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G26話:嫁不足の村で

 前回のあらすじ

 グリモスでチンピラに絡まれたことをジャンさん達に説明した。

 私たちは、グリモスとザラオの間にある田舎の港町、ボスコンへと南下を続けた。

---


 先日の狩場も越え、いくつかの小さな丘陵も迂回して南下を続けた私たちは、3度ほど、小規模な獣や動物の群れもやり過ごして、何とか日の傾く前に、ボスコンの村にたどり着いた。


「いやームツキは危険察知と観察力がすごいな、お陰でロードランドッグの群れの風下に回れて絡まれずに済んだよ、あれに見つかってたらあと数時間は遅れてた。馬が怯えるからな」

 と、ジャンさんは機嫌よく馬の世話をしている。

 この村では、グリモス以上に人が少ないため、宿と言えるほどの設備がなく。


 旅人向けの施設としては、空き家が3軒解放されていて、そこをお金で借りて、食事や馬の世話なんかは自力で何とかしてくださいというものだ。


 私も少しは世話を手伝いたいと言うことで、アリアと一緒に道中で採取した何とかという草を短く切り揃えながら、馬の前のかごに納めていく。

 更にアリアは、魔法を使って水を出せるのでそれを使って馬の体を拭いてやる。

 馬の名前はメルセデスとテスタロッサ、どちらも気立ての良い女の子で、乗馬にも向いているそうだ。

 温かい馬体をブラシで撫でていると、なにか独特の芳香がして、思わず深呼吸してしまうくらい。

「今日もご苦労様、メルセデス、テスタロッサ」

 声をかけながら撫でていると馬も機嫌良さそうにブヒブヒと声をあげる。

 よく見ると長い睫毛が愛らしいね!


「思ったより、嫁取り攻勢は大人しかったですね?」

 村に入るまで警戒していた強引な嫁勧誘はなかった。

 すんなりとこの空き家を借りて、こうして外から丸見えな馬屋で馬の世話をしていても、ちらりと見てくる人は居ても、声をかけてくる人は居ない。


「思うんだが、多分二人の雰囲気のせいだろうな」

 と、ジャンさんは馬達の寝床を整えながら呟いた。

「雰囲気?」

 聞き返す私に、ジャンさんは手を止めないままでさらに呟く。

「うん、二人とも何となく教養を身に付けた高貴な家の出っぽい雰囲気があるからな、それにアリアさんは美人過ぎるし、ムツキも将来美人だと確定してる見た目だからな、正直お忍びの貴族にでも見えてるんだろうよ?」

 と、ジャンさんは推測を口にする。

 そんな雰囲気が出ているの?とアリアをみると、確かにただ者ではないよね容姿もスタイルも・・・。


 馬をなで擦り、微笑んでいる姿も、どこか良いところのお嬢さんに見える。

 私は家族のお手伝いって感じだけど、アリアは乗馬が趣味のお嬢さんかなって感じ。

 絵面が綺麗なんだよねえ・・・。


 馬の世話を終えた後、ジャンさんはゴミを処分しに行き、私たちはお先に今夜の宿であるところの家に入ると、芳ばしいバターの匂いが鼻をくすぐった。

「あ、良い匂いだね」

「そうですね、なにか魚を焼いている様ですね」

 そろそろ減ってきたお腹には、少し刺激が強い。


「馬の世話ご苦労様、お湯沸いてるから体を拭いてきなさい」

 私たちの気配に気づいて、台所からリズ姉が声をかけてくれる。

「はーい、行こうアリア」

「はい、お嬢様御一緒させていただきます」


 この村の家にはお風呂がない。

 代わりに、湯桶にお湯を沸かして、湯冷ましと混ぜて体を拭く。

 そのための部屋に向かう。

 体を拭く部屋は結構大きめなスペースが用意されていて。

 手前の部屋には、ユティやカノンたちの脱いだ服があったので想像はついたけれど、部屋の中にはすでに4人が居て、体を拭き合っていた。


「あ、きたきた。馬のお世話お疲れ様、お湯も今沸いたところだから、気持ちいいよ」

 と、ユティが最初に気付くと、濡らした布を被せられてホッコリしていたリュシーとリュリュが反応する。

「アリアちゃーん」

「ムチュキおねえちゃ、きてー」

 二人の薄い肌は、血行が良くなってピンク色になっている。


 大股開きで床に座り込んでこちらに腕を拡げて歓迎してくれるリュリュの可愛さに少しクラっとくる。

「うん、今行くね、リュリュ~可愛いよーチュっチュ!」

「キャー、シシシ、くちゅぐったい」

 裸ではしたないかもだけど、女の子しかいないしまぁ良いよね?

 裸んぼ同士で、リュリュを抱き上げ、抱き締めると、ぽっこりしたお腹が私の胸の辺りに当たって、匂いを嗅ぐと馬体とは違う、甘い匂いがする。


 そのまま胸の辺りに口をつけて、ブフーと息を吹くとブボボボボと音がして

「ギャハハハハハ!ハハハハ!!」

 と、リュリュは大喜びしてくれる。

 このまま食べちゃいたいくらい可愛い。

 だけど少しおふざけが過ぎて


「ムツキお姉ちゃん、夕飯前だから、あまり疲れさせないでね?」

 と、ユティにしかられてしまった。

 ご飯前に寝てしまうと、さすがにリュリュが可哀想なので、ほどほどにして、お湯をかけながらリュリュの体を拭き始めるとリュリュは気持ち良さそうに体を弛緩させる。

「うゃー・・・」

 私の腕の中で気持ち良さそうにしているリュリュを見ていると、何とも満たされた気持ちになる。


 十分に体をきれいにした後、ジャンさんと、エミールと入れ替り、更に10分程待ってから、リズ姉が作った白身魚の塩バター焼きを食べて。

 この日は早めに眠ることにした。

 部屋の割り当ては、夫婦のジャンさんとリズ姉で1部屋、夫婦の振りをしているエミールとユティは一緒の部屋だけどリュリュワンクッション付き、私はあまり組みなれてないリュシーと、アリアはカノンと同じ部屋で寝ることになった。


「ムチュキおねえちゃはこっちね!」

 と、部屋にはベッドが2つあるけれど、その片方に勢いよく乗ったリュシーは、自分のすぐ隣をバシバシと叩いて示す。

「一緒に寝ると暑いかもよ?」

 何せ季節は夏、日本の夏より乾燥してるとはいえ、昼寝くらいなら良いとしても、本格的に寝るにはちょっと暑いかな?と思うのだ。

 特に冷え性の私は薄手の布を被って寝るから、汗をかきやすいリュシーが汗疹になったりすると可哀想だ。


 でも私のそんな気遣いは、リュシーには伝わらない。

「ムチュキおねえちゃ、リュチーといっちょヤなの?」

 と、寂しそうな顔をさせてしまい。

 私の中の罪悪感がマッハだ。

 ここは私の冷えか、リュシーの寂しさかの二者択一・・・となれば、どんな時でも、妹の望みが間違いでないなら叶えてやるのが姉の務めだよね!


「ううん、ごめんね、一緒に寝ようね!」

 と、リュシーの隣に座ると、リュシーはニッコリと笑顔を浮かべて、ゴロンと横になった。

 この笑顔を守るためなら冷え性くらい我慢するよ。

 でも、今夜はブラウスを脱げないね。

 後は身長差でかからないから私の脚にだけ布をかけておくかな。


 と、そこまで考えて気がつく、元々風邪避けの布はリュシーにもかけるんだから別に二人で布被って寝ても良いんじゃない?

「リュシー、ヒラヒラかけるよ?」

「いいよー?」

 私はまだあかり(例によって魚の脂に)を消さないといけないので一度リュシーの体だけに布をかける。


「じゃあ火消すから、一回お姉ちゃん立つよ?」

「うん!」

 一応リュシーの許可を貰いながらしないとね、不機嫌にさせたら大変だから。

「少し窓も開けるね、魚臭いから」

「くちゃいもんねぇ」

 窓は鍵がかからないけれど格子がはまってるし、開けてても大丈夫だよね?


 板の窓を3センチばかり開けてベッドに戻る。

 暗くて危ないので、明度をいじって明るくなりすぎない程度によく見える様にすると、楽しそうに笑っているリュシーの顔が見える。

「うぇひひ、まっくら、おねえちゃのおかおみえないー」

 うん、こっちはばっちり見えてる。

 私がベッドの上に戻ると、リュシーはおかしそうに笑いながら私の体をまさぐってくる。

「あはは、リュシー、くすぐったい。早く寝ないと、明日朝出発できないよ?ほらちゃんと風避け被って?」

 と言いつつ布を被せてくるんでやると、2分程リュシーは暴れたものの、あっという間に夢の世界に旅立ってしまった。


「本当に可愛いんだから・・・私も寝よ」

 寝た子を起こすのはダメなことなので、私もリュシーに被せた風避けをそのまま一緒に被る。

 この数日で嗅ぎ慣れた甘い匂いがする。

 寝る前に暴れたからかちょっぴり酸味も感じる匂いだけど、不快感はないね。


 こうしてこの日も色々あったけれど、何とか穏やかな眠りを迎えることが出来た。

 そう思っていたんだけれど・・・。


 ふと目が覚める。

 カタカタ・・・カタカタ・・・

 海が近いからだろうか、窓がカタカタと音を立てている。

 まぁ自然のすることだし仕方ない。

 それより、仰向けに眠る私のすぐ左脇に温かいのがくっつきむししてる。

 なにこれ幸せ?

 小さなお手てが私の胸をつかんでいるけれど、嫌な感じはしない。

 冷え性も窓の音も気にしてる余裕がない。


 カタカタカタ・・・パコッ

 ん・・・パコ?

 ギシギシギシ・・・

 人の気配!?


 体を起こして、目の前の空間を見ると誰かが、眩いばかりの光を手から放っていて・・・

「きゃ・・・ん」

 叫び声をあげようとした私は、光を放っていない方の手で口を塞がれてしまった。

 その手の皮の硬さに、私を跨ぐ様にしてのし掛かってくる力の強さに、私はその相手が男だと悟った。


ムツキ史上最大のピンチです。

眩い光を手から放つ謎の男の正体はなんなのか・・・多分バレバレとは思うのですが次回に続きます。


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