G34話:港町ザラオ1日目・冒険者ギルド
前回のあらすじ
私の立てた作戦はほとんど意味をなさなかったけれど、別行動の使い魔3人との合流を果たした。
幼いカノンと姉のティータ、二人の美少女の抱擁は、どこか牧歌的な穏やかさと神々しさを感じさせた。
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あれから少し時間が経った。
今は気を利かせてくれた受付嬢のルミエさんのはからいで、2階の部屋を使わせて貰って、再会を喜び合っている。
「それじゃあ、例の理由で冒険者ギルドに来て登録したら、ルミエさんがこの部屋を使える様にしてくれたんだ?」
例の理由とは表向きの、家出お嬢様についていく様に旦那様に命じられたという嘘理由。
私が冒険者に登録するのに選んだ理由に付随して選んだ設定だ。
「はい、私たちみたいな若い子だけで新米冒険者なんて放っておけないからと、少しの間だけ面倒を見てくださるということなりました。それでお礼ということで、私程度の治癒術で申し訳ないのですが空き時間に下で無料で治癒術をかけさせて頂いてました」
と、ベッドの上でカノンを膝枕しながら事情を説明してくれるティータ。
治癒術士は貴重だそうなので変な事件に巻き込まれる心配もしたけれど、ティータ程度の治癒術士なら冒険者の中にもごく偶に居るそうで、よほどのことがなければ領主からの徴用などはされないそうだ。(とはいえ貴重なので、パーティへの勧誘はかなり多かったらしいけれど)
それでも魔物の討伐や、町の外に出ての活動の前に、指や足の怪我などちょっとした不安要素を解消できる治癒術が無料で受けられるとあって、とても喜ばれたらしい。
偶に魔力が少し減ってたのはそういうことみたい。
「それで、ティータ姉をギルドに残して、私とセレナは昨日一日、同じく駆け出しの頃にルミエさんにお世話して貰ったらしいザラオを拠点にしてる女の子3人のパーティと一緒に冒険者のいろはを教えて貰ってたんです」
とフォニアは楽しそうに追加の説明をしてくれる。
隣に居るセレナは少し口を尖らせているけれど、とにかく3人とも無事に合流できて何よりだ。
「セレナってば、まだ拗ねてるの?」
ティータは妹の不機嫌な唇の理由を、末妹が自分にだけ飛びついたことだと考えたみたい。
あれからカノンは一度はセレナにも顔をぐりぐりさせてしがみついて、フォニアにもまだ2度目の対面ながら再会できて嬉しいことを、子どもらしく全身で表現して見せたけれど、今はやっぱりティータのお膝だしね。
だけどセレナの反応はそういうのと少し違う。
「ううん、カノンがティータ姉大好きなのは仕方ないよ、小さい頃は私が遊んでる間もティータ姉がお世話してたわけだし正直私もティータ姉のこと大好きだし、頼りにしすぎてるところもあるから、そうじゃなくてね、薬草摘みでも魔物狩りでもフォニアさんは先輩パーティの人たちにいっぱいほめてもらえてたのに、私ほとんど役に立てなくてね?正直あまり思い出したくないっていうか・・・」
と、昨日の冒険者活動で自分がフォニアと比べてほとんど役に立てなかったことを悔しがっているのだとセレナは語った。
「あぁー仕方ないよ、私は森での活動も慣れてるけれど、セレナたちは実地での経験はほとんどないって話しだし、これから慣れていけばセレナもあれくらいできる様になるって」
と、フォニアはセレナの後ろから腕を回すとぐりぐりと頭をなでた。
「うやぁぁ、ちょっとフォニアさん!?うぁ、髪くしゃくしゃするのは止めて!」
たぶんセレナは本気では嫌がっていないかな?
フォニアと信頼関係は築けてるみたいだし、なんていうか女子っぽいおふざけだと思う。
女の子は軽めのスキンシップが大好きなのだ。
私の経験では同性同士なら普通に胸くらい触る。
・・・触るよね?
単に思った様に活躍できなくてションボリしてるセレナをフォニアが慰めただけだから、あまり気にしなくてもいいかな?
「それじゃあここを引き払って私たちと同じ宿に行くのは問題ない?」
「はい、もちろんです。私たちがお嬢様を追いかけていることはルミエさんたちにはお伝えしているので、こうして合流できたからにはそちらについていくことに何の障害もありません、ルミエさんも無事に再会できたことを喜んでくださって居ましたしね」
私の質問に微笑みながら頷くティータ、確かにルミエさんはアミィさん以上とも思える受付嬢らしい笑顔で私たちを出迎え、そして上の部屋を使って良いわよと言うときには目頭に光るものが見えた。
出会って数日のティータたちにどれだけ親身になってくれていたのか良くわかる。
「これからはお姉様たちと一緒に旅をして暮らせるんですね!うれしいのです!!」
と、ティータの膝枕にしがみついているカノンがますますがっしりとティータの腰に腕を回してうつ伏せで膝・・・というか太ももというか股の辺りに顔を押し付けて喜びの声をあげる。
「あ、こらカノちゃん、そろそろシャンとして」
と、ティータはカノンを起こそうとしているけれど、その頬は少し紅い、さすがに身内しか居なくてもそこで叫ばれるのは恥ずかしいらしい。
カノンはティータに嗜められても顔を押し付けたままで「えへへー」と嬉しそうに頬ずりする。
「もう、まだまだ子どもなんだから」
と、ティータが子ども扱いして頭をなでても嬉しそうにしている。
私やアリアから子ども扱いされたときは子ども扱いを嫌がっていて、合流したら子ども扱いしてかわいがってみようかなんて思っていたけれど、これじゃあただ喜ばせるだけね。
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しばらく話し合った後、ようやく平常運行に戻りつつあるカノンやセレナも伴って、冒険者ギルドである下のフロアに戻ると、室内に居た指笛や拍手によって私たちは迎えられた。
「よかったなぁティータちゃん!妹ちゃんたちと再会できたんだってぇ?」
「おめでとうティータお嬢ちゃん、フォニアちゃんとセレナちゃんも良かったなぁ」
「女ばっかりでの旅は心配だが、がんばれよー」
「てことは、タダヒール屋も店じまいかぁ、たった2日だったけど、すげぇありがたかったなぁ」
「ってか、あの2人えらい別嬪さんだなぁ」
「いや下の子らも絶対美人になるだろあれ、ザラオ拠点に活動しないかなぁ」
ちょっと私欲的な言葉も混ざってるけれど、わずかな日数でティータたちはザラオの冒険者に愛される存在になっていたらしい。
容姿の問題か、無料で治癒魔法かけてたからかわからないけど、悪いことではないよね。
私たちが男なら嫉妬ややっかみがあったかもしれないけれど、私たちも女の子だし、ジャンさんやエミールはすでに相方が居るし問題ないはず。
男2人に女10人というのは著しい偏りの様にも思えるけれど、2組の夫婦(片方は婚約者だけれど)を含む12人家族であると言えば、まぁあるはず・・・あるよね?
実際女10人のうち2人はジャンさんとリズ姉の娘で、ユティはジャンさんの妹、私もジャンさんの妹の様なものになっているつもりだし、アリアからカノンたちも5人で姉妹みたいなものと考えれば、家族構成としてはごまかしが効く範囲だと思う。
そう家族だ。
おそらく私は日本には帰れないし、私がこちらにくる直前に見た光景通りなら、私には帰る場所もないだろう。
あちらにはきっと、元と寸分違わない『冷泉睦月』が今も平和に日常を謳歌しているはずなのだ。
今の私にとって今家族といえるのはジャンさんたちと使い魔たちだけだ。
一緒にいることを誰かに邪魔させたりしない。
何かあっても押し通すつもりではいるけれど、なるべく波風立たない方がいいのも確かなので、不自然でないということはとても重要だ。
「ルミエさん、先ほどは挨拶もろくにせずにすみませんでした」
まずはこの場で一番の恩人の一人にアリアがご挨拶。
彼女とそのご両親だけが私が彼女たちの出身孤児院の運営資金を出している『お屋敷のお嬢様』だという『事実』を知っていて、その他の冒険者?たちはただ家族を探しているという認識のはずなので、一番年齢の高く見えるアリアに御礼を言ってもらう。
「いえいえ、うちでは女の子の新米冒険者の世話を焼くのは通例ですから、どうかお気になさらず。むしろ結果をみればこちらのほうが、無料での治癒魔法の行使に、フォニアさんは新人冒険者としては異常とも言えるほど森の知識があって、寧ろこちらが紹介したパーティの方が助けられたと感謝していました。セレナさんもその持ち前の明るさでギルドをにぎやかにして下さって、このまま看板娘としてとどまってほしいくらいです」
受付カウンターに立っているルミエさんは柔和な笑顔で答え、セレナの頬に手を伸ばした
「でも、探していたご家族と合流できたのですものね、またいつでも遊びに来て頂戴ね?短い間だけだったけれど、妹ができたみたいで楽しかったわ」
と彼女がセレナの頬を撫でた後、その指先には滴が光っていた。
セレナってば涙もろいところがあるみたい。
さっきまで活躍できなかったって不機嫌だったのに、降りてきてほんの少しの時間でぼろぼろ涙がこぼれている。
それだけルミエさんやギルドの冒険者たちに勇気付けてもらってたってことなのかな?
泣いているのを冒険者たちにいじられるセレナや、まだ女の子と言える年齢の冒険者数名に囲まれて別れを惜しまれているフォニア(となぜかカノン)、冒険者のおじさん、お兄さんたちに手を握られているティータを背景に私とアリアはルミエさんとここの支部長であるお父さんのミヒャエルさんとお話をしていた。
「私の『妹』達が大変お世話になった様で、ありがとうございました。『姉』としてお礼を言わせて頂きます」
と、アリアは頭を下げた。
結局アリアの希望で、使い魔たちはみんな同じ孤児院出身という裏設定にしたので、アリアは大手を振って4人を妹として扱い始めた。
全員同じ『私の実家が出資、運営している孤児院』出身で、同じ時に召喚したティータたち4人は表向きには単に姉妹とした。
ところで『うちの孤児院』美少女率高すぎませんか?
いやいや、数多くいる孤児院の出身者の中で、うちに遣えることになったのが美人ばかりだったということにすれば不自然じゃないかな?
能力はもちろん必要だけれど、容姿も優れている方が採用されるだろうし。
それなら私のことを貴族のお嬢様と誤認させる(私はそれを否定して)のにも役に立つはず。
貴族ならなおさら躾の行き届いた優秀かつ容姿の優れたメイドを雇うこともステータスになるだろうからね。
「いいえ、別に妹さんたちを特別扱いしたわけではなく、駆け出しの女性冒険者を支援するのは冒険者ギルドの業務のうちですから」
「むしろ雑用を手伝ってくれたりして、こちらが助かったくらいでしたよ、教育の行き届いたお嬢さん方ですね」
と、ルミエさんはにこやかに、ミヒャエルさんは穏やかな表情を浮かべて答えた。
これも『うちの教育』がほめられていることになるのだから、私は少し誇らしげにしておくべきだろうか?
実際のところ私は召喚しただけなので、雑用させても彼女たちが優秀らしいのは元々彼女たちが持っている実力だ。
それでも表向きには『私の実家』や年長者であるアリアの教育の結果だと言うことになる。
その事に何となく気まずさを感じながら、しばらく歓談を続けた。
先週の時点では少し恐怖を感じていたダブル台風はあまり影響を感じないまま、私の近所を通りすぎました。
更新と進行が遅くなり申し訳ありませんが今しばらくお付き合いいただければと思います。