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G37話:小さい子を可愛がりたい小さいお姉さん

 前回のあらすじ

 馬車を必要とした私たちは、馬2頭の予約を取り付けているらしい女性3人の冒険者パーティの、リサさん、アーニャさんと話合いを始めた。

---


「ただ、私たちの同行者は最低限足手まといにならないだけの人たちであることが条件です」

 馬車の購入権を譲るのに、片道だけで良いと言った後、アーニャさんは指を立てながら言った。

「アーニャ・・・ッ!」

 リサさんが何か言いたそうにしたけれど、アーニャさんは立てた指をそのままリサさんの口の前に運び、言葉を封じる。


「無論一緒に狩りをして、フォ、フォニアさんの優秀さや人柄の好ましさは理解してますけれど・・・」

 なぜかフォニアの名前を呼ぶのに僅かに頬を赤らめるアーニャさん。

「でも、そのご同行の行商の方たちも守るとなれば、私たち3人とフォニアさんだけが戦力ではちっとも足りないと思います」

 と、彼女は、私やアリアの方へ視線を向けて告げた。

 それはつまり、私たちに実力を見せて欲しいということか。

「えっと、どうすればいいでしょうか?」

 選択権はあちらにある以上とりあえず尋ねるくらいしかできないよね?


「ムツキさんは賢い女性の様ですね、お察しの通りです。簡単に実力を測らせていただければと思います。具体的には夜盗や魔物の類が出ても自力で撃退できる程度の腕があれば問題ありませんので、件の馬主さんのところに向かってからになりますが、簡単に腕を見せてもらおうと思います」

 街中じゃせまいから、牧場?で動きや、もっている技能を見るということかな?

 ただそれにしたってこちらも伝えておくべきことがある。


「あ、それじゃあその前に私たちの方も、同行者に許可をとってもいいですか?ティータたちと再会できたことも報告しないといけないですから」

 家族として付き合う様になったとはいえ、ジャンさんたちに相談もなしに勝手に同行者を増やせない、再開したティータたちは別にしても、他人との条件付きの同行、それも王都まで行きたいという要望付き。


 幸いここからなら宿屋は近い、ジャンさんが帰ってるかという問題はあるけれど、リズ姉は今日は宿で留守番してるはずだし相談できる。

 私の言葉にアーニャさんは小さくうなずいて納得した様子を見せた。

「あぁ、それもそうですよね、同行者の許可と確認もいりますね、ムツキさんが慎重な方だと分かって良かったです」

 と、まるですでに私の値踏みは始まっていたとでもいう態度だけれど、多分素で考えてなかった。

 ということは彼女も本心では私たちが馬車を買うこと、一緒に王都に向かうことにすごく賛成だけれど、彼女たちの抱える何らかの事情のために慎重になっているのだろうか?

 少し気になるけれど、私たちだって本当は出していない話がいっぱいあるしね、深入りはしないべきだろう。

 

---

 しばらくして、ドアを修理し終わったらしいターニャさんが2階から降りてきてから、私たちは移動を開始した。

 女の子9人というなかなかの大所帯で、その上全員が一定以上の美少女(残りも美女)とくれば目立つことこの上ない。

 とはいえ、チャールズさんの宿屋までは100mもないくらい、時間帯的にもお昼前、大半の人は港や農場で汗水流しているか、来るランチタイムに備えて店内作業に追われている時間帯、多少人目を集めているのはわかるけれど、人の流れを阻害させてしまう様なものは起っていない。

 開店業務をしていた食堂のお兄さん、お仕事を妨害してしまってごめんなさい、私のメイドが美人なのが悪かったです。


 アーニャさんは、ティータと仲が良いみたいで、彼女と手をつないでいるカノンにも積極的に話しかけている。

 そしてさらに、ちらちらとフォニアの方を見ているのは、すごく興味があるからなんだと思うけれど、なぜか話しかけない。

 照れている感じがする。


 私はというと、リサさんが積極的に話しかけてきている。

「はぁ、可愛い・・・、カノちゃん、可愛い、持って帰ってお膝に抱いて可愛がりたい」

 私に話しかける話題としてはいかがなものかと思うけれど・・・

 手をワキワキさせながら、頬を赤らめている。

 小さい子が好きなだけだよね?

 女の子だもの、お人形遊びの延長というか、お人形遊び自体幼い母性の発露というか、多くの女の子には自分より小さい子のお世話に刺激される部分が備わっていて、特に弟妹が居ない女の子は、それを急激に刺激されると一気にメロメロになってしまう(体験者は語る)のだ。


 とはいえ、私が話しかけられてるとはいえ、これに全面的な賛意をしてしまうのはいかがなものだろうか?

 カノンは『ウチ』の妹だ。

 私まで一緒になって褒めすぎては些か体面が悪いのではないかな?

 と、日本人の謙遜が出てしまう。


「お褒め頂きありがとうございます。カノンは可愛いし賢い自慢の『妹』ですが、アーニャさんだって可愛い子だと思いますよ?」

 そのアーニャさんが今うちのカノンを可愛がってメロメロになってるところだけれども、そこはそれ、可愛い妹分が、さらに小さい子を可愛がってる姿というのも、姉からすれば可愛い(体験者は語る)ものだ。


「ん・・・あぁ、そうだな、アーニャも可愛いし、助けられてもいる。でもアーニャは私のことを姉の様には思ってないから」

 そう言ってわずかに寂しそうな表情を浮かべるリサさん、何か彼女達にも事情はあるのだろうけれど、確かにアーニャさんはリサさんに火傷するからとお湯を扱わせなかったり、雑用をさせることも厭うていた雰囲気がある。

 その背景全部を私が理解するにはまだ私たちの寄り添った時間は短い。


「あぁ、そうか」

 とそこでリサさんは何かに気が付いた様子で手をポンと打った。

 ジェスチャーが日本と同じ、言葉もそうだけれどなんで西洋風なのに、こんなにも日本風なのか。

 とかなんとか考える余裕はすぐに掻き消えた。

 いつの間にかトントンと後頭部に触れる感触、リサさんの小さな手が私の後頭部を撫でていた。


「え?リサさん?」

 ほとんど初対面の私に突然のなでなで?

「ムツキちゃんもすごく可愛い、ティータおねーさんがカノちゃんばかり可愛がって寂しいんだろ?」

 と、とてつもない誤解、寂しくなんてないし、いや寂しいのは寂しいけど、それはカノンの手が私じゃなくてティータを選んだからであって、そもそもティータは私のお姉ちゃんじゃない。


 リサさんは私がティータより幼く見えたみたいで、私を可愛がろうとし始めた。

 確かに私はティータより胸はないけれど、それでもこんな風に極端に年下の子扱いされる外見はしていないはずなのに・・・。

 どうやら私の謙遜が、どういう理解の仕方をしたのか私からカノンへの嫉妬に映ってしまったのだろうか?

「あぁ、ちょ、そういうの良いので・・・」

「可愛い、可愛い・・・」

 どうも初対面の小柄ながらもクールで格好いい大人の女性というのは誤った認識だった模様、お湯の件なんかも合わせて考えれば、完全にポンコツの部類かも。

 私の話も聞かずに目を細めて私を撫でまわすリサさん、私よりは大きいのである意味外見相応かもしれないけど、子どもが背伸びしてるみたいに見えてしまう。


 その後も宿に着くまで撫で続けられ、なんとか私のティータへの感情は姉妹のそれではないことをわかってもらったけれど、それでも撫で続けたということは単にリサさんは私が可愛いと思っただけのことか。

 子ども扱いは不服だけれど、可愛いと思って貰えたのはちょっとうれしい。

---

 と、思っていた時が私にもありました。


「う、うぁ・・・可愛い、可愛いっ!」

 目の前の背の低いパーテーションの向こうでは幼女3人と童女、童女と見紛う様な美少年がおままごとをしていて、それを泣き出しそうな表情でリサさんが痛々しいほど身を乗り出して覗き見している。

 別に私やカノンじゃなくても、自分より小柄なら誰でも良いのか?と若干ムカっとしてしまうけど、リュシーやリュリュはもちろん、レミちゃん、ミーナちゃんにクリストファ君も可愛いらしいのは私も大いに認めるところなので仕方がない。

 とはいえ、リサさんの評価はすでに少しポンコツ気味で子ども好きの残念な小さいお姉さんだ。


 宿屋に戻ってすぐに私たちは、リズ姉とユティに(もちろんリュシーとリュリュにも)まずはティータ達3人を紹介した。

 2人はすごく喜んでくれて、この僅かな期間に立て続けに4人見つかったことをお帰りなさいと抱きしめながら耳元で祝ってくれた。

 そのうえで、ターニャさんたちを紹介して、『例の条件』を提示して今に至る。

 

 この部屋は家族向け宿屋らしく子どもが遊べる広めの部屋であり、子どもが遊びに集中でき、なおかつ大人は見守りができる様にパーテーションがいくつか用意されている。

 宿泊客がいないときはミーナちゃんの遊び場にもなっているこの部屋でおちびちゃんたちはおままごとを、それに付き合って近い目線でのお世話をクリストファ君とレミちゃんがしてくれている。

 二人が夫婦役なのは当然のことらしい。

 リュシーとミーナちゃんを巻き込んでロールプレイしている。

 でもリュリュはまだ誰かとルールを作って遊ぶのは難しいみたいで、包丁に見立てた長方形の木の板で、何か食材に見立てているらしい別の木の板をトントンと好きに調理しているだけだね。


 そんな子どもたちの様子を見ながら、リズ姉とユティは繕い物をしていたのだけれど、流石というべきか、ジャンさんも居ないのにリズ姉の判断は一瞬だった。

「私たち・・はいいわよ?今回の道中王都に寄ることもあるかもしれない、が『寄る』に変わるだけだし、そのうち一度はあの子たちに王都を見せてみたい・・・と思ってたしね?」


「義姉さん、私も王都なんて見たこと無いわ?」

「奇遇ね私もよ?」

 リズ姉の言葉に反応して手を止めるユティに、リズ姉は大したこと無さそうに応える。

 リズ姉に気を使わせたかもしれない、けれどそれは私たちを家族として受け入れてくれているからこその寛容だ。


「実を言うと、今日あの二人が出掛けている目的の一つに、馬車を見立てるというのが含まれてるのよ?あなた達がザラオで何人かと合流出来るかもしれないから購入はしてこない様にいってるけれど、これから先うちの馬車だけじゃあ寝るとこ足りないしね?だから、行き先が一ヵ所増えても、馬車の購入は賛成、コネがある方が信頼できるし、わざわざ一緒に来るならその子達がムツキちゃん達を騙して・・・ということもないでしょう?」

 と、リズ姉は、本来最初に私が疑わないといけないことを口にした。

 ハッとさせられる。

 そうだね、ターニャさん達だってほとんど初対面の知らない人だもの、冒険者同士という程度の弱い絆を頼りに信頼しきるのは危険だった。


 まぁ、このだらしない顔でちびっこたちを見続けるリサさんがそんな企みをしている様には見えないし、仮にこれが演技だったら彼女は冒険者なんかより目指すべき職業がある。

 でも冷静に馬と馬車の購入権の事をリズ姉に説明しているアーニャさんや、ちびっこ達の可愛さに惑わされることなくカノンを懐柔しようとしているターニャさんは侮れない・・・かもしれない。


 とりあえず、リサさんへの評価が僅か数時間の間に大きく下がったことを除けば問題なく私たちとターニャさんたち、そしてリズ姉(が是と言った以上ジャンさんは拒否しないだろう)との間で馬と馬車購入の意識が共有された。

 あとは私たちがちょっと腕を見せないといけないらしいけれど、こちらにはアリアもいるし、私も頑張るつもりではいるので、きっとなんとかなることだろう。

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