G33話:港町ザラオ1日目・姉と妹
前回のあらすじ
仲間3人を探すために宿屋を出た私たち、美人さんなアリアと美少(幼?)女のカノンがとても目立つので、同じく美少女3人で目立つはずの彼女達が作戦通り家出中のお嬢様との合流を目指している体で冒険者ギルドに登録、私達を探し回っているならば、情報は入ってきやすいはずだった。
しかし、それは所詮浅はかな子どもの思い付いた作戦に過ぎなかったと私はまだ知らなかったのだ。
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人々の視線を集めながらザラオの町中を東の海の方に向かって進んでいくと、町並みにも少し変化があった。
私達が泊まった宿のある辺りは屋根の高さが揃っていて、道もまっすぐなところと曲線を描いた所とであっても道幅が整えられていて、緻密な都市計画を窺わせる町並が続いていた。
けれど外縁部から遠のくにつれて、屋根の高さや壁のレンガも不揃いな家がちらほら見られる様になり、道も所々工事中だったりしている。
初期の町並はこんな感じだったのかな?
グリモスに似てるといえば似ている。
そんな町の中を、後ろに美人なアリアを侍らせ、傍らにはすでに3回よろけた為にガッチリと私に手を繋がれているカノンが申し訳なさそうにしている。
ションボリ顔がまた庇護欲を誘うというか、さっきまでお姉様ともうすぐ会えるとあんなにはしゃいでたので、そのギャップが私の中の何かを刺激してる。
「そんな申し訳なさそうにしなくてもいいのよ?私もカノンのお姉様なのよ?最初からいってるでしょ?」
ションボリ顔もずっと見ていたいと思わなくもないけれど、カノンは笑ってる方が可愛い、特に困り顔の涙目から慰められたりして遠慮がちな笑顔に変わる瞬間のギャップが・・・またギャップかぁ、無自覚にギャップ萌え属性とか持ってたのかな?
「お、お姉様・・・ありがとうございます」
ヘニャりと笑顔に変わる瞬間に、キュンとしちゃう。
これこれ!このギャップが可愛いのよね。
悪そうなのに可愛いところがあるとかケンカ屋みたいなことしてるのに実は病弱みたいな本格的なギャップじゃなくて、カノンの素直さというか判り易く変わる表情が可愛い。
頭を撫でてあげたくなるけれど、残念ながら今そちらの手は固く握りしめているし、ここは道なので立ち止まって空いた手で撫でるのも良くない。
ここは我慢・・・と、ミニマップに他とは違う反応があるのに気が付く。
緑の○が3つ、ほぼ同じ位置にある。
これは間違いないんじゃないかな?
そっかぁミニマップと索敵があるから、作戦とかあまり意味がなかったかもね、私も自分のヘッポコぶりにちょっとションボリ。
でも、やることはやらないとね。
「カノン、アリア、この道を右側に進むわ」
と、私は正面に分岐している道を、進む予定だった直進ではなく南側にそれることを二人に示した。
「はい、お嬢様」
アリアは基本的に私の言うことに肯定的、迷うことなく返事が聞こえる。
しかし、私の隣のカノンは少しだけ混乱。
「あれ?あの、お馬の看板の酒屋さんから右に曲がると冒険者ギルドが近いって、あれ?え?」
オロオロと元行く予定にしていた道と、私の方とを見比べながら手を引かれているのでついてくる。
訳もわからないままに流されちゃって、可愛いなぁ。
誰でもついていくわけじゃあくて私を信用してくれてるってことだろうけど、ヘンな人に拐われたりしない様にしっかりと手を繋いでおこうという気持ちになる。
「どうもこっちにみんなが居そうだから、あっちはもういいかなって、少しでも早く会いたいしね」
目くばせしながらカノンを横目で見ると、最初はキョトンとしたけれどすぐに顔を赤くして嬉しそうな表情に変わる。
コロコロと忙しい顔だ。
「もしかして、お姉様達を見つけたのですか?」
カノンたちにも私が近くの使い魔の場所がわかることは教えているので、少しヒントをあげると慌てん坊でおっちょこちょいのカノンでもすぐに正しく気付く。
「うん、多分ね、聞いてた位置関係で言えば冒険者ギルドの辺りじゃないかな?」
私の答えにさらに喜色を鮮明にするカノン、少女らしい華やかな笑顔は、見ているだけで幸せをお裾分けしてもらえる類のモノ。
しかし、すでに何度もこけそうになったのを思い出したのか、やけに神妙な表情に変わると、逆の手も添えて私の手を両手でしっかりと握った。
反って歩きにくそうだけれど、可愛い妹分に頼られるのに悪い気持ちはしないので、なすがままにされてあげるし、歩きにくくない?なんて言わない。
言ったら放しちゃうだろうからね。
「手はしっかり握っててあげるから、喜んでて良いのよ?」
むしろ今は笑顔がみたい気分なので、そっとそそのかすけれど・・・
「へぁ!?勿論お姉様達に会えるのはうれしいですけれど、私もそんなに子どもじゃありませんですので!ほんの数日くらい離れてたからってそんな子どもみたいな、喜んだりしないのですよ!!」
っと今更な抵抗を見せる。
神妙な顔の中にちょっぴり笑顔が交ざったりして、子どもっぽいことが嫌なのかやけに拘るのがまた可愛い。
ティータ達と合流したら思いっきり子ども扱いしてあげるのも楽しいかも知れない。
これってSっ気なのかな?ううん、これも姉心よね?
さて、更に暫く歩くと、剣と杖とピッケルとが交差した例のエンブレムが見えてきた。
ミニマップの位置的にも、3人はやはりギルドの中にいる様だ。
グリモスのモノより大きな佇まいで、建物もやや新しそうに見える。
町の外縁側の建物に近い、大きさの均一なレンガを使った整った造りなので、近年に建てられたのだろうと思う。
更にグリモスのギルドと違って中に人の気配がたくさんある。
外観だけじゃなく活気もあるみたい。
人が沢山居るってことは、お約束のアレやコレもあるのかな?
『新顔かあ・・・ヘヘヘどんなもんか、いっちょ揉んでやるぜ』とか『おうおう姉ちゃん美人じゃねぇか、そんなガキじゃなく俺たちと冒険しようぜ、最初の冒険は今夜からだ。グヒヒヒ』とか、この場合の美人な姉ちゃんは勿論アリアのことだ。
グリモスのギルドはアミィさん位しか印象に残る出会いが無かったもの、今度は何かお約束が見てみたいところ、無論実害が無視できる範囲で・・・贅沢かな?
とりあえず中に入らないと始まらない、私はカノンの手を握り、騒がしい建物の中に入った。
カランカランというには些か錆び付きの感じられる金属音のベルを鳴らしながら室内に入ると、そこは外観の通りグリモスのギルドより2倍は広そうだった。
そして内部には20人程の人気があり、数名がこちらを注視した。
少し騒がしくしている右奥に使い魔の反応があるのはわかっているけれど、私は『追いかけられているかもしれない側』という設定なので彼女達が居る前提でキョロキョロするのはおかしいよね?
そこでまずは初めてこの支部にきた新米として不自然じゃない程度に見渡す。
採光のためか高い位置に大きめの木枠の窓が複数あり、割りと透明度の高い硝子が嵌められている。
白い粒がついて曇っているのが気になるけれど、海が近いので塩か砂粒だろう。
1階に対する半分近く2階部分が存在しそうで、恐らくここも住居兼ギルド支部なのだろう。
もしかするとギルド職員は人気がある職業かもしれないね、住居付なら食うに困らなそうだ。
さて、外観と同じ白っぽいレンガ作りの壁に、床は温かさを感じる板張り、所々朽ちかけてたり真新しかったりするのは、海沿い故に傷み易さに差があるので、張り替えも回数が多いのだろうなぁ、なんて考えてからひとまず目があった正面の受付のお姉さんに声をかけることにする。
「おはようございます、あの私たち・・・」
「ティータお姉ちゃん!」
初めてザラオに来たんですけれど、ね?
んー、感極まった幼い女の子に段取りとか建前的会話は無理だったみたい。
カノンは人混みの中に一瞬で愛しい姉の姿を認め、駆け出していく。
ていうか、以前はお姉様って呼んでたはずだけれど、体裁整えてたのね、素はお姉ちゃんらしい。
「わ!カノちゃん!?こんなに早く再会出来るなんて・・・神さま感謝致します」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!会いたかったよう!」
余裕のない様子で顔を擦り付けるカノンに対し、受け入れた姉の方はとても自然に飛び付いてきた妹を抱擁した。
近日中に再会出来ることはわかっていたので、これは演技のはずだ。
でも、そうだとわかっていても、この姉妹の再会の様子は神々しい。
召喚した時のシスター服ではなく、普通の(まだ3つの町村しか見ていないけれど)細かい飾りつけの少ない、実用性重視ぽいロング丈のワンピース姿をしていて、推定ノーブラCカップ相当の胸がカノンの手によって悩ましく形を歪める。
そういえば、カノンも何気なくおっぱい大好きよね、最初に会った時もその後も、後頭部や頭頂部にアリアやティータの胸をあてられて落ち着く場面が何度かあった。
「(いや私もあの柔らかさは好きだけどね)」
何度か手にしたアリアやカンナの胸の感触を思い出して手の平に幻の熱を感じながら、ちょっぴり羨ましい気持ちで姉妹の美しい抱擁を見やる。
そして、そんな姉妹の触れ合いを羨ましく思ったのは私だけでは無かった様だ。
「うー、私もお姉ちゃんなのに、カノンはいつもティータ姉ばっかり・・・」
「あー、よしよし、ティータ姉のあの包容力には中々勝てないよね」
3人でいる間に本当の姉妹の様に仲良くなっているセレナとフォニアがティータの居た位置からは少しだけ離れた場所に立っている。
髪の色が近いのでフォニアがセレナを慰めているのを見ると最初から姉妹だったみたいに見えるけれど。
長女ティータ、次女セレナ、三女カノンはもともと姉妹という設定だけれど、フォニアは狩人の娘という設定なので、本来は何の関係もないキャラクターだけれど、今の3人と1人はあたかも最初から姉妹だったかの様にしっくりときている様に見える。
何より髪の色が近かったのが大きいかな?
セレナの格好もティータみたく着替えていて町娘の格好してるし、フォニアはもともとの格好から革の装具を外しただけかな?
冒険者風の格好よりは女の子らしい輪郭が浮かぶけれど、もともとスレンダーなので胸がないのが目立つ結果になっている。
とはいえ身長差や数日で培われたとは到底思えない程のセレナの体から滲み出るフォニアへの信頼感、そしてフォニアからティータへの諦めとも羨望とも思える視線は、4人の付き合いが長いだろうと周囲に実感させるのには十分な情報量だった。
もう前回の更新日を見るのが怖くなるくらい空いてしまいました。
その後引越しを余儀なくされましたので、更新はまだまだ滞りそうです。
申し訳ありません