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G27話:身勝手な言い分と監禁

 前回のあらすじ

 嫁不足で有名な漁村ボスコンで一夜の宿を得た私たち。

 警戒していた強引な嫁取り行為なんてなくて、私は一番くっついているリュリュではなくリュシーと眠ることになったのだけれど・・・。

---

 

 ふと、目を覚ましたとき、まだ夜中だった。

 すぐ傍らに熱を感じて見ると、4、5才の女の子がスピスピと寝息を立てている。

 安心しきった顔だ。

 リュシーと二人きりの部屋、私は窓側、リュシーは扉側、私のすぐ脇にくっついて私の大きくはない胸に手を乗せて、微かに力が込められているけれど、頼られている。必要とされている感覚がとても心地よくて、私は再び目を閉ざし、幸せを噛み締めていたのだけれど・・・


 カタカタカタカタ・・・海が近いからか窓が音を立てる。

 そういえば、私は窓に格子が嵌まっていたのを確認して、小さく窓を開けて寝たはず。

 それならば、こんなにも窓がカタカタとなるのに、どうして部屋の中には風が吹かないんだろう?

 幸せと睡魔に蕩けた脳では考えは纏まらないし、目を開けようという気にもならない、今は少しでもリュシーのお手々の温もりを少しでも敏感に、感じていたいのだ。

 カタカタカタ・・・パコッ

 ん・・・パコ?

 何の音?

 ギシギシギシ・・・

 何か床を軋ませる音!誰か入ってきてる!!


 とっさにリュシーの手を体の横に避けながら、体を起こして、目の前の空間を見ると誰かが、眩いばかりの光を手から放っていて

「きゃ・・・ん」

 眩しさのあまり私は反応が遅れてしまった。

 ベッドに入った後、もう少し明度を下げておくべきだった!

 人影は光を放っていない方の手で私の口を塞ぎ、そしてその手の皮の硬さに、私を跨ぐ様にしてのし掛かってくる力の強さに、私はその相手が男だと悟った。


 女の寝室に男が入ってきて、最初に殺さずに口を塞いでのし掛かってくる理由って・・・

 ゾクリと怖気立つ。

 すでに脚の稼働域は潰されている。

 眩しくて相手のタイミングがわからずそのまま押し倒されてしまった。

 隣に寝ているリュシーに気付いているかどうかわからないけれど、リュシーに何かされる前に何とかしないと・・・幸い相手も片手に多分蝋燭か何かを持っていて私を押さえているのは風除けごと体を押さえている下半身と、私の口を押さえている恐らく利き手だけ、私の腕はまだ自由だ。

 私のSTR15という数値がどれ程のものかわからないけれど!!


「んー!!」

 私は抵抗する。

 いったい何者か、眩しくて顔も見えないけれど、相手は女相手だと油断していたに違いない、組み敷いてしまえば与し易い女子どもだと・・・高を括っていたのだろう。

 でも、お姉ちゃんは強いのだ!

 横にいるリュシーに危害か加えられる可能性がある以上、怖くても震えているだけなんて許されない。


 握り、振り回した拳が何かを叩いたのが判る・・・その瞬間。

 ボグン!

「グフェ!」

 妙に軽快な音が耳に届き、拳には何かを壊した感覚があって、さらに遅れてくぐもった悲鳴が耳に届く。

 そのまま、当たった場所目掛けて今度は両手の掌を合わせて突き飛ばすと、ギャっと短い悲鳴が聴こえて体の上にのし掛かっていた重さが消えた。


 私はすぐにシステムの明度を少し下げながら声をあげる。

「アリアー!」

 緊急召喚という選択肢もあるにはあった。

 けれど、あれは真に隠し札の様なものだし、さらにあちらでもこれから戦いになる可能性があるのだから、共にいるカノンにとって危険な行為になりかねない。

 マップを見たいところだけど、さすがにそこまでの余裕はないよね。


「乙女の寝室に侵入するなんて、許せない!」

 ベッドから立ちあがり、壁に寄りかかって座ったままの目の前の男を睨み付ける。

 男の持っていたカンテラは対した光量を持っている訳ではない、ただ私の顔を見るために近付けられたのを凝視してしまったために明度をあげていた目が耐えきれなかったらしい。

 男は多分知らない顔だけど、これが強引な嫁取り行為だったってことかな?

 だとしたら容赦は必要ないよね?

「ってー、可愛い顔してなんつー馬鹿力だよこのガキ、傷害行為で領兵につき出してやる!」

 言うに事欠いて被害者面!?


「お嬢様!」

 バン!と音を立てて、アリアが部屋に入ってくる。

 扉は鍵がかけられる様になっていたけれど、どうせ家族同然の皆しか家の中には居ないので鍵をかけていなかった。

 だからアリアは何の障害もなく入ってくる。

 そしてさらに間髪を入れず

「ムツキ!リュシー!無事か!?」

 私の声を聞き付けて、ジャンさんも来てくれた。


「アリア!ジャンさん!」

 私は、私の声のせいで目を覚まし、不機嫌そうに身をよじるリュシーを抱き上げて、ジャンさんの方に走る。

 同時に状況を判断したアリアが、侵入者の男を締め上げる。

「ぐぇ・・・」

「大丈夫そうだな?何があった?」

 小さなランプを持ったジャンさんは安堵した様子を見せながらリュシーを片腕で受けとる。

 するとリュシーは寝起きに現れたパパに甘えてしがみついて、そのまま眠りの世界に戻っていった。


「わかりません、リュシーと寝てたら物音がして、その人が私を組伏せて、口を押さえてきたので殴りました・・・ヒャア!」

 慌てていたので忘れていたけれど、今の私は下着(ノーブラ)にブラウスを羽織っただけの姿、とても殿方の前に出て良い格好じゃない。

 光源が男の持っていたものとジャンさんが持っている物だけだからあまり見えてなかったはずだけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


 慌ててベッドまで戻りスカートに脚を通す。

 これで最低限平気。

「それじゃあやっこさんの顔を拝ませてもらおうか・・・こいつ村長の孫だな」

 アリアに意識を刈り取られた男は、情けなく伸びている。

 そしてアリアは

「この男に何を目的に忍び込んだのか聴きたいところですが、リュシーちゃんやお嬢様の安眠の方が大切です。このまま拘束して、私どもの部屋で寝ましょう」

 と提案した。

 私とジャンさんも異論はない。


 正直気持ち悪いという印象は残るけれど、少しでも早く一時的でもいいので男のことを忘れたかった。

「じゃあそうしよう、窓は締めて・・・そっちの使ってない方のベッドの敷布で巻いて、これで縛れば大丈夫かな?」

 と、本来は物を干すのに使うらしい紐を渡す。

 するとアリアは手際よく男を簀巻きにして、縛り上げた。

 脚を折り曲げた状態で縛っているので恐らく脱出は難しいだろう。

 更にそのままベッドの下に転がしてもうひとつのベッドをずらして設置する。


 そして、ひと安心した私は、そのままカノンとアリアの部屋へ、ジャンさんは念のためにエミール達の部屋に向かったリズ姉を回収して、リュシーと3人で部屋に戻った。

 アリアたちの部屋は、なぜか二つのベッドが寄せてあったので、私たちは川の字になって寝た。

---

 そして翌朝・・・。


「昨夜私の大事な妹と娘が眠っている部屋に忍び込んだ目的は、強姦か?」

 ジャンさんは最初からとても直接的な言葉で、村長の息子ターキンを問い質した。

 不謹慎かもだけれど、妹と扱ってくれるのがうれしいね。

 この場に居るのは当事者である私と、ターキン、ジャンさんとアリア、カノンの5名、そして所は昨夜の現場である。


 当事者ではあるものの、リュシーは同席させるわけにもいかない。

 なので、他の皆は今隣の食堂的な部屋で休憩している。

「は、はい・・・その通りです」


 強気はどこに行ったのか、ターキンはおとなしいもので、怯えきった様子を見せている。

 それというのも先程私たちがそうさせたのだけれど・・・。

---

 昨夜の私の一撃で彼の肋骨は軽度の骨折かひびになっていたらしく、朝簀巻きから解放するとターキンは喚いた。

 曰く、「村長の孫であるこの俺にこんな大怪我をさせて無事にすむと思うなよ!お前らは村で強盗を働いたことにして領主様に訴えてやるからなぁ!」

 とのことだった。

 なので、ちょっとこらしめてやろうと考えた私たちは、昨日と同様ちょっとしたはったりを利かせることにした。

「アリア!」

「畏まりました」

 ドン!ドス!

 アリアは私の言うことをすぐさま理解して、ターキンの口を塞ぎながら立ち上がらせると壁に押し付け、更に腹に少し軽めの一撃を加える。

 男女だけれどこれって壁ドン?

 ターキンはドキドキしてるね、主に命の危険を感じて。

 アリアが口を離しても叫ぶ訳でもなく呻くばかりだ。


「カノン」

 次はカノンの出番だ。

 既にジャンさんたちにはカノンの治癒術のことはばらしている。

 無論口外は無用としているけれど、今回はその治癒術の希少性と有効性を使うことにした。

 言葉使いなどもカノンに言い含めてから、私はカノンをターキンの前へ連れ出した。


「お嬢様、こ、この男をですか?ですが、この男は昨夜お嬢様に手を、手を出そうとした不届き者なのですよ?わざわざ治療するまでもなく、無礼討ちになさっても宜しいのでは?」

 と、少し緊張はしているもののカノンはしっかりとセリフを言い切る。

 この世界での無礼討ちとは、日本の時代劇に出てくる様なこいつら沸点低すぎ!よくそんな制度許されるね?なモノでも、実際の江戸時代にあったという厳格な斬捨御免とも異なり、身分のあるものが正当防衛の為に相手を殺す行為で、わかりやすい例を挙げるならば、ある程度身分のある女性の部屋で家族や家臣ではない男が斬られた場合には、ほとんど取り調べを受けることもなく殺害が合法化されるというモノがある。


「さすがに、私の領民ではない者を無礼討ちしては領主様にお詫びの一言も必要になるでしょう?折角のお忍びなのに、それは面倒臭いもの、それに服に血糊がついたりしても嫌だわ・・・だから、お願いね♪」

 カノンは打ち合わせの通りため息を吐くと治癒術を行使する。

「痛く、無くなった・・・?まさか治癒術?」


 治癒術はそれなり以上に希少で、その使い手は引く手数多であるという。

 それは、治癒術というものの使用可否がかなり素質に左右される上に、それなりに人の体に詳しく、なおかつ修得までにそこそこの時間を要する上に、教師役となる治癒術士自体も貴重だからだ。

 大半の者はうまい飯の種を安く売ったりしない。

 たまに善意により無償に近い治癒術学校を建てようとする者も煎るが、そもそも素質が必要になる上に、同業者から潰される結果になることが多い様だ。


 アミィさんの話では帝国時代には国・・・というか、当時の皇太子主導で治癒術学校を造る計画もあり予算と人員も集められていたそうだけれど、その初年度が七王三相の乱の勃発した年のため、どさくさ紛れに学校も潰されたらしい。


 そういった事情もあって治癒術士というものはそれだけでも希少で、それもカノンの様なまだ年若い、美少女と呼んで差し支えないだけの容姿をした者を従えている。

 その意味が僻地の者とはいえわからない筈がない。

 本当にただの偶然そういった存在を見出だしたか、とても裕福な家が「お嬢様」を心配して、側にいてもおかしくない娘を一体どれ程の報酬と引き換えにかわからないが付き人にしたかだ。


 大貴族であれば、お抱えの治癒術士等がおり、治癒術士は自分の子に治癒術の継承を試みるものであるので、年若い治癒術士の当ても有り得る。

 そう誤認させるためのやり取りもした。

 でも私からは一度も貴族だなんて言わない。

 身分詐称は怖いので。


 これで大怪我とやらは消えた。

 そして、治癒術が使える以上怪我をさせても治せることを示した。

 これが意味するところは彼にとっては詰みに近い。


 まず現場は宿代わりに有料で貸し出している空き家、その窓の格子に仕掛けられた仕掛けを使って乙女の部屋に侵入。

 ボスコンが空き家を宿屋代わりに貸し出しているのは有名な話らしいので私たちがこの空き家を不当に占拠したなどという事実を信じるものは居ない。

 この時点で私がこの村の所有物むらびとでもなければ、無礼討ちが成立する。

 金を取って宿泊させて置いて部屋に忍び込む、それも家自体に細工がしてあって侵入を容易く可能としていることは、この村が常態的にそれを行っていたとみなされるのだ。


 次に彼自身の身柄に関する事だが、治癒術の存在によって、どの様に扱おうともこちらが有利になった。

 怪我をさせても治せると言うことは、彼の言う傷害行為で訴えることは完全に無理になった。

 無傷で解放する予定ではある。

 でも、ボコボコの状態で解放する事もできる。

 領兵につきだされても、治癒術が使えることを示せば、傷害罪を問われることは稀だ。


 むしろ前述の村ぐるみの罠を隠すために濡れ衣を着せようとしていると主張すれば、あちらの詰みになる。

 あとは、一体誰までが関与しているのかを確認して、場合によってはこんな詰んでいる漁村、一度も無くしてしまっても構わないだろうし、ザラオ等を治めているという領主様に訴えでるのも手のひとつだろう。

 ザラオ、グリモス間の移動は休憩地点が無くなってしまうけれど、それぞれひとつ西の町同士の間にも行商路はあるそうなので、問題行為が多い村ならばいっそないほうが良いのだ。

---

「じゃあ、ケガも治したから、このまましばらく反省すること」

 ある程度言い分を聴いてやり、その度に苛立ったジャンさんとアリアがターキンをなじり、蹴った。

 最後には傷を治療してやり、再度簀巻きにしてベッドの下に転がす。

 そして、ターキンを部屋の中に監禁したままで、私たちは支度を整えた。


最近モブのキャラ名を決めるのに毎回(休憩)時間を消耗しています。

もうでてこないだろうキャラに時間を取られた恨みからか扱いがぞんざいになりがちです。

もし名前が被った人がいたらごめんなさい。

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