G28話:身勝手な言い分の中身と村長
前回のあらすじ
夜中に私とリュシーの寝る部屋に忍び込む者があった。
抵抗し、助けを呼んで事なきを得たけれど、相手は村長の孫のターキンだった。
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私とアリア、それにジャンさんとが、食事をやや簡潔に済ませてまで聞き取ったターキンの言い分はひどいものだった。
尚、カノンは治癒が必要なだけだったので聴取の間にちゃんと食事をしている。
育ち盛りだからね、本当は私もあと2年位は育つはずだけど・・・当事者が居ないとターキンがごまかすかもしれないので仕方がない。
そうそう、ターキンの言い分のことだ。
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「昨夜私の大事な妹と娘が眠っている部屋に忍び込んだ目的は、強姦か?」
簡単なブラフとアリアによる鉄拳制裁を施した後、やや厳しくジャンさんが尋ねると、先程までの強気はどこへ消えたのか
「は、はい・・・その通りです」
と、ターキンは大人しく認めた。
さっきまで強気で反抗していたけれど簡単な脅しで、その内容を理解する頭は持っていたらしい。
こんな田舎村だから、世襲村長の孫程度の身分でも、それは貴族の様に振る舞ってきたのだろう。
ターキンが言うに世襲になっているのは、代々の村長が、出稼ぎに出る女には数字と文字を教えるけれど、男には小さいうちから農業の手伝い、少し大きくなると漁業の手伝いを強制し、村長家の長男次男くらいまでしかまともに読み書きが出来ないからだ。
領主様には合議で選んでいると、届け出ているそうだ。
町役人のそこそこ偉い身分の人と繋がっていて、ボスコンの悪い噂も領主様には届かない様にしてもらっているらしい。
こんなに寒村でどれだけの賂が用意出来るかしらないけれど、下手したら出稼ぎに出ている女達の仕送り分位、全部賂につぎ込んでるんじゃないの?
それにしたって、文字が書けても、数字が出来ても、肝心の脳みそがこれじゃ村が保っているのは不思議でならない。
なお私を襲った理由について、まず日頃の様な表だった嫁勧誘がなかったのは、私たちの誰かが貴族だと考えたという、ジャンさんの読み通りの結果だった。
アリアのことはメイドに見えたそうだ。
折角服装を変えても私のことお嬢様って呼ぶから仕方がないね。
ついでにリュシー、リュリュは貴族の幼い令嬢に見えたそうだ。
「ガキに普通靴なんてはかせないからな、行商人の娘と見せかけて、みすぼらしい服を着せても、靴はいてりゃあれがお嬢さんだってバレバレだぜ、使用人のおっさんと顔も似てないしな」
と、自信がありげにターキンは笑ったが、ジャンさんに殴られた。
私を狙ったのは、私のことは貴族の令嬢かその影武者と判断した上で、開いた木窓の隙間から見たときにリュシーの事が私の影になっていて見えず。
私を襲ってモノにすれば未来の村長として、今の奥さんより見映えのする嫁がとれると判断したそうだ。
貴族の令嬢ならば未婚での姦淫というスキャンダルよりは、村長の嫁を選ぶと考えたらしい。
「いや、そういうの通用するの多分上位の貴族が下位貴族の娘相手にする時だけで、それでも普通は政略結婚を申し出れば大体は受けるだろうし(たまに家出もあるみたいだけど)、同格や下位相手なら王様に訴えでるし、貴族でもないならば一族郎党皆殺しにでもなると思うわ?こんな小さな村なら、村長家だけじゃ足りないって苛立ち紛れになにも知らない村人含めて皆殺しかもね?あなたのせいで」
この国の貴族全般がどうかは知らないけれど、少なくともあのロミオが未来に貴族当主となれば、苛立ち紛れに領民皆殺し位容易くやってのけるよね、別に憧れたりしないけど。
私の村民皆殺しという言葉に、ターキンの顔色は明らかに悪くなった。
「ま、待ってくれ、皆殺しって、まだ3つにもならない子どもも居るんだが!俺たちが死んだらどうやって生きていくんだ?」
と、事の重大さをわかっていないターキンは、まだ暢気な考えであった。
「皆殺しって言ったでしょう?生きていくことを考えるなんて必要ないわ、幸い今回は未遂だから私が領主様にお話しても皆殺しはないだろうけれど、役人がたどり着いた時にあなたが逃げてれば、監督不行き届きで村人全てが、そうでなくても貴方とご両親、村長位は処罰されるかもね、反省して真面目に働いているところを見せれば別かも知れないけれど・・・今後は賂も止めて、後ろ暗いことは一切なくして、村長も世襲は止めるべきね、そうでないとこんな魚の干物を細細作ってる程度の村、厄介事を起こすくらいなら、ないほうが良いもの」
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骨折なんかの重いケガだけ治してターキンを簀巻きにしなおしてベッド下に戻した後
結局は女が一人寝している様に見えたから侵入して襲った。
ただそれだけの事件だけど、村ぐるみでやっているのが問題で、多少の懲らしめが必要・・・だよね?
そうじゃなきゃ、ターキンだけ懲らしめてもまた村人の嫁勧誘で泣く子がでるかもしれない。
しっかりと支度を整えた私たちは、揃って空き家を出た。
掃除も終わらせたし、忘れ物もチェックした。
後は家の鍵を村長に返して終わりだ。
本来ならば・・・。
でもターキンによる不必要なもてなしをされたので、適当に懲らしめてやらないといけない。
それとなく村人に危ないところだったと示せば、今後は改めると思いたい。
そうじゃなきゃ、いつか本当に村人全てが殺される事態も引き起こされるかもしれない。
その時には、共犯の男たちは仕方ないとしても、ただ町に憧れを持っている少女が、本人の知らない罪で殺されたりするかもしれないのだから、それは見知らない女の子たちでも嫌だと思う。
馬車の中にユティたちは乗り込み、馭者席にエミール、私とアリア、ジャンさんが徒歩で村長宅前に移動する。
ほぼ同じタイミングで、もう二つの空き家の片方を借りていた行商の男性とそのまだ6歳だと言っていた娘さんとが、逆側から歩いてきていた。
私たちの方が先に村長さん宅前についてるけれど、これから少し騒がすし、先に行ってもらった方が良いかも?
と、ジャンさんの表情を窺うと、ジャンさんは小さく首を振る。
まぁ証人は居た方が良いかもしれない。
問題は少し下品な話を含むので、あの子に聞かせたくないってくらいかな?
それならばお願いしようかな?
馬車の後ろの方に近づいてカノンとユティに声をかける。
「ユティ、カノン、話が始まったらリュシーたちを連れて、あっちの行商人さんの娘に話かけてきて?あちらもザラオに向かうはずだし、同じ道を行くなら、お友達になっても良いはずよ」
ユティとカノンにはこれからどういう話をするか伝えてあるので、二人はただ頷いてくれた。
いよいよ、ジャンさんが村長宅をノックする。
「村長さん、鍵を返しにきたぞ!」
私たちは敢えて平静に振る舞うことにした。
あたかもなにもなかったかの様に振る舞うことで、村長に墓穴を掘らせたいと考えたためだ。
だから私は言いたいことがあるけど言えない、そんな表情を作り、2度と会えない家族や友人を思い涙を溜める。
こんな村に二度と来るもんか、そういう気持ちを視線にこめる。
女の子だもの、これくらいの演技はやって見せるさ。
「はい、はい、ジャンさんご一行ですな、はい確かに、いかがでしたかな?一晩限りの家とはいえ寛ぐ事ができたなら幸いですがな」
と、多分この世界でみた中では一番年を重ねている老人は好々爺の様な優しい笑顔を作るけれど・・・
「(目が笑ってない、私の顔から多分成功したとおもってる。それはそうだよね、同居の孫が帰ってないんだから、後は私の態度で判断出来るものね?)」
「えぇ、お陰様で、このムツキなんかは興奮してなかなか眠れなかった様ですよ?」
ジャンさんも、憎々しげな表情を隠す様な表情を作る。
商人だけあってなかなか役者だね。
皮肉だと捉えたのか村長は、いやらしい笑顔を浮かべた。
「それはよろしうございました。それほど気に入っていただけたならお泊めした甲斐がございました。おもてなしをさせていただいた孫も喜んでおることでしょう」
とりあえずこの老人はターキンが私たちの所にきたのを知っているね。
ならばこのまま捨て置くつもりはない。
心肝を寒からしめようではないか、これ以上の被害者は出させない。
ここで私は表情を切り替える。
「ええ、とても気に入りました。新鮮で元気が良いと、斬りつけた時あんなにもビクビクとするのですね、生きているまま解体するのは初めてだったので、興奮してしまいました。実家の父母に良い土産話が出来ますわ」
村長は明らかに顔色を変えている。
ターキンかと思ったかな?
残念お魚でした。
村長は何か口を挟もうとするけれど、そのまま続ける。
あちら側の行商人さんも声が聞こえるところまで来ているからね。
「ああ、そういえば、どの部屋も窓に嵌まっている格子が、外れる様に細工されていたみたいですが、あれはなんのために?火事などの備えにしては、事前の説明もありませんでしたし、ご存知ないのですよね?」
私の言葉に不味いと思ったのか村長はとっさに「はて・・・どういうことですかな?」
と、青い顔でしらを切った。
その場しのぎ、なら私はもっと責める。
「まさかとは思いますが、村のどなたかが忍び込みでもなさっているのでしょうか?もしそうなら、ご領主様に談判してこれらの設備を調べて頂いて、旅人・・・は個人の特定が難しいですから、行商人を中心に、ボスコンで不審なこと、そうですね、お財布が無くなったりしていないか、調べていただかないといけませんね、村長さん、証拠隠滅をされてはことです。建物に村人が近づかない様にできますか?」
と、尋ねると、すでに村長は青い顔であぁあぁとうわごとの様にくりかえしている。
村長にしてはあまりに考えなしな犯行だったみたい。
「そうそう、夕べ私の部屋に忍び込んだ男ですが、まだしゃべれる状態だった時に、自分は村長の孫のターキンだと、名乗っていましたが、まさか、あの空き家を貸し出している村長自ら、物盗りを指示されたりするはずありませんし・・・にせ者ですよね?ターキンさんは新鮮な魚を用意してくださった親切な方ですしね」
リズ姉が言うにはターキンは港で魚を買った後で重たいから運んであげようと言ってついてきていたそうだから、その時に私やジャンさんたちが馬の世話をしているところを覗いたのだろう。
今は簀巻きで口に布を噛ませているので喋れないから、早く拾ってあげてね?家の中をくるっと見回せば、あの部屋のベッドだけずらしたままになってるから、すぐにわかるはずだけど、今朝の時点で脱水症状をおこしかけてたから塩パンひと口と水を大量に飲ませたから今頃尿意と尊厳がせめぎあっているかも知れない。
「そ、そんなまさか、うちのターキンは深夜から漁に出ていますよ」
目が無茶苦茶に泳いでいる。
そんな村長の様子に、やはり主犯の一人だと確信を強め、アリアが、準備していた台詞を告げる。
「でしたらこちらで領主様に訴え出ておきますので、あの家の中においてきた暴漢の身体を、領兵の巡回時に引き渡しておいていただけますか?お嬢様は怖い思いをされましたし、あんなものを子どもを乗せた馬車に載せてはいけませんから」
「は、はい・・・」
今村長はターキンが死んだと思っているだろう。
だからその誤解をなるべく解かない様に台詞を気を付けている。
悪いことをしていた認識があるなら孫を失ったと思って反省することもあるだろう、そうでなければ逆恨みしてくるだろうけれど、今手を出してこない限りはこれ以上どうこうするつもりもない。
後でターキンを見つけたらその証言と、空き家においてきた手紙から私たちにからかわれていたこともわかるだろう。
そして、お忍びの貴族や役人の娘に手を出した時に起こりうる村の末路を知ればもう、こんな事件は起こさないだろう・・・多分。
後は知ったことではない。
それから無事に村から出発した私たちは、道連れとなった行商人の父娘デフロットさんとフルーレちゃんの馬車と共に、ザラオへの道を南下した。
次回からザラオです。
そろそろムツキのレベルを上げたいと思っています。
なにかと戦わないといけないです。