 アーニャさんはダミアンのことなんて気にした様子なく。

「いえ、領軍はまだです。今日のうちは他に居ないかを確認して、明日こちらから領主様に連絡します。エストレア農園が関与していないことを証明してからでないと、罪に問われる可能性があります」

「罪に!?それならなおさら早急にに連絡しないと!」

 ヴィオレッタさんはアーニャさんの手を握りながら訴える。

 切実そうなヴィオレッタさんに対してアーニャさんは冷静なまま

「いいえ、だからこそ明日です。普通はあの魔物の幼生を見てレッサードラゴンだと考えません、私は事前に調べましたから絞れましたけれど、今日のところは農園を出てからこの死骸をギルドに持ちこみ、鑑定してもらいます。その結果を受けて、明日の開庁後に領主様・・・に報告するわけです。今が領主様御滞在の時期で良かった」

 と、僅かに喜色混じりの声で応えた。


「そ、そうなの?アーニャさんがそう言うなら・・・うん、そうするわ」

 と、ヴィオレッタさんは一瞬父親と視線を交わし、ヴェルナさんが頷いたのを確認した上で、アーニャさんの意向に従うと意思表明した。

 それにしても、アーニャさんは何者なんだろうか?

 ヴェルナさんやヴィオレッタさんはアーニャさんに全幅の信頼を置いている様に見える。

「(領主と取引のある様な大農園が?一介の若い冒険者に?)」


 ダミアンはもう少しだけごねたけれど、農園主と未来の農園主の意向を覆すには至らず。

 今日のところは夕方まで農園内の水路を中心に、ダンピングサラマンダーの幼生(もちろん成体もだけれど)が居ないか探ることになった。


 私たちのことも、件の馬車の取引に関係することで・・・とアーニャさんからとりなされて、比較的穏やかに顔見せは終わった。

 これも『若く見えるけれどアーニャさんなら人を見る目もあるから大丈夫だろう』という様な空気を肌に感じたけれど

 こちらは一見さん、知己の紹介なら安心かも?ってだけのことだからそう違和感を感じる必要もないはず。


 テスカ対策と各部門への出入りに必要な入場証を人数分受取り、建屋を出る前には私も少しだけワンちゃん達といちゃこらしたり(親犬もロードランドッグと違ってちゃんと人に慣れた可愛いワンちゃんたちだった。甘噛み最高!)と、建屋を出る頃には1時間程経っていた。

「それでは、私たちは一度装備を整えてきます。候補には考えてましたがまさか本当にレッサードラゴンが居るとは考えていなかったモノで、今日は下見だけで後日調査するつもりでいました。準備不足です」

「はい、午後から本格的に調査していただけるのですよね?各部署には伝えて置きますから、どうか我が農園をお願いしますね」


 一度、支度のために・・・と農園から町に戻ることなった。

 これは私がワンちゃんにハートを鷲掴みされている間も細かい説明を続けていたアーニャさんが申し出たことで、知識のない私たちはその言葉に従うことにした。

 ヴェルナさん父娘も二つ返事で了承し、アーニャさんに対する信頼が見てとれた。


「最大限力を尽くします。それでは一度失礼しますね」

 農園の敷地から出て、元来た道へ戻る。

 ワンちゃんの可愛さを分かち合う姉妹たちの声(特に元気を取り戻したセレナの声が大きい)を後ろに聴きながら、前を歩くアーニャさんの背中を見る。

 私は正直装備も荷物も全部持ってきているけれど、本来体調不良のために休暇していたアーニャさんや、ティータ達は町娘風ファッションに武器だけ持っている状態だ。

 ギルド2階を引き払ってきたので、3人も荷物は持ってきているけれど、どちらにせよアーニャさんが防具を用意していない以上出直すのは自然なことだ・・・けれど


 お休み返上で魔物を下調べしたり、年上のリサさんやターニャさんからも容易く主導権をもぎ取っていくアーニャさんが、魔物を調べる依頼で装備を用意していかない、なんてことがあるだろうか?

 彼女はおそらく完璧主義とまではいかないまでも、とても真面目で用意を怠らないタイプ、それがこんなしょうもない理由で二度手間の愚を犯すだろうか?

「(そんな風には思えないんだよねぇ・・・?)」


 なんてことを考えているとアーニャさんが立ち止まり振り返った。

「それではここで一度別れましょうか、支度をしてきますので大体1時間後にムツキさんたちの宿屋に迎えに行きます。その間に昼食は済ませておいてください、食べ過ぎて動きが鈍くなったりはしないでくださいね、レッサードラゴンと戦う必要はありませんが、逃げられる程度には身軽でいてください」

「えー、お昼一緒に食べよーよ、カノンちゃんも一緒に食べたーい」

 にこやかに告げるアーニャさんにターニャさんが不服そうな声をあげた。

 心なしか、『カノン』を『食べたい』というニュアンスに聴こえるイントネーションだった気がするけれど、ターニャさんは時々イントネーションがおかしいし、気のせいだろう。

 仮に気のせいでなかったとしても、流石に食べたいくらい可愛いとかの部類だと思うし。


「姉さんにはやって貰うことがあります」

「後でじゃダメ?」

「いけません」

「カノンちゃんとお昼食べられるのは今しかないんだよ!?」

「今回の仕事次第ではカノンさんたちともそれなりに長い付き合いになります。こっちは急ぎです。」

「でもでも、ザラオでお昼できるのは貴重な・・・っ」

「書斎机の引き出し・・・」

 少しの間続いたアーニャさんとターニャさんの戯れ合いはアーニャさんの呟いた書斎机の引き出しという謎の言葉に、ターニャさんが口を噤む形で決着を見た。

 だけれど、まだなんとなく納得していない様子のターニャさんに、アーニャさんはさらに言葉をつづける。


「玄関、洗濯物置き場、衣装棚、部屋の扉」

 あ、これ多分ターニャさんが壊したりやらかしたりしたやつだ・・・。

 淡々とした口調で言葉を紡ぎ続けるアーニャさんとは対照的に、ターニャさんは泣きそうな表情。

「わかった。わかったから、そんな冷たい目で見ないでよアーニャちゃん」

 すぐに折れた。


 そして逆にリサさんは特にごねたりとかする様子もなくアーニャさんについていこうとしたけれど・・・。


「あ、リサさんは準備もできてますし結構なので、ムツキさんたちとお昼でも食べて親睦を深めててください、昼食代渡しておきますね」

 と、アーニャさんはあっさりとリサさんをこちらに送り返す。

「へ?え?」

 と、やや混乱した様子を見せるリサさんに特にそれ以上の説明をすることもなく

「それでは大体一時間後」

 とだけ言い残して、アーニャさんはカノンに向かって手を伸ばすターニャさんを半ば引きずる様にして、私たちの宿屋とは別の道へ消えていった。


「へ・・・?なんでだ?」

 とあっけにとられた表情のリサさんを一人残して。

あけましておめでとうございます。正月休み中に執筆できるはずが、ごく個人的な都合で叶いませんでした。

更新が遅くなり大変申し訳ありませんでした。

生きてます。

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