Gプロローグ2
プロローグの続きです。
「いいよ?楽しそうなムツキみてるだけでも私は楽しい、あとはムツキの持ってるかわいいカード見せててくれたら多少は時間つぶれるでしょ?かわいいイラストは私も好きだよ?」
ニカリと笑い、ますます寛容なお言葉をくれたヤヨに私は頷いた。
「じゃあ・・・せっかくだから」
そうして、新Verが稼動しているはずのブースに行くと思ったよりも人はいなかった。
前回のバージョンアップの後は背の低い私には筐体が見えないくらい人がいたのに・・・。
でも知ってる人はいっぱいいるみたい。
とりあえずヤヨとはぐれない様に手を握ってその人たちの中に入っていく。
「こんにちはー♪」
元気に声を出していくと知り合い数名と知らない人が2~3人こちらを向いた。
そのうちの一番目立つ人、身長184cmで既婚者、お顔もなかなか格好いい先輩ゲーマーのモグリーマンさんが呆れた様な顔で返事をしてくれた。
「おやおや、ガーネットちゃん、だめだよ、学校サボっちゃ、お友達まで巻き込んで・・・」
「ガーネ・・・?」
「サボってないですよ、台風で午後休校になったんで・・・えっとエビちゃんは?」
ヤヨが頭に疑問符を浮かべて首を捻っているけれどとりあえず先にモグリーマンさんに反論。
しながらに待ち合わせの先輩プレイヤーの姿を探す。
見える範囲にはいない様に見える。
「こんにちはガーネット嬢、エビキチ氏なら今プレイ中だよ」
とこちらも顔なじみの先輩プレイヤーCOPさんが教えてくれる。
ちょっと小太りなおなかが気持ちいいのんびりした小父ちゃんだ。
「うちのろっこつさんもプレイ中、そういえばガーネットちゃんも今回からEoSやるんだっけ?」
と、モグリーマンさんは筐体のひとつを親指で示しながらリアル奥さんでもある毒吐きコブラツイストさんも今プレイ中であることを教えてくれる。
ところで平日の昼間から夫婦そろって有給休暇とってゲーセンて仲いいね・・・。
「いやー、ガーネットちゃんが来ると一気に華やぐよね・・・もっと頻繁に来てくれてもいいのに。」
大学生でちょっとナンパな雰囲気のかぼちゃスパゲティさん(通称かぼスさん)がニコニコと話しかけてくる。
「いやーさすがに毎日はお小遣いなくなっちゃいますって。カードゲーム高いですし。」
「それならちょっと僕と2時間くらい彼女のフリして付き合ってくれたら時給2万くらいダヴェ!!」
「お前はいっぺん警察のお世話になったほうがいいみたいだな?」
ちょっと危ない発言をしようとしたかぼスさんを親友らしいぼたもちさんが後ろからチョップする。
ぼたさんは顔は怖いけれどとってもやさしい大学生のお兄さんなのだ。
いつもながらの流れに、苦笑していると、さっき振り向いた知らない人の一人のロンゲのお兄さんが楽しそうに声を欠けてくる。
「モグ兄さんたち楽しそうっすね、ぼたさんの妹かなんかっすか?」
ぼたさんがお兄ちゃんだったらそれはとても楽しそう、そういうロールプレイもありかな?と上目遣いでぼたさんを見てみる。
けれどぼたさんはつれないもので、さりげなく擦り寄っていた私のおでこを抑えると
「ちがうちがう、ここの常連の子で閃国とFoEメインのプレイヤー、でも常連みんなの妹分みたいなものだから、ヘンに手だしたらここホームのプレイヤーから総スカンだからな?ガーネット、こいつらEoSメインのプレイヤーで鼻血パンツと、海の鼠と書いてうみんちゅーだ。変態だが悪いやつらじゃない。」
と紹介され、なかなかアグレッシブなプレイヤーネームだなぁと感心しながらとりあえず頭を下げておく
「どうもはなぢパンツさん、うみんちゅーさん、ガーネットです」
するとお二人は苦笑しながら。
「いやーいやいや」
「ガーネットちゃん信じちゃだめだよ、僕は海の鼠とかいてなまこ、こっちは本当は花丸パンだからね?」
なるほど、それならまだ可愛いかも?
「ところで、そっちの子ははじめてだね?お友達かい?はじめましてモグリーマンです」
とモグリーマンさんがヤヨの顔を覗き込む。
「・・・・っ!?マ・・・・マルタ・リヒトヴナ・ウエンダン、デース。」
突然で驚いたヤヨはとっさに困ったときのカタコトモードを発動させ、私の背中に隠れてしまう。
本当は日本語以外話せないのに、見た目が見た目なので皆信じてしまう。
「おおこれは驚いた。ドーブルィヂェーニ?だったかな昔体操漫画で読んだくらいしかわからないんだが・・・」
ヤヨの名前から判断したのか、とっさにたぶんロシア語らしい挨拶を引き出してくるモグリーマンさんはさすがだと思うけれど、タイミングが悪かった。
彼の背後にはすでにその悪魔が近づいていた。
「おいコラ!また私のガーちゃんからかってんのか!また肋骨折ってほしいんか?」
とかなりガラの悪い声を出しながらろっこつさんが自分の旦那さんであるところのモグリーマンさんの背中を後ろから殴る・・・グーで。
ろっこつさんこと毒吐きコブラツイストさんはプロレス好きの大手住宅設備機器メーカー(わが家のトイレもここの製品です)のOLさんで私のことを鬼の様にかわいがってくれる数少ない女性先輩プレイヤーだ。
大学生のころに合コンで2つ上の先輩であるモグリーマンさんの肋骨をうっかりコブラツイストで折ったのがなれ初めだとか・・・・。
ろっこつさんという呼称の由来も、「もうやめて、とっくに肋骨のSAN値はゼロよ」というモグリーマンさんの友人の言葉にあるらしい。
骨の正気とはどういうことだろう?
身悶えるモグリーマンさん、おびえるヤヨ、苦笑いの常連たちを尻目にろっこつさんは私の姿を視界に納めると華やかに笑う。
なかなかの美人さんなのだこれが・・・怖いけれど。
「はぁい私のガーちゃーん♪今日もかわいいわー若いっていいわよねーって誰じゃこのお人形ちゃんは!?」
と私の後ろのヤヨの姿を認めてオーバーリアクションをする。
まぁわかるよ、ヤヨはすっごくかわいいから。
しかし、ろっこつさんには3年に渡って私をかわいがってきた補正があるのか、同じ位かわいく映るらしい。
「なにガーちゃんのお友達なの?さすがガーちゃんのお友だちだけあって本当にかわいいわ!二人でうちの子になってほしいくらい!」
「ヒグッ!?」
モグリーマンさんを一撃で悶絶させたろっこつさんの血走った眼光におびえたヤヨが私の背後に隠れる。
「ちょっとムツキ、男の人より女の人のほうが怖いんだけど・・・美人なのにこわいんですけどー!?」
あぁしまった、私のことゲーマーネームで呼ぶ様に教えてなかった。
ゲームセンターではあまり本名で呼び合うことはないので、ちょっと恥ずかしい。
特に初対面の人に聞かれるのとかちょっとイヤって思う。
「おや、白人美少女日本語しゃべれたんですなぁ」
「カタコトもかわいかったすが、意思疎通ができたほうがかわいいっすね。」
「ねぇ、二人でお姉さんの娘か妹にならない!?ハァッ!ハァッ!」
好き放題にいっている風で、彼らは私の名前を聞かなかったことにしてくれているんだろう・・・たぶん。
「えっと、私のことはガーネットかそれに近いあだ名で呼ぶ様にして、ゲームセンターだとあまり本名で呼び合うことってないんだ。」
「わ、わかったじゃあガーネット・・・私もそうしたほうがいいのかな?」
ヤヨは自分もニックネーム的なものを名乗るべきかと私に尋ねる。
私が首肯するとヤヨは2秒ほど考えてから
「じゃあ私はマーチで!」
と3月生まれらしい安直なネーミングで名乗りをあげた。
しかし皆もそこは空気を読む。
「そっかぁよろしくねマーチちゃん・・・・マーちゃん!ガーちゃんともども私の妹ね!」
そういって抱きついてくるろっこつさんの声に押されて掻き消えたけれど、皆ちゃんとヤヨの名前を聞かなかったことにして、マーチと呼んでくれた。
それから少し経って。
「とりあえず今日は台風が近いからかあまり人もいなくってね、17人しかいないし、2プレイ30分くらいだし、筐体は8台あるから、割とすぐ回ってくるわ、名前だけ書いて・・・そうねあと1時間くらいしたら順番くると思うわ」
そういわれて順番待ちの紙にとりあえず名前を書こうとすると、ヤヨが私の袖をつかんだ。
「ねーね、ガーネット、私もこれやってみたらダメかな?」
と興味を持った様子で・・・。
「もちろん、歓迎だよ?興味でてきた?」
私たちが会話している間、私の交換用高レアカード容れを眺めていたヤヨはそのうちの何枚かのかわいいカードに心惹かれた様だ。
もちろんエンパイアオブスカーレットのカードもCOPさんたちから見せてもらっていたみたいで、俄然興味を持ったらしい。
どちらかというとファンタジーなEoSはヤヨの好きなフリフリ衣装の女の子や王子様的絵柄も多いし、これからは一緒に寄り道したりもできるかもしれないチャンスだ。
ここは精一杯サポートして、彼女にEoSを売り込もう。
うなずくヤヨに私はちょっとやる気を出す。
「じゃあちょっと私の名前は消して・・・先にマーチの名前を書くね」
自分の名前を二重線引きし、代わりにマーチと書き入れた。
するとちょうど、私の待ち合わせの相手であるエビちゃんこと、蟹沢海老吉さんがゲームが終了したみたいで筐体から出てきた。
「あらガーちゃん、思ったより早かったじゃない、台風で早上がり?ゲームのためにサボる様な子には余りカードでもあげないわよ?」
と、少しおネエっぽいしゃべりのエビちゃんは、20台後半の小柄な小父・・・お兄さんだ。
初めてあった時はその独特なしゃべりに恐怖さえ覚えたけれど、話してみると気のいい人で、感極まったりするとちょっと抱きついたりはしてくるけれど多分下心はない、多分。
「エビちゃん、私真面目ないい子だよ?」
サボり疑惑なんてとんでもないと、抗議するとエビちゃんはいたずらっ子見たいに笑って、私にカードケースを1つ差し出した。
「はい、これ約束の旧カード詰め合わせ、好きだって言ってたからお着替え魔法少女シリーズのカードも余り分持ってきてあげたわ」
「うわぁぁぁぁぁぁ!アーアーアー!!」
お着替え魔法少女シリーズは低年齢女児向けのシリーズで、エビちゃん以外には今もやっていることは内緒にしているのに、なんてことを人前で言うのか!
ここにはヤヨだっているのに・・・。
ヤヨの方をちらりとみると少し引いた顔でエビちゃんをみていた。
そう言えばまだ紹介してなかったや
「ヤ・・・マーチ、紹介するね、こちらは先輩プレイヤーのエビちゃんこと蟹沢海老吉さん、ちょっと気持ち悪いけれど好い人だよ?」
とややぞんざいに紹介すると
「気持ち悪いて!?」
「気持ち悪いて!?」
とヤヨとエビちゃんの両方が声を荒らげ、それから苦笑した。
どうやら打ち解ける切っ掛けはできたみたい。
「エビちゃん、こちらは私のリア友のマーチ、可愛い絵柄に惹かれて今日から通うかも知れない期待の新星だよ?」
エビちゃんにもヤヨを紹介しようとすると再び後ろからろっこつさんが私とヤヨに襲いかかる。
「そう!期待の超新星!ガーちゃんとマーちゃんならゲーマー系アイドルにだってなれるわ!」
「にゅあ!?」
「ろ、ろっこつさん!?」
まだ先程植え付けられたろっこつさんへの恐怖が拭いきれないヤヨは涙目で自分を捕食した女豹を見つめる。
若干焦点が合っていない。
そんな弱肉強食が目の前で繰り広げられているのにお構い無しでエビちゃんは再度私にカードケースを差し出す。
「はいガーちゃん、ケースごとあげる。どうせ100均で売ってるケースだしね、その差し出そうとしてるカードケースはマーちゃんにあげなさい、なにも準備してないんでしょ?」
と、言って差し出すので、ありがたく受けとることにする。
「あ、ありがとうエビちゃん、カードも頂くのに、いつもお気遣い頂いて・・・」
なんてお礼を言ったものか、少し考えながら話しているとエビちゃんはウィンクしながら
「いいのいいの、ガーちゃんのお友だちなら、マーちゃんも私らの妹みたいなものよね、ほれあんたたち、マーちゃんにあげられる様なダブりカードがあったら出しなさい、SRとは言わないわ、初めから甘やかすのはよくないし、初心者にはパーツも貴重だもの可愛い絵柄のカードがご希望みたいだしこの際別ゲーのでもいいわ、この可愛い妹が時々でも遊びに来てくれる様に誘致するのよ!」
と、周りにいた常連に声をかけた。